銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第17話:銀河に脈打つ謎

#03

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 ホテルの広いロビーに並んだ、休憩コーナーの一つで待つ、ノア達の前にやって来たテン=カイは、以前と同じようにゆったりとした衣装を着て、黒いホログラムスクリーンで顔を隠した、小振りの編み笠型ヘルメットを頭に乗せていた。
 その如何にもな不審人物ぶりに、この男とは初対面のラン達、四人の女性『ホロウシュ』は、当然の如く警戒感を露わにする。

「四人とも、大丈夫です」

 彼女たちの反応に対し、ノアは微笑んで静かに告げる。これに一番最初に警戒を解いたのはランであった。
 ランはまず自然体のままでいるメイアとマイアの態度を見て、信用してよいのだろうと判断したようだ。対するテン=カイは編み笠型ヘルメットの端を指で挟み、四人に軽く頭を下げて、自分の非礼な姿を詫びた。

「お久しゅうございます、ノア姫様。ご壮健そうで、嬉しく存じます」

 ノアに向き直ったテン=カイは、改めて深く頭を下げ、加工された電子音声で挨拶する。ノアはテン=カイに、向かい側に座るよう右手で促し、穏やかに応じた。

「ありがとうございます。テン=カイ殿も、お元気そうで何よりです」

「ノヴァルナ様も、お変わりありませんでしょうか?」

 テン=カイの問いに、ノアは苦笑いを交えて答える。

「はい。相変わらず敵ばかり作っていますが、元気にしております」



 そこからノアとテン=カイは少しの間、互いの近況を述べ合ったあと、本題としている“双極宇宙論”へ話を進めた。

「…ところでテン=カイ殿。“双極宇宙論”についての、手掛かりとは一体?」

 テン=カイは「はい…」と頷き、「まずこちらを」と懐から、プレート状に加工された青い透明結晶体を取り出した。テーブルの上に置いてノアの前に差し出す。

「これは…大昔のメモリースティック。いえ、メモリープレートですか」

 現在の銀河皇国で使用されているメディアは、直径6ミリほどの細長い六角柱型のメモリースティックだが、百年ほど前までは厚さ3ミリほどの、薄いプレート状のものが一般的であった。さらに何世紀もの大昔に、キヨウで使用されていたメモリーカードなどよりは大きいが、記録できるメモリー量が何十万倍にも増えている。

「これはイズンミ宙域の、とある惑星に保管されていたものです。エルヴィスの一件のあと、私は独自のルートで“双極宇宙論”の手掛かりを求め、これを…“双極宇宙論”について説かれた論文の、コピーを発見する事が出来ました」

 テン=カイは淡々とした口調で告げた。
 
「このプレートの中に…」

 ノアはメモリープレートを手の平に乗せて、見詰めながら呟く。“双極宇宙論”の概略については、ムツルー宙域にいる友人で、次元物理学研究者であった、ルキナ=エンダーから聞かされていたが、どのようなものであるかの詳細は不明で、いまのノア達が住む宇宙と対になる、もう一つの宇宙の存在を、提言する理論とされている。
 ただ、この理論は今からおよそ百年前に構築されたものの、その後は科学史の中に埋もれていったらしく、現在では詳細不明の、“失われた理論”の一つとなっていた。

「はい。しかしながら、なにぶん百年も昔の代物ですので、今の規格とは違っておりまして、スキャニングでも記録されているデータが、“双極宇宙論”という事以外は、確認不能なのです」

「では、どうやって中のデータを、取り出せばいいのですか?」

「このラグートに本社があるフェナエス工業は、百年前にこのメモリープレートと同じものを、製造・販売していました。同社が所有しています資料館に、このメモリープレートを使用する、当時のデータパッドが稼働可能な状態で、展示されておりまして…」

「なるほど。それを借りるわけですか」

「さようです」

 このテン=カイの言葉を聞き、ランは眉をひそめて問いかけた。

「僭越ながら、お伺いしたいのですが…」

「なんでしょう?」とテン=カイ。

「それでは、このメモリープレートの中身自体を、確認出来ていない状態のまま、ノア姫様をこのザーカ・イーまで、お招きになったのですか?」

 そう尋ねるランの口調には、咎める響きが含まれている。無理もない話だ。メモリープレートの中身が、本当に“双極宇宙論”の論文であるのか、確かめられていないのに、星大名家当主の妻を一万光年ほども遠くへ、呼び立てたのであるから。

「それについては、心よりお詫び致します」

 そう言って頭を下げたテン=カイは、さらに続けた。

「しかしながら、この件につきましては現時点であまり多くの方を、巻き込む事は出来ませんので、メモリープレートの開封に必要な方として、ノア姫様を直接お招きした次第です」

「と言いますと?」と、ノア自身が尋ねる。

「はい。私はある理由で、NNLシステムを体から摘出しており、フェナエス工業の資料館に入るための、身元照会が行えないのです」

「NNLシステムを摘出?」

 テン=カイの思わぬ発言に、ノア達全員が目を見開く。幼少期にNNLシステムとの融合を行う事が出来ずに、後年になって移植するケースはあっても、すでに体と融合していたシステムを摘出するなど、聞いた事が無かったからだ。
 
「なぜ、そのような事を…?」

 キスティスはテン=カイに問わずにはいられなかった。彼女とジュゼとキュエルの三人は、元はナグヤ市のスラム街に生まれた貧民の子で、ノヴァルナに『ホロウシュ』として仕えるまで、NNLシステムの半生体ユニット端末を、融合されていなかったからだ。
 NNLシステムに接続されていない人間は、銀河皇国では市民権を与えられず、行政や様々な社会サービスが受けられない。その不便さを、キスティス達三人は身に染みて分かっている。であれば、テン=カイがNNLシステムを摘出した事が、驚きであっても当然だろう。

 しかしこのキスティスの問いに対する答えは、ある程度予想されたとはいえ、相変わらずの謎の人物ぶりだ。

「申し訳ございませんが、理由についてはご容赦ください」

 ただこれに続けて述べたテン=カイの話では、この謎の人物は完全にNNLシステムと、分離しているのではないらしい。それは彼が頭部に被っている編み笠型ヘルメットである。このヘルメットには、NNLシステムへのアクセス機能が備わっており、これを被る事で限定的だが、テン=カイもNNLを利用できるという。

「―――ですが、この笠の限定されたアクセス機能では、身元照会が必須事項である認証方式は、クリアする事が出来ません。そこで無礼と知りつつ、ノア姫様に直接お確かめ頂こうと考えました」

 これを聞いてノアは「わかりました」と了承した。それを「宜しいのですか?」と再度確認するラン。「構いません」と頷くノア。ノアにしてもテン=カイが口にしたように、この件に関してはノヴァルナと自分だけが行っている調査であって、あまりウォーダ家やその他の人員を、今の段階で深くは関わらせたくないのが本音であったからだ。なのでノヴァルナが、護衛に『ホロウシュ』ラン達四人を加えた辺りが、限界ラインといったところだろう。無論、何か危険性が感じられた時は、即時撤収の予定である。

 即断即決。動くとなるとすぐ動くのは、似たもの夫婦のノアだった。

「そうと決まれば早速、そのフェナエス工業に出向きたいのですが、先方と話はついているのでしょうか?」

「はい。姫様がこちらにおいでになる旨の連絡を頂いてから、すぐに先方に伝え、いつでも歓迎致しますとの返答を得ております」

「なるほど。ではこれからすぐに、訪問致しましょう」

 言い終わるや否や、席を立つノア。これあるを予想していたらしく、カレンガミノ姉妹が無駄のない動きで、護衛ポジションにつく。



▶#04につづく
 
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