銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
453 / 526
第17話:銀河に脈打つ謎

#08

しおりを挟む
 
 テン=カイが言いかけた事は気にはなったが、ノアにはそれ以上に気になる事がある。メモリープレートに記録されていた、二つのデータだ。タイトルが文字化けしているものと、判読不能の異星文字で書かれたもの。どちらも“双極宇宙論”に関わるものだと考えられる、この二つの内容を知りたく思うのは当然だった。

「次はこの二つを見てみましょう」

 ノアはそう言うと、同席していたラン達に告げる。

「ここからは、私とテン=カイ殿だけでいいです。貴女達は自由にして下さい」

 だがそう言われて、生真面目なランが承知するはずもない。背筋を伸ばして「いえ。頑張ります」と返答する。それでもランは流石に、キュエル達まで突き合わせるのは可哀相だと感じたのか、「三人には自由行動を命じます」と告げた。自由行動の命令とは珍しいが、確かに効果的だ。キュエル達三人は、ホッとした表情をして「了解しました」と立ち上がる。これを見てノアはすかさず言う。

「じゃあ、ラン。貴女にも命令です。これから夕食まで自由行動です」

 これを聞いてランは「私は…」と言いかけたが、小さな溜息とともに、「分かりました」と諦めたように返答した。自分が拒否してしまうと、キュエル達三人も拒否せざるを得なくなるからだ。

 頷いたノアはさらに、キュエル達三人にも命じる。

「貴女達は、ランを連れて繁華街へ向かいなさい。そちらで四人で自由行動を楽しむように。ショッピングをする場合は、請求は私に回してください」

 つまりは“俺の奢りで羽を伸ばしてこい!”という、夫のノヴァルナが言いそうな、ノアのオトコマエな指示である。対するキュエル達三人は、遠慮するかと思いきや、「ありがとうございます!」と嬉しそうに反応した。主君の厚意を遠慮せず素直に喜んで受けるのも、彼女達『ホロウシュ』に求められるものだからだ。

「行きましょう、フォレスタ様」

 キュエル達三人に促され、ランは“仕方がない…”と言いたげに席を立つ。一礼して立ち去るランを、ノアは“これで少しは精神的にも休んでくれたら”と言う眼で見送った。
 これでノアと共にいるのは、テン=カイ以外ではメイアとマイアの二人だ。しかしこの双子姉妹は、どう言っても傍らから離れないのをノアは知っており、ラン達との間で空気が悪くなるのを察して、何も言わなかったのだ。

「では、開いてみましょう」

 そう言ってデータパッドに触れるノアの眼前で、新たなホログラムスクリーンが展開する。
 
 まずノアが開いたのは、タイトルが文字化けしているデータであった。だがある程度予想できたものの、中身も化けた文字がスクリーン一面に並んでいるばかりであり、何が書かれているのかは不明だ。

「これはおそらく、別規格のデータパッドで書き込まれたデータが、このメモリープレートにコピーされたのだと思われます」

 テン=カイの言葉は正しいのだろうとノアは思った。この論文を作成したシグルス・レフ=ファンクードはイルーク星人であり、イルークの規格で作成されたデータの可能性がある。

「ともかく、続きを見てみましょう」

 そう言ってノアはデータ再生を続行した。すると最初に見た論文解説データと同様に、ファンクードのホログラムが現れ、読み上げを始める。だが今度は銀河皇国公用語ではなく、ノアの知らない言語だ。

「これは…イルークの言葉でしょうか?」とテン=カイ。

「そうかもしれません。録音して現在のデータパッドで翻訳すれば、言っている事が分かるのではないかと思います」

「分かりました。試してみましょう」

 ノアの見立てに同意したテン=カイは、現在の皇国で使用されているデータパッドを用意した。録音モードにして、データ再生をはじめからやり直す。するとどうやら最初の論文解説を、イルーク語で行ったものではなさそうであった。喋るファンクードの表情が、幾分感情的であるように感じられるからだ。再生時間も“双極宇宙論”の解説とは違い、十五分ほどの長さである。
 データ再生が終わると、テン=カイは録音された音声を解析した。やはりイルーク語であるらしい。

「翻訳を完了しました。再生しますか?」

 テン=カイの問いに、ノアは頷く。データパッドは電子合成したファンクードの声で、翻訳した中身を述べ始めた。

「私は銀河皇国科学省研究員のシグルス・レフ=ファンクードです。この情報を記録したのは皇国暦1448年5月12日。私は科学省の上層部が進めている、“双極宇宙論”を応用した秘密研究についての告発を、ここに行います―――」

「…!!??」

 思いがけない導入部に、ノアは眼を見開いてテン=カイと顔を見合わせる。皇国科学省上層部の、“双極宇宙論”を応用した秘密研究など、ノアにとって初耳だったからである。ファンクードの声に似せた電子音声が、構わず続ける。

「彼等の秘密研究とは、“特異点崩壊による多元宇宙の収束と一元化”です」


 特異点崩壊による多元宇宙の収束―――それはつまり、全ての宇宙の終焉を意味していた………




▶#09につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...