7 / 26
第7話:王城での再会と不器用な優しさ
しおりを挟む
「失礼いたします! アシュリー商会と申します! 本日は、侍女の皆様にぜひお試しいただきたい品がございまして……!」
数日後。
私はギルさんと共に、王城の裏手にある侍女たちの詰所を訪れていた。
ギルさんがどこからか手に入れたコネ(昔の商売仲間らしい)を使って、なんとか売り込みの許可を取り付けたのだ。
「まあ、アシュリー商会? 聞いたことないわね」
「石鹸ですって? 私たちは御用達のがありますから」
侍女たちの反応は、思ったよりも冷ややかだった。
王城で働くというプライドがあるのだろう。新参者の、それも聞いたこともないような商会の品物など、興味がないという顔だ。
「まあまあ、そうおっしゃらずに。こちらも、ただでお配りしている試供品でございますので」
ギルさんが、愛想の良い笑顔でサンプルを差し出す。
その時だった。
ふと、侍女たちの会話が耳に入った。
「そういえば、アレクシス様の肌荒れ、最近ひどいわよね……」
「ええ。お医者様が薬を処方しても、全く良くならないとか」
「呪いのせいかしら……本当にお可哀想に」
――アレクシス様?
その名前に、私の心臓がドキンと跳ねた。
そうか、彼はこの城に住んでいるのだ。
当たり前のことなのに、すっかり忘れていた。
彼の肌荒れ……。
夜会で見た時、確かに彼の顔の痣だけでなく、その周りの肌も少し赤くなっているように見えた。
もしかしたら、この石鹸が役に立つかもしれない。
そう思った瞬間、私はいてもたってもいられなくなった。
「あの! そのアレクシス様というのは、どちらにいらっしゃるのでしょうか!?」
思わず、大きな声が出てしまった。
侍女たちは、きょとんとした顔で私を見る。
「え? 第二王子殿下のことよ。それが何か……?」
「その方の肌荒れ、もしかしたらこの石鹸で治るかもしれません! どうか、試させていただけませんか!」
私の必死の剣幕に、侍女たちは顔を見合わせ、困惑している。
「な、何を言っているの……? 王子殿下に、こんな得体の知れないものを……」
「リナお嬢、落ち着いてくだせぇ!」
ギルさんが慌てて私を止めようとする。
その時だった。
「……外が騒がしいな。何事だ?」
凛とした、しかしどこか不機嫌そうな声が、廊下の奥から響いた。
その声に、私はハッとして振り返る。
そこに立っていたのは、紛れもない。
漆黒の髪に、赤い瞳を持つ、呪われ王子――アレクシス様、その人だった。
「……お前は、夜会の時の……」
アレクシス様は、私の顔を見て、わずかに目を見開いた。
「あ、アレクシス様……!」
侍女たちが、慌てて膝をつく。
私もギルさんも、それに倣って深く頭を下げた。
「こんなところで何をしている」
冷たい声が、頭上から降ってくる。
どうしよう。
何か言わなければ。
私は、勇気を振り絞って顔を上げた。
そして、手に持っていた一番上等な、カモミールの石鹸を、彼に差し出した。
「これ、を……! どうか、お使いください!」
「……は?」
アレクシス様は、眉をひそめる。
「あなたの肌荒れが、良くなるかもしれません! 刺激の少ない成分で作りましたから……!」
何を言っているんだろう、私は。
王族に対して、あまりにも無礼すぎる。
処罰されても、文句は言えない。
しかし、アレクシス様の反応は、意外なものだった。
彼は何も言わずに、私の手から石鹸を受け取った。
その指先が、ほんの少しだけ私の手に触れて、心臓が大きく跳ねた。
「……くだらん」
彼はそう一言だけ呟くと、私に背を向けて、廊下の奥へと去っていってしまった。
後に残されたのは、呆然とする私とギルさん、そして、唖然とした顔の侍女たちだけ。
「……リナお嬢。あんた、とんでもねぇことしでかしたな……」
ギルさんが、呆れたようにため息をつく。
「でもよ……もしかしたら、これが一番の宣伝になるかもしれねぇぜ?」
その言葉の意味を、私はまだ理解できずにいた。
ただ、アレクシス様が受け取ってくれたという事実だけで、胸がいっぱいだった。
数日後。
私はギルさんと共に、王城の裏手にある侍女たちの詰所を訪れていた。
ギルさんがどこからか手に入れたコネ(昔の商売仲間らしい)を使って、なんとか売り込みの許可を取り付けたのだ。
「まあ、アシュリー商会? 聞いたことないわね」
「石鹸ですって? 私たちは御用達のがありますから」
侍女たちの反応は、思ったよりも冷ややかだった。
王城で働くというプライドがあるのだろう。新参者の、それも聞いたこともないような商会の品物など、興味がないという顔だ。
「まあまあ、そうおっしゃらずに。こちらも、ただでお配りしている試供品でございますので」
ギルさんが、愛想の良い笑顔でサンプルを差し出す。
その時だった。
ふと、侍女たちの会話が耳に入った。
「そういえば、アレクシス様の肌荒れ、最近ひどいわよね……」
「ええ。お医者様が薬を処方しても、全く良くならないとか」
「呪いのせいかしら……本当にお可哀想に」
――アレクシス様?
その名前に、私の心臓がドキンと跳ねた。
そうか、彼はこの城に住んでいるのだ。
当たり前のことなのに、すっかり忘れていた。
彼の肌荒れ……。
夜会で見た時、確かに彼の顔の痣だけでなく、その周りの肌も少し赤くなっているように見えた。
もしかしたら、この石鹸が役に立つかもしれない。
そう思った瞬間、私はいてもたってもいられなくなった。
「あの! そのアレクシス様というのは、どちらにいらっしゃるのでしょうか!?」
思わず、大きな声が出てしまった。
侍女たちは、きょとんとした顔で私を見る。
「え? 第二王子殿下のことよ。それが何か……?」
「その方の肌荒れ、もしかしたらこの石鹸で治るかもしれません! どうか、試させていただけませんか!」
私の必死の剣幕に、侍女たちは顔を見合わせ、困惑している。
「な、何を言っているの……? 王子殿下に、こんな得体の知れないものを……」
「リナお嬢、落ち着いてくだせぇ!」
ギルさんが慌てて私を止めようとする。
その時だった。
「……外が騒がしいな。何事だ?」
凛とした、しかしどこか不機嫌そうな声が、廊下の奥から響いた。
その声に、私はハッとして振り返る。
そこに立っていたのは、紛れもない。
漆黒の髪に、赤い瞳を持つ、呪われ王子――アレクシス様、その人だった。
「……お前は、夜会の時の……」
アレクシス様は、私の顔を見て、わずかに目を見開いた。
「あ、アレクシス様……!」
侍女たちが、慌てて膝をつく。
私もギルさんも、それに倣って深く頭を下げた。
「こんなところで何をしている」
冷たい声が、頭上から降ってくる。
どうしよう。
何か言わなければ。
私は、勇気を振り絞って顔を上げた。
そして、手に持っていた一番上等な、カモミールの石鹸を、彼に差し出した。
「これ、を……! どうか、お使いください!」
「……は?」
アレクシス様は、眉をひそめる。
「あなたの肌荒れが、良くなるかもしれません! 刺激の少ない成分で作りましたから……!」
何を言っているんだろう、私は。
王族に対して、あまりにも無礼すぎる。
処罰されても、文句は言えない。
しかし、アレクシス様の反応は、意外なものだった。
彼は何も言わずに、私の手から石鹸を受け取った。
その指先が、ほんの少しだけ私の手に触れて、心臓が大きく跳ねた。
「……くだらん」
彼はそう一言だけ呟くと、私に背を向けて、廊下の奥へと去っていってしまった。
後に残されたのは、呆然とする私とギルさん、そして、唖然とした顔の侍女たちだけ。
「……リナお嬢。あんた、とんでもねぇことしでかしたな……」
ギルさんが、呆れたようにため息をつく。
「でもよ……もしかしたら、これが一番の宣伝になるかもしれねぇぜ?」
その言葉の意味を、私はまだ理解できずにいた。
ただ、アレクシス様が受け取ってくれたという事実だけで、胸がいっぱいだった。
131
あなたにおすすめの小説
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
会えば喧嘩ばかりの婚約者と腹黒王子の中身が入れ替わったら、なぜか二人からアプローチされるようになりました
黒木メイ
恋愛
伯爵令嬢ソフィアと第一王子の護衛隊長であるレオンの婚約は一年を迎えるが、会えば口喧嘩、会わなければ音信不通というすれ違いの日々。約束を破り続けるレオンと両親からの『式だけでも早く挙げろ』という圧に我慢の限界を迎えたソフィアは、ついに彼の職場である王城へと乗り込む。
激しい言い争いを始めた二人の前に現れたのは、レオンの直属の上司であり、優雅な仮面の下に腹黒な本性を隠す第一王子クリスティアーノ。
王子は二人が起こした騒動への『罰』として、王家秘伝の秘薬をレオンに服用させる。その結果――なんとレオンとクリスティアーノの中身が入れ替わってしまった!全ては王子の計画通り。
元に戻るのは八日後。その間、ソフィアはこの秘密がバレないよう、文字通り命がけで奔走することとなる。
期限付きの入れ替わり生活は、不器用な婚約者との関係をどう変えるのか?
そして、この騒動を引き起こした腹黒王子の真の目的とは?
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※他サイトからの転載。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~
藤 ゆみ子
恋愛
グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。
それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。
二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。
けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。
親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。
だが、それはティアの大きな勘違いだった。
シオンは、ティアを溺愛していた。
溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。
そしてシオンもまた、勘違いをしていた。
ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。
絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。
紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。
そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる