銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第17話:銀河に脈打つ謎

#04

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 ノアが宿泊しているホテルから、フェナエス工業に向けて出発した同じ時刻、ノヴァルナは皇都キヨウの皇国行政府、『ゴーショ・ウルム』に参内していた。先日の“アネス・カンヴァーの戦い”の戦勝報告のためである。

 謁見の間。テシウス=ラーム、ユーカンス=マーティーの二人の外務担当家老を連れ、ノヴァルナは玉座に座る星帥皇ジョシュアの前で片膝をついていた。

「立つがいい。ウォーダ殿」

 ジョシュアの呼び掛けで立ち上がるノヴァルナは、星帥皇の言葉の調子に、微かな違和感を覚える。

「この度のウォーダ家の戦捷せんしょう、目出度く思う。これでまた、我が銀河皇国の威も拡がることであろう」

「ありがとうございます。これもみな、陛下のご威光の賜物にございます」

 そう応じながらノヴァルナはますます、ジョシュアに対して違和感を深めた。それはこれまで感じられなかった、言葉の端々に滲む尊大さだ。先の“アネス・カンヴァーの戦い”で遠征する前までは、こちらの顔色を窺うような態度で、口ごもるばかりであったのが、妙にスラスラと台詞が流れて来る。

“さては俺が留守の間に、また何か吹き込まれやがったな…”

 ノヴァルナは内心で呟き、第一容疑者のバルガット・ヅカーザ=セッツァーに、鋭い視線を送った。だが貴族院議員筆頭のセッツァーは、素知らぬ顔でジョシュアの左側に立っている。するとその反対…ジョシュアの右に立つ、側近のトーエル=ミッドベルが発言する。

ノヴァルナ殿の・・・・・・・“銀河布武”もまた一歩、前進といったところですな」

 嫌味な言い方である。

 確かに勝ちはしたし、アザン・グラン家のマガランや、アーザイル家のエイン・ドゥといった勇将をはじめ、多くの敵将を討ち取りもした。しかしこれは一カ月前の敗北、“カノン・ガルザック撤退戦”で受けた損失と合わせて考えれば、喜んではいられない状況だ。それに、わざわざ“ノヴァルナ殿の”という言い回しをする辺りが、自分達星帥皇室は“銀河布武”を、別段支持しているわけではない、と示しているように思える。

“一歩前進…であれば、良いのですが”

 不遜な態度…に見えるかどうか、ぎりぎりのラインで言い放つノヴァルナ。ここで反応を見せたのが、セッツァーだった。

「その“銀河布武”についてなのですが、ノヴァルナ殿」

「なんでしょう?」

 問い質すノヴァルナに、セッツァーは纏わり付くような口調で答える。

「どうであろう。銀河を統べる者としての星帥皇陛下のご威光は、すでに多くの星大名家が、恭順の意を示すに至っておりまする。これすなわち、“銀河布武”の目的は達せられたと、判断してもよいのではあるまいか?」
 
 てめぇ、何を言ってやがる…と言いたげな眼で、ノヴァルナはセッツァーを見返しながら応じる。その声は視線と反対に、あっけらかんとしたものだ。

「残念ながら、わたくしにはそのように思えません」

「ほほう…」

 見据えるセッツァーの眼光の鋭さに、ノヴァルナの左右にいたテシウスとユーカンスは、外交に長けているだけあって、緊張の固唾を飲んだ。自分達の主君ノヴァルナとの、舌戦が始まると感じ取ったのだろう。
 ただノヴァルナにはそのような面倒事に、付き合う気は無いようであった。皇都の復興状況の確認や、ニージョン宇宙城の建設具合の視察。さらには新たに建設が始まった、キヨウにおけるウォーダ家の拠点“フォン・ノージ”の、建設業者との打ち合わせなど、やらなければならない事が、一連の戦いで停滞していたからだ。正直、この戦勝報告自体が、おまけ・・・のようなものである。

「ま。考え方の違い…って、事でありましょうか」

 そう応じて、謁見の間を退出する空気を、作り出そうとするノヴァルナ。しかし今日のジョシュアは、妙な絡み方をして来た。

「その“銀河布武”だが…ヅカーザ卿の申す通り、もはや目的を果たしたと、考えても良いのではないか、ウォーダ殿?」

「あ?…目的は果たした、と申される?」

 明らかに反発心を抱いた口調になるノヴァルナ。無理もない、ノヴァルナ自身にすれば、自分が構想する“銀河布武”など、まだ毛先ほども進んでいないからだ。しかし相手はジョシュアである。空気の読ま無さ・・・・・・・では迷惑な話だが、ある意味ノヴァルナ以上であった。

「そうじゃウォーダ殿。タ・クェルダ家、ウェルズーギ家、モーリー家をはじめとして、今や星帥皇室を支持する星大名家は数知れず。これもみなウォーダ殿の、我が星帥皇室と銀河皇国再興の理想に、各星大名家が応じてくれた賜物であろう」

「………」

 無言で面倒臭そうな眼を向けるノヴァルナだが、その視線を受けてもジョシュアは、お構いなしに話を続ける。この光景にノヴァルナ以上に、テシウスとユーカンスは肝を冷やす思いだった。無論いつノヴァルナが激発しても、可笑しくない状況となって来たからだ。

「―――となればここで一旦歩みを止め、まずはここで地固めを、行うべきではないかと余は思うのだ」

 この言葉を聞き、ノヴァルナは溜息を漏らした。明らかにジョシュアではなく、セッツァーが言いそうな台詞であったからである。




▶#05につづく
 
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