銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#12

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 一方、ノヴァルナの直掩に付くべきフォークゼムとモ・リーラも、モルンゴールのBSHOに翻弄されていた。

“くそぅ! ノヴァルナ様の支援に、向かわねばならないのに!”

 不規則な回転を期待に加えて加速する、フォークゼムの『シデン・カイXS』の上下左右に、銃弾が飛来する。相手もフォークゼムの役目に気付いているらしく、追跡しながらもライフルの銃撃で針路の頭を押さえ、マゴディと戦闘中のノヴァルナのもとへ行かせようとはしない。そこへ呼び掛けて来るカール=モ・リーラ。

「ウイザード02! 右へ避けろ!」

 モ・リーラからの通信に、フォークゼムは操縦桿を目一杯右へ倒す。瞬時に反応した機体は、雷光のように横滑りした。その元居た位置を銃弾が二発、三発と飛び過ぎ、後方から追って来ていた『マガツ』を狙う。前方から来るモ・リーラの機体からの銃撃だ。そのモ・リーラも、後方に敵の『マガツ』がいた。

「ウイザード02、ワンチャンスでもいいから、ノヴァルナ様を援護しろ!」

 不意にモ・リーラの銃撃を受けた『マガツ』は、大きく回避運動を取らざるを得ない。その僅かな時間のロスを利用して、フォークゼムは機体を最大加速させ、ノヴァルナのもとへ向かう。
 モ・リーラが機体を包む衝撃を感じたのはその直後だ。自分を追っていた敵BSHOの銃弾が、機体の左脚の膝から下を破壊したのだった。

「これぐらいなら、どうってことねぇ!!」

 砕けた左脚がバラ撒く破片も気にする事無く、機体を強引に捻り込ませて背後を向いたモ・リーラは、超電磁ライフルを撃ち返しながら、ポジトロンパイクをバックパックから握り取る。だが一瞬後、眼の前には敵の『マガツ』がいた。まるで瞬間移動だ。先手を取った敵機が上段から振り下ろすポジトロンパイク。
 次の刹那、敵のポジトロンパイクを自らのパイクで受け止めたモ・リーラは、咄嗟の閃きでNNLを使い、機体の重力制御を停止した。受け止めたパイクの衝撃が慣性を生み、そのまま急降下。間合いの取り直しに成功する。

 そして彼等の激闘は無駄ではなかった。僅かな間だがフリーハンド状態となったフォークゼムは、ノヴァルナと戦っている二機のうち、支援攻撃に回っている『マガツ』に対し、超電磁ライフルによる単発モードでの準狙撃を行ったのだ。

「ウイザード01へ。敵支援機に射撃する」

 通信でそう告げて、フォークゼムはトリガーを引く。別方向からの射撃に、急旋回の回避を行う『マガツ』。しかしそれはノヴァルナのいる位置からすると、直線的な動きだった。『オロチ』の斬撃が『センクウ・カイFX』の胸部を、浅く斬るに任せて、ノヴァルナはもう一機の『マガツ』に向け、超電磁ライフルを放つ。

「マズい、回避しろ!」

 マゴディの咄嗟の指示も間に合わず、敵の『マガツ』はバックパックに銃弾を受けて、爆発を起こした。
 
 味方を一機失っても、マゴディに動揺した様子は微塵も見えない。

「ち…迂闊な」

 短い言葉で吐き捨てるように言い放ったマゴディだが、ノヴァルナと親衛隊である『ホロウシュ』の連携が、見事であった事は認めざるを得ない。仲間のBSHO全機との通信回線を開いて、指示を出す。

「マゴディから全機。ブリーフィングで言った事を繰り返すが、ノヴァルナと親衛隊を組ますんじゃねぇ。各個に引き離せ」

 そう言いながらノヴァルナの『センクウ・カイFX』へ、ポジトロンパイクで仕掛けようとするマゴディは、スロットルの横に並んで設置されている、小振りなレバーを指先で引き倒した。

「バックアップも居なくなったし、本気度を上げるとするか!」

 その言葉が終わらないうちに、マゴディをシートにめり込ませるほどの加速を見せた『オロチ』は、すでに『センクウ・カイFX』を斬撃の間合いに捉えている。

「!!!!」

 これまで以上の『オロチ』の加速に、驚くノヴァルナ。斬撃の速度とパワーもさらに上がっている。
 『オロチ』はモルンゴール帝国製BSHOの中でも、トップレベルでジェネレーター出力が大きく、ヒト種が使うには肉体的な負担が大き過ぎる機体だった。そこでマゴディの『オロチ』は、通常戦闘ではジェネレーター出力に、70パーセントのリミッターを設定していたのだ。
 同時にマゴディのパイロットスーツの全体が、僅かながら膨らむ。耐圧性を増して重力子ダンパーを超える、G負荷を軽減するためのものである。

 もし宇宙空間でも音が聞こえるのであれば、一キロ先でもバキン!という轟音が聞こえそうな勢いで、ノヴァルナの『センクウ・カイFX』と、マゴディの『オロチ』のポジトロンパイクが打ち合わされた。大量の青い火花が飛び散り、パワー負けした『センクウ・カイFX』は後ろへ押し戻される。

「クッ!」

 奥歯を噛み締め、フットペダルを踏み込むノヴァルナ。機体のバックパック後方で、オレンジ色の光に輝く重力子のリングが目まぐるしく発生し、機体の後退をとどめる。

「おお。よく止めたなノヴァルナ。流石だ。だがこれはどうだ!?」

 その言葉と共にノヴァルナのパイクを跳ね上げた、マゴディのパイクが一回転して下から迫る。一線級のパイロットでも見切れない速さだ。万事休暇と思われたその時、ノヴァルナの“トランサー”が発動した。NNLを通して周囲の全ての情報が、意識とリンクすると、あり得ない反射速度で機体を横回転。僅か数十センチの差で、マゴディの必殺の斬撃を躱す。
 
“今のを躱した!?”

 内心で眉をひそめたマゴディは、思考を中断して即座に回避行動を取る。脇腹を掠める『センクウ・カイFX』のポジトロンパイク。あれ以上余計な事を考えて、一秒でも回避が遅れていたなら、腹部を両断されているところだ。俄然、瞬発力が増した『センクウ・カイFX』の二撃、三撃を弾きながら、マゴディは思考を再開させる。

「なるほど。これが“トランサー”か!」

 そう言いながら至近距離からマゴディは、超電磁ライフルを構えた。しかしその時にはもう、銃口の先に『センクウ・カイFX』の姿はない。マゴディの動きを読んで急降下に入っていたのだ。その後をマゴディが放った連射の銃弾が追うが、後追いでは当たらない。逆に撃ち返して来るノヴァルナの銃撃に、マゴディは際どい回避を強いられた。一弾を躱すと、その躱した位置に間髪入れず、次の弾が飛来するからである。マゴディにすればまるで自分の未来位置を、ノヴァルナに知られているかのような感覚に囚われるというものだ。

「話にゃ聞いていたが、少々面倒だな」

 “トランサー”能力がどういうものかは、知識としては知っていたマゴディだったが、実際に戦うのはこれが初めてである。対するノヴァルナは、無論この事は知らないが、今の状況を活かして有利な展開に巻き返したいところだ。

“ヤツの動きが読めさえすりゃ、モルンゴールの機体相手でも、どうにかなる”

 そう思いながらノヴァルナは、空になったライフルの弾倉を素早く交換。高速機動で回避運動を続ける『オロチ』に照準して射撃。するとNNLシステムとのサイバーリンク深度を深くしている意識が、『オロチ』の次の回避行動を読み取る。その回避行動のコース上へ向けて、二発目、三発目を放った。

 これらの銃撃を全て紙一重で躱した『オロチ』は、不利になった状況を立て直すためか、急加速をかけてノヴァルナと距離を置こうとする。この機会を逃すまいと追撃するノヴァルナ。

 相手の機体の動きが読める、というと“トランサー”は超能力のように思える。しかしそうではなく、サイバーリンク深度の深まりにより、敵味方双方のNNLシステムと意識が一体化する事で、マゴディによって『オロチ』に入力された、操縦の情報を認識。さらにノヴァルナの意識は、『センクウ・カイFX』ともリンクしている事で、回避運動を行っているにもかかわらず、『オロチ』に対してより精度の高い銃撃が可能となったのである。




▶#13につづく
 
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