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第28話:結婚式の準備と、ささやかな宝物
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カイからの、あの夢のようなプロポーズの翌日から、ヴォルフガントの城の中は、一気にお祭り騒ぎのような、華やかで、そして、とても温かい空気に包まれた。
私とカイの結婚式の準備が、大々的に始まったのだ。
「奥様! 未来の公爵夫人様にふさわしい、最高のウェディングドレスのデザイン画を、大陸中から取り寄せました! さあ、どちらがよろしいですか!?」
「カイ様! 式典にお招きする、各国の王侯貴族のリストの最終ご確認を!」
「料理長! 披露宴のメニューは、王国中の、いえ、世界中の最高級食材を、根こそぎ取り寄せるぞ! 我らが奥様の門出だ、採算など度外視だ!」
ゼバスさんを筆頭に、城の使用人たちが、皆、自分のことのように、目を輝かせながら、そして、最高に張り切って準備を進めてくれている。
その、忙しくも幸せそうな様子を見ているだけで、私の心も、ふわりと温かくなった。
純白のシルクで仕立てられるドレスの仮縫いをしたり、カイと、披露宴で踊るワルツの練習をしたり。
(カイのリードは相変わらず完璧で、練習のたびに、私は彼の胸の中で、うっとりしてしまってばかりだったけれど)
そんな、目まぐるしくも、きらきらと輝く毎日。
そんなある日のこと。
私は、カイと一緒に、城下町へ、二人きりで買い物に出かけていた。
結婚式で使う、細々としたものを、自分たちの目で直接選びたかったからだ。もちろん、お互いに簡単な変装をして、お忍びで。
「カイ、見てくださいな。このリボン、とても繊細で綺麗ですわ。招待状の飾りに使ったら、きっと素敵」
「ああ。だが、お前の髪に飾った方が、もっと似合うだろうな」
「こっちの銀食器も、素敵ね。お客様をおもてなしするのに、良さそうだわ」
「ああ。……だが、俺は、お前が作った料理が乗っていれば、どんな木の皿でも、世界一のご馳走だ」
さらり、と、息をするように、そんな甘いことを言う。
本当に、この人は、油断も隙もない。私の心臓は、一日中、鳴りっぱなしだ。
二人で、他愛もない話をしながら、店を冷やかして歩いていると、一軒の、古びた、けれど趣のある小さな宝石店の前で、私の足が、自然と止まった。
ショーウィンドウに、一対の、シンプルな銀の腕輪(ブレスレット)が、寄り添うように飾られていたのだ。
華美な装飾はないけれど、表面には、幸せを呼ぶという、古代の守護紋様が、繊細な彫刻で施されている。
「……綺麗……」
「欲しいのか?」
「いいえ、とんでもない! ただ、素敵だな、と思いまして。……なんだか、私たちみたい、ですわね」
二つで、一つ。
どちらが欠けても成り立たない、その腕輪が、なんだか、私たち自身のように思えたのだ。
すると、カイは、何も言わずに、その店の中へすっと入っていった。
そして、私が止める間もなく、すぐに、その腕輪を収めた小さな布袋を持って、出てきた。
「カイ……!?」
「……つけるぞ」
彼は、私の手首を取り、片方の腕輪を、その大きな手で、そっとはめてくれた。
ひんやりとした銀の感触が、心地いい。
そして、もう片方を、自分の逞しい手首につける。
「……お揃い、だな」
少し、本当に少しだけ、照れくさそうに、彼は言った。
高価な宝石ではない。ただの、銀の腕輪。
でも、私にとっては、今までもらった、どんな高価な贈り物よりも、嬉しい、大切な宝物だった。
彼と、同じものを身につけている。
離れていても、これを見れば、彼を感じられる。
その事実が、たまらなく、私の心を、くすぐった。
「ありがとう、カイ。一生、大切にしますわ」
私は、彼の手を、ぎゅっと握った。
彼も、強く、強く、握り返してくれる。
街の人々が、そんな私たちを見て、その正体に気づいているのかいないのか、「お二人さん、お幸せに!」と、温かい声をかけてくれる。
その度に、私たちは、顔を見合わせて、はにかむように微笑み合った。
特別なことなんて、何もない。
ただ、愛する人と、手を繋いで、穏やかな陽の光の中を歩く。
そんな、ささやかなことが、こんなにも幸せで、こんなにも満ち足りた気持ちになるのだと、私は、このヴォルフガントの地に来て、初めて知った。
結婚式まで、あと、一週間。
私の人生で、一番、幸せな日が、もう、すぐそこまで、やってきていた。
私とカイの結婚式の準備が、大々的に始まったのだ。
「奥様! 未来の公爵夫人様にふさわしい、最高のウェディングドレスのデザイン画を、大陸中から取り寄せました! さあ、どちらがよろしいですか!?」
「カイ様! 式典にお招きする、各国の王侯貴族のリストの最終ご確認を!」
「料理長! 披露宴のメニューは、王国中の、いえ、世界中の最高級食材を、根こそぎ取り寄せるぞ! 我らが奥様の門出だ、採算など度外視だ!」
ゼバスさんを筆頭に、城の使用人たちが、皆、自分のことのように、目を輝かせながら、そして、最高に張り切って準備を進めてくれている。
その、忙しくも幸せそうな様子を見ているだけで、私の心も、ふわりと温かくなった。
純白のシルクで仕立てられるドレスの仮縫いをしたり、カイと、披露宴で踊るワルツの練習をしたり。
(カイのリードは相変わらず完璧で、練習のたびに、私は彼の胸の中で、うっとりしてしまってばかりだったけれど)
そんな、目まぐるしくも、きらきらと輝く毎日。
そんなある日のこと。
私は、カイと一緒に、城下町へ、二人きりで買い物に出かけていた。
結婚式で使う、細々としたものを、自分たちの目で直接選びたかったからだ。もちろん、お互いに簡単な変装をして、お忍びで。
「カイ、見てくださいな。このリボン、とても繊細で綺麗ですわ。招待状の飾りに使ったら、きっと素敵」
「ああ。だが、お前の髪に飾った方が、もっと似合うだろうな」
「こっちの銀食器も、素敵ね。お客様をおもてなしするのに、良さそうだわ」
「ああ。……だが、俺は、お前が作った料理が乗っていれば、どんな木の皿でも、世界一のご馳走だ」
さらり、と、息をするように、そんな甘いことを言う。
本当に、この人は、油断も隙もない。私の心臓は、一日中、鳴りっぱなしだ。
二人で、他愛もない話をしながら、店を冷やかして歩いていると、一軒の、古びた、けれど趣のある小さな宝石店の前で、私の足が、自然と止まった。
ショーウィンドウに、一対の、シンプルな銀の腕輪(ブレスレット)が、寄り添うように飾られていたのだ。
華美な装飾はないけれど、表面には、幸せを呼ぶという、古代の守護紋様が、繊細な彫刻で施されている。
「……綺麗……」
「欲しいのか?」
「いいえ、とんでもない! ただ、素敵だな、と思いまして。……なんだか、私たちみたい、ですわね」
二つで、一つ。
どちらが欠けても成り立たない、その腕輪が、なんだか、私たち自身のように思えたのだ。
すると、カイは、何も言わずに、その店の中へすっと入っていった。
そして、私が止める間もなく、すぐに、その腕輪を収めた小さな布袋を持って、出てきた。
「カイ……!?」
「……つけるぞ」
彼は、私の手首を取り、片方の腕輪を、その大きな手で、そっとはめてくれた。
ひんやりとした銀の感触が、心地いい。
そして、もう片方を、自分の逞しい手首につける。
「……お揃い、だな」
少し、本当に少しだけ、照れくさそうに、彼は言った。
高価な宝石ではない。ただの、銀の腕輪。
でも、私にとっては、今までもらった、どんな高価な贈り物よりも、嬉しい、大切な宝物だった。
彼と、同じものを身につけている。
離れていても、これを見れば、彼を感じられる。
その事実が、たまらなく、私の心を、くすぐった。
「ありがとう、カイ。一生、大切にしますわ」
私は、彼の手を、ぎゅっと握った。
彼も、強く、強く、握り返してくれる。
街の人々が、そんな私たちを見て、その正体に気づいているのかいないのか、「お二人さん、お幸せに!」と、温かい声をかけてくれる。
その度に、私たちは、顔を見合わせて、はにかむように微笑み合った。
特別なことなんて、何もない。
ただ、愛する人と、手を繋いで、穏やかな陽の光の中を歩く。
そんな、ささやかなことが、こんなにも幸せで、こんなにも満ち足りた気持ちになるのだと、私は、このヴォルフガントの地に来て、初めて知った。
結婚式まで、あと、一週間。
私の人生で、一番、幸せな日が、もう、すぐそこまで、やってきていた。
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