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第17話:銀河に脈打つ謎
#06
しおりを挟む一方、ザーカ・イー星系の首都惑星ラグートにいるノア達は、メモリープレートの製作会社であった、フェナエス工業本社を訪れていた。
フェナエス工業はこの種のメモリーメディアを、五百年以上昔から製造・販売している老舗であり、その歴史に相応しく、惑星ラグートに広大な敷地の地上工場、さらに第二惑星ハヴントの衛星軌道上にも、大規模な工業プラント衛星を複数所有している。
ノア達が向かったのは、この地上工場の敷地内にある資料館であった。資料館と言っても、五百年以上の歴史を持つ企業であるから、煉瓦を模したウルティマセラミック製の壁が覆う、建物の規模も桁違いである。そもそもからして、この本社に到着して以来、移動には自動運転の四人乗りカート二台に、分乗しているほどだ。
「こちらが、皇国暦1400年代の、当社製品ブースとなっております」
そう告げたのは、フェナエス工業代表のロカロ=エンディラである。エメラルドグリーンのスーツが目立つ、六十代前半の大柄な黒人男性だが、ここにいるのはそのホログラムだった。本人は惑星ラグートの反対側の大陸で、会議に参加中だったのだが、ウォーダ家のノアが急に来訪すると知り、ホログラムを送って自ら案内役を買って出たのだ。
「これらの製品は皆、当時皇国で最大のシェアを、得ることが出来まして…」
丁寧な中にも、端々に自社の実績を交えて案内するエンディラに、ノアは「そうですか」とか「素晴らしいですね」と愛想よく相槌を繰り返す。相手からすれば、イーマイア造船の独占状態となっている、ウォーダ家との繋がりに、少しでも割り込みたいのだろう。
本題とは関係ない実績紹介に、ニ十分ほど付き合ったのち、ノア達はお目当てのデータパッドが並べられた、ショーケースの前へ案内された。皇国暦1400年代の百年の間に製造されたシリーズが、五十種類ほども陳列されている。どれも現在の銀河皇国で、一般的に流通しているデータパッドより、幾分厚みがあるようだ。
「これらの製品が製造されていたのは、ちょうど“オーニン・ノーラ戦役”の頃でして、種類も販売数も激減した、苦しい時期でした」
エンディラの言葉に頷くノアの隣で、テン=カイが問う。
「それで、この中で今も使用が可能なものは、どれになりましょう?」
これに応じたエンディラが示したのは、円形のショーケースに、別個で飾られていたデータパッドだった。
「こちらは復元品になりますが、今でも稼働可能な状態にあります」
その円形ショーケースに入れられていたのは、1480年代前半に販売されていたというデータパッドであった。ホログラム展開機能を持つ、別の世界で言うところの10インチサイズの、黒いモニター画面が全面を覆っている。見た目は大昔のパッド型コンピューターに近い。
エンディラのホログラムが右手をかざすと、ショーケースが開く。
「NNLシステムは、現在は規格が変わっておりますので、使用できませんが、その他の機能については、問題なく作動する事を確認済みです」
この言葉にノアは頷いて、「では、これをお借りしても、宜しいのですか?」と尋ねた。エンディラは快く応じる。
「勿論にございます。お望みでしたら、ご進呈致しましょう」
エンディラにすれば、ノヴァルナの妻の心証を良くするのなら、古いデータパッドの一つや二つ、安いのものなのだろう。しかしノアは、これを丁重に断る。
「ありがとうございます。ですが貴重なものですので、用件が済みましたら、即時お返し致します―――」
そしてエンディラの意図を察し、そつなく付け加えるノア。
「代表のご厚情、夫にも伝えておきます」
やはり星大名家の奥方にお出まし頂くと、話は早かった。データパッドを借りた後の、フェナエス工業副代表と役員達が急遽催した、昼食会への出席で多少時間が潰されはしたが、ノア達はその日の午後にはデータパッドを持って、ホテルに帰って来ることが出来た。
ソークン=イーマイアの計らいでノアに与えられている、最高級の部屋エクストラハイエストに集まると、円形ソファーの真ん中のテーブルに置いたデータパッドを、早速起動させてテン=カイが持ち込んだメモリープレートを差し込む。
資料館でエンディラが告げた通り、NNLシステムが使えないため、発信される情報は、直接脳内に取り込むことは出来ず、自分の視覚と聴覚のみで、見聞きしなければならない。
メモリープレートを差し込むと同時に、画面からホログラムスクリーンが立ち上がり、記録されているデータの一覧が表示される。データは三つ。その中の一つのタイトルが、『双極宇宙論1448修正版』となっている。皇国暦1448年に記録されたものだろう。あとの二つについては、一つが文字化けして読めないもの。そしてもう一つは銀河皇国公用語ではなく、見た事もない文字で書かれている。
あとの二つも気にはなるが、ノアはまず『双極宇宙論1448修正版』のデータを開いた。ホログラムスクリーンが大きく広がり、まずタイトルと著者であるらしい人物の名が、ゆっくりと浮かび上がる。著者はシグルス・レフ=ファンクード、未知の人物だった。
▶#07につづく
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