銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#13

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 “トランサー”が発動している時の感覚は、常人からすれば実に奇妙である。

 自分の眼で見えている光景とは別に、意識の中にもう一つの視覚があり、NNLのネットワークが暗闇の中で絡み合い紡ぎ合う、色とりどりの虹の糸のように見えているのだ。そしてそれらの糸が所々で集まって、繭のような塊となっているのが『ホロウシュ』達の機体や、“サイガン衆”達のBSHOであった。この糸のようなものは『センクウ・カイFX』を介して、ノヴァルナの自身のNNLコアと直結しており、様々な情報が実際の視覚より先に、ダイレクトに伝わって来る。

 ただ戦場の状況の全てが伝わって来るノヴァルナには、マゴディの動きが把握できる一方、『ホロウシュ』達の苦戦ぶりも、同時かつ明確に感じ取られてしまう。まだ戦死者こそ出ていないが、ほとんどの機体がどこかしらに損害を受け、防戦一方となっていた。いやモルンゴールのBSHO相手に、親衛隊仕様BSIユニットの一対一で、この程度で済んでいるのはむしろ称賛されるべきであろう。

“ヤツらのためにも、あまり時間はかけてらんねぇ!!”

 強い意志と共に、ノヴァルナは『センクウ・カイFX』の“高機動戦闘モード”を起動させた。録音されたノアの声が「高機動戦闘モード、スタート」と告げる。コクピットを包む全周囲モニターが映す星の光が一斉に流れ出し、前方を行く『オロチ』との距離が一気に詰まる。超電磁ライフルのセレクターを、“単発射撃”に切り替えるノヴァルナ。機体とそれを操縦する自分の能力が、最大限まで引き出された状態なら、単発射撃の方が集中できる。

 自分の眼の前に展開された、照準センサーのホログラムスクリーンを見詰めるノヴァルナ。だがその意識の半分は、サイバーリンク世界で『オロチ』の操縦系と繋がっていた。口を真一文字にして初弾のトリガーを引く。
 超電磁圧縮された重力子を纏い、瞬時に亜光速まで加速されて、銃口から飛び出す銃弾。ヘルメット内にロックオン警報が鳴る中、緊急回避を行うマゴディ。初弾は躱すと“知っている”ノヴァルナは、諸元を僅かに修正、回避行動の未来位置に向けてもう一発。そしてさらに修正を加えて一発を放った。

 対するマゴディは、極限の状態で恐るべき判断力を見せる。一発目をギリギリで回避。二発目をあえて右のショルダーアーマーで受けると、アーマーは破壊されるに任せてポジトロンパイクを構える。幅の広いパイクの刃は盾代わりとなって、三発目の銃弾を弾き飛ばした。三発目は直撃になると悟っていたのだ。
 
 マゴディの驚異的な技量だが、ノヴァルナもこれある事を読んでいた。エースパイロットとはつまり、そういった反応や読みができる・・・・・・・・・・・・・・レベルの、人間だという事だ。

 たとえ“トランサー”を発動していても、ここまでの『オロチ』の機体性能と、マゴディの技量を鑑みれば、簡単に倒せる相手ではないのを、ノヴァルナは見抜いていた。三発目の銃弾を放つとほぼ同時に最大加速。『オロチ』がポジトロンパイクの刃で銃弾を弾いた時には、“高機動戦闘モード”稼働中の機体は、クァンタムブレードの斬撃の間合いまで瞬時に飛び込んでいる。

 『センクウ・カイFX』が右手に握るポジトロンパイク、左手に握る超電磁ライフルを宇宙空間に手放し、さらに踏み込んでクァンタムブレードを、横一文字に振り抜かせるノヴァルナ。
 しかしマゴディはこの斬撃も、後方への僅かな移動によって紙一重で躱す。“トランサー”を発動させたノヴァルナに対し、動きを止める事の危険性を充分に承知しており、三発目の銃弾をパイクで受けた際、反動を利用して後退の行き足を、生み出していたのだ。

 ただノヴァルナも無論、薙ぎ払いの一撃で済ます気はない。返す刀で一撃、さらに上段からの袈裟懸けでもう一撃と、息をもつかせない連続技を繰り出す。これを必死に躱すマゴディ。高出力の重力子ジェネレーターを搭載した、『オロチ』でなければ、すでに仕留められていただろう。

「しぶとい野郎だぜ!」

 加速をかけて距離を置こうとする『オロチ』にノヴァルナは、宇宙空間に浮かせておいた超電磁ライフルを掴み取って一連射。再びポジトロンパイクの刃を、盾代わりにする『オロチ』だったが、その刃は銃弾を受けて割れ砕けてしまった。先の三発目の銃弾を防いだ時、強度的に限界に達していたのだ。

 これを好機と見たノヴァルナは、超電磁ライフルとともに無重力の宇宙に浮かんでいた、ポジトロンパイクを掴み取って吶喊とっかんした。

「こいつで終わりだ!」

 ところがマゴディも無策ではない。「“サイガンのマゴディ”を侮るな!!」と叫び返すと、『センクウ・カイFX』のポジトロンパイクを、刃が破壊された自分のパイクで受け止める。そして思わぬ行動を取った。自分が操縦している『オロチ』のNNLシステムを、銀河皇国のネットワークから切り離したのである。

「なにィ!?」

 困惑の声を漏らすノヴァルナ。意識内にあった、暗闇に絡み合う虹色の糸の世界から、『オロチ』を示す糸の塊が消失したからだ。




▶#14につづく
 
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