銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第17話:銀河に脈打つ謎

#05

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「地固め…と申されますが、恐れながらタ・クェルダ家やウェルズーギ家などが、そう容易く本心から恭順するとは思えません」

 ノヴァルナがジョシュアに対してそう言い放つと、待ってましたとばかりにセッツァーが口を挟む。

「これは…ノヴァルナ殿は、シーゲン殿やケイン・ディン殿の、皇国へのご忠節をお信じにならない、という事にございましょうか?」

 ―――ったく、コイツは毎回毎回…と、ノヴァルナは胸の内で呟き、煩わしげな眼でセッツァーを一瞥した。

「表向きの忠誠ならば、これまでのテルーザ陛下やギーバル陛下の代でも、彼等は皇国に忠誠を誓っておりました。空手形ほど恐ろしいものはありません」

 ノヴァルナの言葉にセッツァーは口元を歪め、皮肉たっぷりに告げる。

「なるほど、なるほど。そうであるならば、ノヴァルナ殿の皇国に対する忠義も、これは危ぶまれますなぁ」

 なんだコイツ…と思うノヴァルナ。今日は明らかにいつもの嫌味以上の、攻撃的な言葉遣いである。喧嘩を売って来ていると言ってもいい。それにこの謁見の間に居並ぶ他の上級貴族連中も、妙に余裕ぶっていた。

 確かに昨年秋頃、新たにアン・キー宙域星大名モーリー家が、『アクレイド傭兵団』込みで星帥皇室の後ろ盾に加わっており、ウォーダ家のみを後ろ盾としていた頃とは、状況が変わって来ている。しかしその程度で、ノヴァルナとウォーダ家に対し、あからさまに批判的な態度を見せるのは、奇妙でさえあった。

 ノヴァルナはいつもの不敵な笑みを見せると、少々過剰に恭しく頭を下げて鷹揚に言い返す。

「いえいえ、滅相もない。このノヴァルナ、星帥皇陛下には絶対的な忠誠を、誓っておりますとも―――」

 そこで一拍置いたノヴァルナは、微笑みながらも刺すような眼光で続けた。

「星帥皇室が、民と心を共にされておられる限りは」

「………」

 これを聞き、セッツァーの顔が段々と血色を高めていくのが、離れていてもよく分かった。今のノヴァルナの言葉、忠誠を誓うのはあくまでも星帥皇のみであり、また、民と心を共にする限りという部分の星帥皇室には、上級貴族に対する非難が含まれていたからである。つまりノヴァルナはセッツァーらに対し、“俺は皇国の民のために働いているのであって、おまえらに迎合する気なんざ、毛頭もない”と、言い放っているのだ。

 しかしここで、空気を読めない男…ジョシュアが、要らぬ言葉を返して来た。

「忠誠を誓うと言うならば、余の申している事も、理解をしているはずであろう。ウォーダ卿!?」
 
「理解はしておるつもりですが…。良い機会にございます、この銀河皇国をどうなさりたいかというお考えを、陛下より直接お聞かせ頂きたく存じます」

 と切り返したノヴァルナに、ジョシュアは胸を逸らして告げる。

「うむ。全ての星大名家が余に従い、星帥皇室の統治のもとで共存共栄。いくさの無い銀河とするのじゃ」

「各星大名家の軍事力は、そのままでありましょうか?」

「無論、縮小させる」

「その方策は?」

「話し合いじゃ。これに尽きる」

「軍事力の差が交渉の優劣となるのが、今の銀河皇国ですが?」

「それを対等の立場にするのが、星帥皇室の威光というものであろう」

 さすがにジョシュアのこれには、ノヴァルナも苛立ちを覚え始めた。セッツァー達に煽られて、今は本当に自分の威光が、ヤヴァルト銀河皇国の全てを支配していると、勘違いしているに違いない。
 今の上級貴族達が戦乱の鎮静化に消極的なのは、皇都キヨウのあるヤヴァルト宙域とその周辺宙域、つまり自分達の荘園星系がある宙域だけ安定すれば、その他の宙域は正直どうでもよく、むしろ星大名同士で争っていた方が、都合がいいところまであるからだ。

“威光か…ドゥ・ザンのマムシ親父が、今のコイツを見たら、どう思うかねぇ”

 呆れたものじゃの…と、スキンヘッドを右手でツルリとひと撫でする、どこかしらユニークなドゥ・ザン=サイドゥの姿を思い浮かべ、ノヴァルナは幾分苛立ちも収まるのを感じる。

 するとここで逆に、セッツァーが場を収めようと動いた。あまりジョシュアに喋らせると、言う必要のない事まで、口走ってしまう恐れがあったからだろう。

「陛下。これはこの先じっくりと時間をかけて、理解し合うべき話にございますれば、ノヴァルナ公もご多忙の身、本日はこの辺りで…」



 謁見の間を退出したノヴァルナに、同行していたテシウス=ラームが、「ノヴァルナ様。よく辛抱なされました」と、声を掛ける。「その通りで」とユーカンス=マーティーも隣で頷く。二人共いつノヴァルナが激発するかもしれず、冷や汗ものだったのだろう。

 対するノヴァルナは苦笑いを交え、「そうでもねーさ」と軽く応じた。しかし謁見で見せたジョシュアの尊大さと、セッツァーのいつにも増した攻撃的な態度は、何か裏があるように思われ、確認しておく必要があると判断。テシウスに振り向いて、キヨウにいるミディルツ・ヒュウム=アルケティと、マスクート・コロック=ハートスティンガーに、ニージョン宇宙城に来る事を伝えるよう命じた。



▶#06につづく
 
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