銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#01

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 皇国暦1565年4月4日、皇都惑星キヨウ―――


 宵闇に包まれた中央行政府『ゴーショ・ウルム』に集まる、星帥皇ジョシュアと二人の側近に加えること十二人の上級貴族。彼等がいるのは、行政府の中で軍事を司る作戦指令室だった。


 指令室の中央には、巨大な戦術状況ホログラムが浮かんでおり、セッツー宙域のナーグ・ジヴァン星系周辺の宇宙地図と、二つの軍の配置状況が表示されている。二つの軍とは、アーワーガ宙域から侵攻して来た“ミョルジ三人衆”の軍と、これを迎撃するために集まった、ノヴァルナ率いるウォーダ軍である。

 三人衆の軍はナーグ・ジヴァン星系第三惑星ノルダと、第四惑星フェクサン双方に、簡易の宇宙要塞を置き、その間に艦隊を並べていた。
 これに対するウォーダ軍は、第七惑星テルノージの衛星軌道上に、ノヴァルナ直卒の第一艦隊を配置して、その前面に艦隊を並べている。

 戦術状況ホログラムを囲んで見上げる十五人の中、上級貴族筆頭のバルガット・ヅカーザ=セッツァーが、表示された艦隊のマークを指さししつつ「ひい、ふう、みぃ、よ…」と呑気な声で数えた。

「三人衆の艦隊は十二か。増えておるのう」

 三人衆の艦隊数を数え終えたセッツァーの言葉に、ジョシュアの側近のトーエル=ミッドベルが応じる。

「は。サン=ヌ・クーやアルワジといった宙域から、援軍を呼び寄せましたので、かなりの数となりました」

「対するノヴァルナ公の軍は十六。これも多いな」

 上級貴族の一人がウォーダ軍の方の戦力を数える。しかしそれに続けた言葉は、どちらが自分達の味方か、分からなくなるようなものだった。

「しかし、このヤヴァルト宙域周辺にいるノヴァルナ公の軍は、これだけにとどまりませんからな。厄介な事です」

 ここで口を開いたのが星帥皇ジョシュアである。神経質そうに視線を走らせながら、セッツァーに問い掛ける。

「ヅカーザ卿、大丈夫であろうな。我等の企みがノヴァルナ公に知られると…」

 それを聞いたセッツァーは“何を今更…”といった眼を一瞬みせたものの、すぐに穏やかな表情になって、ジョシュアを宥める。

「ご心配には及びませぬ。そのために彼等がいるのですから…」

 そう告げて戦術状況ホログラムを操作するセッツァー。表示されているナーグ・ジヴァン星系が縮小され、隣接するもう一つの星系がスクリーン内に現れた。それはイーゴン教の総本山星系オ・ザーカである………


 
 一方こちらはオウ・ルミル宙域。トゥ・キーツ=キノッサ率いる、ウォーダ軍第36艦隊は、彼の領地であるサクータ星系の最外縁部の、そのまたさらなる外側に展開していた。二百光年ほど先にあるアーザイル家の本拠地、ナッグ・ハンマ星系に対する、強行偵察作戦が目的である。

 強行偵察自体は、警備艦隊の高速軽巡航艦六隻が行うのであり、キノッサ艦隊がここに展開しているのは、偵察部隊がアーザイル軍の追撃を受けたまま撤退して来た場合に、これを救援するためであった。

 そしてこのような危険度の高い偵察行動を行うのは、先日もキノッサがノヴァルナに報告していた、頻繁に行われていたアーザイル軍の演習が。この数日間ピタリと停止されており、基幹艦隊群の所在も不明となっているからだ。

 キノッサがこの星系を領地に与えられたのは、アーザイル軍の動きを監視するのを、第一の役目としたものであった。アーザイル家とアザン・グラン家は、ウォーダ家にとって、現在最大の敵対勢力であるから、自分の役目の重さもキノッサは充分に承知していた。艦隊旗艦『ヴェルセイド』の司令官席に座り、前屈みになって戦術状況ホログラムを眺める。

「ホリス家からの続報、ないッスか?」

 問い質すキノッサの言葉に、通信参謀が「今のところ、何も…」と応じた。ホリス家とは“アネス・カンヴァーの戦い”の直前に、ウォーダ側に寝返った独立管領で、その領地であるナービ星系はキノッサのサクータ星系同様、アーザイル家の動きを監視できる位置にある。
 キノッサが口にした“続報”とは、ホリス家の監視網に一瞬だけ、アザン・グラン家の艦隊らしきものが、引っ掛かったという連絡だった。ホリス家のナービ星系は、アザン・グラン家の領域であるエテューゼ宙域寄りにあるため、オウ・ルミル宙域へ向かうアザン・グラン艦隊が、発見される場合があるのだ。

「軍師殿。どう思われるッスか? アーザイル家の動き」

 キノッサは傍らに立つ参謀長の、デュバル・ハーヴェン=ティカナックに意見を求める。不治の病に体を冒されているハーヴェンは、少し体調を崩しているのか、普段より顔色が白く見えた。ただそれでも、発声には問題が無さそうだ。

「可能性が高いのは二つ…ですが、そのどちらもが我等にとって危険であるのは、間違いないと思われまする」

「二つッスと?」

「はい。いずれもセッツー宙域へ侵攻して来た、三人衆の動きに呼応したものですが、一つは今ここにいる我等に対する攻勢。そしてもう一つは…ノヴァルナ様を、背後から討つ目論見にございます」
 
 ノヴァルナを背後から討つと聞いて、キノッサの表情はサッ!…と強張った。昨年の“カノン・ガルザック撤退戦”の、記憶が蘇ったのだ。

「ノヴァルナ様を背後から…しかしそれじゃ、アーザイルとアザン・グランの奴等は、ヤヴァルト宙域を突っ切るつもりって事ッスか?」

 現在ノヴァルナがいるセッツー宙域と、オウ・ルミル宙域の間には、皇都惑星キヨウがあるヤヴァルト宙域が存在している。もしアーザイルとアザン・グランの軍が、ノヴァルナの後背から攻撃を仕掛けるというのであれば、ヤヴァルト宙域を縦断する必要がある。

「彼等にとって、難しい事ではありません―――」

 不吉な事を、淡々と告げるハーヴェン。

「現在、ヤヴァルト宙域の我が軍は、ホルソミカ様の艦隊が、ノヴァルナ様の陣に参加しておられるため、ミディルツ様とハートスティンガー様の艦隊しかおりません。もしタンバール宙域の反抗勢力が、アーザイル軍に呼応して侵攻の気配を見せた場合、戦力的に身動きは取れないでしょう」

 ヤヴァルト宙域と隣接するタンバール宙域の現状は、ノヴァルナも懸念しているところであった。銀河皇国の初期からの植民宙域であったタンバールは、他の宙域よりも独立管領の力が強く、ウォーダ家に対して敵対的だったのだ。もしノヴァルナ討伐を名目に、アーザイルとアザン・グランの軍が、ヤヴァルト宙域へ侵入した場合、これに協力する可能性は高い。

「俺…俺っち達は、どうすればいいッスか!?」

 問い質すキノッサに、ハーヴェンは「どうしようもないですね」と、心細い事を言う。「そんな…」と顔をしかめるキノッサ。

「我等に出来るのは、もう一つの可能性…敵の連合軍が、ノヴァルナ様と中央集団不在のミノネリラ宙域を狙って、侵攻して来た場合に備える事です」

 ハーヴェンの言葉に「いやしかし…」と、不満を口にするキノッサ。自分の主君がそうゴネ出すのを予見していたのか、ハーヴェンはさらりと言う。

「無論それ以前に、ウーサルマ星系のサンザー様に、敵襲の恐れがある事を伝えるのは、キノッサ様が当然なされるべき事です」

 ウォーダ軍第6宇宙艦隊を率いる、カーナル・サンザー=フォレスタはこの時、オウ・ルミル宙域のウーサルマ星系を支配地として与えられていた。そしてこのフォクシア星人武将の領地は、アーザイル/アザン・グラン連合軍がセッツー宙域を目指すのであれば、その進路上に位置しているのだ。

「それッス!」

 司令官席を飛び跳ねるように降りたキノッサは、自ら通信オペレーターコーナーへ、駆けて行った………




▶#02につづく
 
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