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第17話:銀河に脈打つ謎
#10
しおりを挟む同じ頃、皇都惑星キヨウの北極上空に建設中の、ニージョン宇宙城。一昨年の暮れから開始された建造工事は、急ピッチで進められており、超巨大な六角形をした城は、すでに十八基の対消滅反応炉のうち、半分の九基が稼働。作戦指令室のあるセンターコアゾーンも、使用が可能となっている。
このニージョン宇宙城建造と、南極上空で建設が開始されたばかりの、ウォーダ家の拠点フォン・ノージが生み出す経済効果が、皇都惑星キヨウに好景気をもたらして、復興を後押ししており、皇都でのノヴァルナの人気は上がる一方であった。
ただそんなノヴァルナも今は眉をひそめて、二人の重臣ミディルツ・ヒュウム=アルケティと、マスクート・コロック=ハートスティンガーの報告を聞いている。
建造中の事もあり、何の調度品も置かれてはいない質素な談話室の中、ミディルツの声が響いていた。
「ノヴァルナ様の仰せの通り、先の“アネス・カンヴァー”の戦いの最中、星大名家の使者を乗せたと思われる宇宙船が複数、キヨウを訪れております。タ・クェルダ家、ウェルズーギ家は確認済み。あとはホゥ・ジェン家などもおそらく…」
「全部同じタイミングでか?」とノヴァルナ。
「はい。一日二日の差はありますが、2月28日には全ての使者が、揃っていた事になりまする」
2月28日とはまさに、“アネス・カンヴァーの戦い”当日である。
「我々もオウ・ルミル宙域方面の防備で、キヨウを離れる必要がありましたので、全ては把握できませんでしたが、星帥皇室が各星大名の使者を一斉に集めて、何かを行った可能性は高いと思われます」
そう告げるハートスティンガー。“アネス・カンヴァーの戦い”の際、アーザイル家の別動隊もしくは、ロッガ家の残党によるキヨウ襲撃の可能性に備え、ヤヴァルト宙域駐留軍のミディルツとハートスティンガーは、自分の艦隊を率いてオウ・ルミル宙域方面に展開していた。
さらに同じ駐留軍に属するフジッガ・ユーサ=ホルソミカも、ワクサー宙域方面からのアザン・グラン軍侵攻の可能性に備えてキヨウを離れており、ウォーダ家の星帥皇室の動きを監視する体制も緩んでいる。
アーワーガ宙域の“ミョルジ三人衆”には、ウォーダ家と同じく星帥皇室の後ろ盾となった、アン・キー宙域のモーリー家が備えており、一応キヨウの防備は固められてはいた。ただし―――
「胡散臭い連中がキヨウで何かを企むにも、持って来いのタイミングだって事だ」
吐き捨てるように言い、ノヴァルナは苦笑いを浮かべた。
ともかく自分が、“アネス・カンヴァーの戦い”で皇都を留守にしている間に、星帥皇室が主だった星大名家から使者を集め、何らかの協力を取りつけたのは間違いないだろう。ノヴァルナはそう考え、これが先程の謁見の際、ジョシュアや上級貴族達がこれまでになく、威圧的な態度に出た原因だと読んだ。
そんなノヴァルナであっても、ジョシュアと星大名家使者達との会合に、“ミョルジ三人衆”やイーゴン教総本山の『イシャー・ホーガン』、さらには金融自治星系のエイザンまでが加わっていた事までは、考えが及ばなかった。モーリー家が後ろ盾に加わったのを機に、事実上の政権運営力を有するウォーダ家との、恫喝的対立軸を作り上げるため、“銀河布武”に批判の目を向けている、タ・クェルダ家やウェルズーギ家などの有力大名を、味方陣営に引き入れたのだろうと、推察したのである。
ノヴァルナには珍しく甘い判断であったが、これにはヤヴァルト宙域駐留軍司令官の、ミディルツとフジッガ、そしてハートスティンガーの微妙な立ち位置が、情報収集能力を制限されている事に関係していた。
フジッガは元は星帥皇室直臣であり、ミディルツもその客将として皇国に仕えていた経歴がある。またハートスティンガーも、皇国軍武将の血筋であった事から、星帥皇室周辺を嗅ぎ回り難いのだ。ウォーダ家の配下となった彼等が、駐留軍司令官としてキヨウに居る事で、逆に星帥皇室側から、監視されるようになっていたからである。
それならばカッツ・ゴーンロッグ=シルバータや、カーナル・サンザー=フォレスタなど、他の武将をヤヴァルト宙域駐留軍の司令官に、据えればいいと思われるであろう。特に万能な懐刀のナルガヒルデ=ニーワスであれば、最適といえる。
しかしノヴァルナとしては、そうはしたくない。
カーナル・サンザー=フォレスタやナルガヒルデ=ニーワス辺りは、戦略的配慮から、皇都キヨウのあるヤヴァルト宙域と、ウォーダ家の本拠地であるミノネリラ宙域との間に位置する、オウ・ルミル宙域に置いておきたかったのだ。
その後もミディルツとハートスティンガーから、星帥皇室と上級貴族達の現在の動向を、ひと通り聴き及んだノヴァルナは「なるほど…」と応じて腕を組み、椅子の背もたれに上体を預けた。そのまま眼光鋭く、無言で一点を見詰める。
この状況が十秒ほど続き、何事だろう…と、ハートスティンガーと顔を見合わせたミディルツは、探るような口調で問い掛けた。
「ノヴァルナ様…どうかなされましたか?」
そう尋ねられて、視線をあげたノヴァルナの眼光がギラリと光る。
「ミディルツ。ハートスティンガー」
「はっ」
「ははっ」
「おまえらの本音を聴かせてくれ」
真顔でズバリと尋ねるノヴァルナに、ミディルツとハートスティンガーは思わず息を吞んだ。こういう時のノヴァルナには、有無を言わさない空気がある。そしてその後に続けた言葉の重量感は、ノヴァルナ自身の実年齢を、大きく上回る響きがあった。
「な…なんなりと」
気圧され気味に応じるミディルツ。ノヴァルナは静かに問い掛ける。
「俺が星帥皇室と対峙する事になったら、おまえ達は俺について来てくれるか?」
「……!!??」
紫紺の第二種ウォーダ家軍装を、不良っぽく着崩した外見とは裏腹の、真摯な表情の主君が放つ言葉に、二人は表情を強張らせた。前述の通りミディルツとハートスティンガーは、星帥皇室とそれなりに繋がりのある人間である。その二人にこのような質問を仕掛けて来るというのは、それなりに重い意味を含んでいる、という事だ。つまりこのまま星帥皇や上級貴族達が、自分の皇国再興への想いに、反するような行動を取り続けるのであれば、決断しなければならない時が来るであろう事を、指し示していた。
これに応じたのは、まずミディルツだった。
「私は…ノヴァルナ様が、十年前の事を覚えておられるなら、その時の気持ちのままにございます」
十年前の出来事とは、惑星ラゴンの衛星軌道上に浮かぶ、鉱物精製プラント衛星でノヴァルナと初めて出逢い、誓った、ノヴァルナという稀有な存在の星大名の、家臣に相応しい存在となり、いつか仕えるというものである。これを聞いてノヴァルナは、「おう!」と短く頷く。その表情は納得顔だ。
そしてハートスティンガー。こちらは少々複雑な表情をしていた。自分とその配下が浪人となって、密輸業者に身をやつしていたのも、星帥皇への忠義ゆえに他ならない。黒い髭面の大男は、思い悩んだ表情を続けた挙句、ボソリ…と漏らした。
「私は、星帥皇室に忠誠を誓った身です…」
「………」
無言で次の言葉を待つノヴァルナ。
「―――ですが私を頼り、集まって来た者達に、今の居場所を与えて下さりましたのは、ノヴァルナ公にございます。それに比べ現在の星帥皇室の在り方は…」
「よし。わかった!」
言い難い事をみなまで言わせないのも、ノヴァルナの男気であろうか。ただこの決断が、のちの銀河皇国を大きく揺さぶる事になるのは、間違いのない事案であった………
▶#11につづく
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