銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#05

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 マーディン率いる第8艦隊BSI部隊が、敵ソーゴ艦隊のBSI部隊を蹴散らす一方、カージェスの第19艦隊は、敵先陣のもう一つのスノラ艦隊へ仕掛ける。両艦隊の連携を断つためだ。これにはBSI部隊を発進させたマーディンの艦隊の、半数も加わっていた。



 味方の先鋒が敵の先鋒を蹴散らし始めるのを見て、ノヴァルナは本隊である八個艦隊に前進を命じる。数的優位はこちらにあるので、今回はセオリー通りの戦術であった。十六隻の基幹艦隊を三個の先鋒、六個の本隊、一個の後詰、さらに残る六個艦隊を二つに分け、第三惑星ノルダと第四惑星フェクサンに三人衆軍が置いた、簡易宇宙要塞の攻略に向かわせている。

「マグナー准将」

 総旗艦『ヒテン』の司令官席に座るノヴァルナは、新任の参謀長のマグナーに呼び掛けた。マグナーは以前にノヴァルナ専用の戦闘輸送艦、『クォルガルード』の艦長を務め、その後は第1特務艦隊司令官に任じられていた。それが、前任のデッカー准将がヴァルターダ=ウォーダ麾下の、第2艦隊の重巡戦隊司令官として転出したため、その後任として配属されたのだ。

「はっ」

 落ち着いた初老の男性のマグナーは、静かに返答する。口の端を上げて冗談ぽく命じるノヴァルナ。

「頃合いを見て、ゴーンロッグの艦隊を引き上げさせてくれ。アイツは調子に乗ると、敵を深追いしかねねぇからな」

「御意」

 シルバータら先鋒部隊のコントロールはマグナー参謀長に任せ、ノヴァルナは主力部隊の各艦隊司令との通信回線を開く。

「ゴーンロッグ達が、敵主力を前面に釣り出して来るはずだ。俺達はこれを叩く」



 ただこの時、戦闘態勢を整えたノヴァルナのこの主力部隊が、第七惑星の公転軌道を通過するのを確認して、斜め上方からの接敵針路を微調整する、小集団が別に存在していた。ステルスモードを発動しているので、速度はそれほど出せず、接敵行動には慎重さが要求される。六隻の高々度ステルス艦―――潜宙艦だ。しかも一般的に運用されている潜宙艦よりも、ふた回りほども大きい。


 傭兵惑星サイガンの潜宙空母艦隊である。


 旗艦『ブラック・デス』の格納庫に並ぶ、三機のBSHO。二機は『マガツ』、そして残る一機は『オロチ』。『マガツ』は九年前に、ノアが『サイウンCN』で戦った機体であり、『オロチ』は十年前にノヴァルナが、惑星ラゴンの衛星軌道上で戦った機体だった。ともにモルンゴール帝国製のBSHOだ。

 
 極力電波を出さないようにするため、潜宙艦と各BSHOは格納庫の中では、有線通話を行っている。

「マゴディより発令所。状況はどうなっている?」

 宇宙艦では艦橋にあたる発令所と通話をしているのは、マゴディという名で、切れ長の鋭い眼をしたヒト種の男だった。戦闘種族モルンゴール星人で構成された、惑星サイガンの傭兵部隊“サイガン衆”の中で、ヒト種がBSHOパイロットを務めているのは、異質の極みと言える。

「艦隊速度は向こうの方が上だ。我々は引き離されつつある」

 モルンゴール星人の艦長が、低い声で応じて来る。ただ言葉の中身のわりに、その口調に焦りはない。速度を上げたノヴァルナの主力部隊に、ステルスモード航行の自分達が置き去りにされるのは、当初から計算の内だからだ。

「タイミングは合わせられそうか?」とマゴディ

「合わせるさ」

 艦長はそう言い、皮肉を付け加える。

「“雇い主”様がノヴァルナに、あっさり負けなきゃ…の話だがな」

 これを聞いた、マゴディ以外の二人のパイロットが、ガハハ…と豪快に笑い声を上げた。彼等サイガンの潜宙空母艦隊は、ウォーダ軍主力部隊が三人衆軍主力部隊との、交戦状態に入ったタイミングを狙っているのだ。そこへ同僚のモルンゴール星人パイロットが、マゴディに話し掛けて来る。

「それはそうと、マゴディ」

「なんだ?」

「いくら先代…父親の復讐の機会を得たと言っても、感情に流されるなよ」

 その言葉にマゴディは、口許を大きく歪めて笑顔を作った。

「わかっているさ。あくまでもビジネス優先だ」



 後方から追跡して来る潜宙空母艦隊に気付く事なく、ノヴァルナの主力部隊は三人衆軍主力艦隊と、交戦状態に入る。予定通りシルバータの先鋒部隊の突撃・反転に釣り出された形だ。

 三人衆軍主力はナーガス=ミョルジ、ソーン=ミョルジ、トゥールス=イヴァーネルの、三人衆それぞれの直卒艦隊。これに同じミョルジ一族のガザル=ミョルジの艦隊が加わっており、さらに今回もノヴァルナをつけ狙う、前ミノネリラ宙域星大名オルグターツ=イースキーの艦隊もいた。

「敵艦隊。距離3万6千です!」

 ウォーダ軍総旗艦『ヒテン』のオペレーターが報告すると、ノヴァルナは間髪入れず下令する。

「戦艦部隊は砲戦開始だ」

 その命令を待ちかねていたかのように、ウォーダ軍主力部隊の全戦艦が、一斉に主砲の火蓋を切った。識別用にマゼンタ色の曳光粒子を纏った、主砲のビームが大量にほとばしる。
 
 ウォーダ軍の砲撃に当然、“ミョルジ三人衆”の各戦艦も主砲を撃ち返す。こちらの識別用の曳光粒子は黄色である。漆黒の宇宙空間に、網膜を焼くほどの閃光が幾つも起こる様は、死神が振るう大鎌の煌めきを思わせる。

 両軍の距離が詰まると、重巡航艦部隊も主砲射撃に加わる。威力は戦艦ほどではないものの、速射性は戦艦以上だ。つるべ打ちに主砲ビームを発射する。狙うのは戦艦が舷側に並べている盾、遠隔操作型のアクティブシールドである。シールドを過負荷状態にして、防御力を失わさせるためだった。

 すると三人衆の全部隊は、一斉に左方向へ舵を切る。これに合わせて右に舵を切るウォーダ軍主力部隊。両軍が並走しながら砲撃を応酬する“同航戦”だ。

 この状態が十分も続くと、両軍部隊に優劣が現れ始めた。三人衆軍戦艦部隊の、艦列が乱れ始めたのだ。原因は無論、ウォーダ軍との力量の差である。“カノン・ガルザック撤退戦”とそれに続く“アネス・カンヴァーの戦い”が、ウォーダの将兵のレベルを、また一つ高みに押し上げていた、その差であった。

「戦艦『ラスヴァリス』、『アクネルダ』、艦列より脱落!」

「重巡『ククルード』中破、離脱します!」

 “ミョルジ三人衆”軍総旗艦『シンヨウ』で指揮を執る、ナーガス=ミョルジのもとへ次々と、損害報告が届けられる。

「うぬぅ…」

 忌々しそうに唸り声を漏らすナーガス。常に通信回線を開いている第2艦隊司令のソーンと、第3艦隊司令のイヴァーネルが、意見を述べる。

「今回のウォーダの強さ、想定以上だぞ」

 とソーンが言うと、イヴァーネルも進言する。

「これは作戦を第二段階に進める・・・・・・・・・・・前に、何か手を打つべきだ」

 イヴァーネルの意味深な言葉に、思案顔をするナーガス。と、何かを思いついたらしく、ギラリ…と視線を鋭くした。

「よし。ここは一つ、あ奴を焚き付けるとしよう」

 そう言ったナーガスが直々に連絡を入れたのは、主力部隊に編入されていたオルグターツ=イースキーである。第9艦隊を任されているオルグターツは、旗艦である航宙戦艦『ダーガット・ロア』で、指揮を執っていた。

「オルグターツ殿」

「なんでありますかァ。ナーガス殿ォ」

 相変わらずの独特なイントネーションのオルグターツが、通信ホログラムの作り出したナーガスに言葉を返す。

「ここは我等三人衆が、敵を引き付ける。オルグターツ殿にはノヴァルナの第1艦隊に、直接攻撃を仕掛けて頂きたい」

 これを聞いたオルグターツは、両眼を見開いて声を上げた。

「おお!」




▶#06につづく
 
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