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第二幕:霜降る大地に咲く希望の蕾
第10話:凍土に芽吹く小さな変化
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カシアン様が私の部屋の窓を修理してくれた一件以来、私たちの間には僅かな変化が生まれたような気がした。相変わらず会話は少なかったが、食事の時に彼が私に視線を向ける回数が増えたり、時折、城の様子や領地の気候についてぽつりぽつりと話してくれるようになったのだ。
それは、彼なりの歩み寄りなのかもしれない。あるいは、単なる気まぐれか。私にはまだ、彼の真意を測りかねていた。
そんなある日、私は城の図書室を訪れた。王都の屋敷ほどではないが、それでも多くの書物が収められており、歴史書や兵法書、そしてこの北方の土地に関する記録などが並んでいた。私は元々読書が好きだったし、この土地のことをもっと知りたいという思いもあった。
図書室の隅の埃っぽい棚に、一冊の古びた植物図鑑を見つけた。表紙には、この地方特有の草花が描かれている。興味を惹かれて手に取り、ページをめくってみると、そこには見たこともないような美しい高山植物や、薬草として用いられる植物などが詳細に記されていた。
(こんな厳しい土地にも、こんなにたくさんの植物が生きているのね……)
私は夢中になって図鑑を読みふけった。王都では見たこともないような、力強く、そして可憐な植物たち。その姿は、この厳しい環境で生きる人々の姿と重なるようにも思えた。
「……珍しいな。お前がこのようなものに興味を持つとは」
不意に背後から声をかけられ、私は驚いて振り返った。そこには、カシアン様が立っていた。いつからそこにいたのだろうか、全く気づかなかった。
「カシアン様……。こ、この土地の植物に興味がありまして」
「ほう。薬草か?」
「いえ、そういうわけでは……ただ、美しいと思いまして」
私がそう言うと、彼は意外そうな顔をした。そして、私が手にしていた図鑑を覗き込み、あるページを指差した。
「……これは、スノーティアと呼ばれる花だ。雪解けの頃、一番最初に咲く」
彼が指差したページには、純白の小さな花が描かれていた。その名の通り、まるで雪の涙のような、儚げで美しい花だった。
「……綺麗ですわね」
「ああ。この地の春の訪れを告げる花だ」
彼の声には、どこか誇らしげな響きがあった。
「もし興味があるなら、春になれば見に行くといい。城の裏手の谷間に、群生地がある」
「本当ですか!?」
思わず、私は声を弾ませていた。ずっと城の中に閉じこもっているような生活だったので、外に出られるというだけで嬉しかったのだ。
「ああ。ただし、一人で行くのは危険だ。護衛をつけよう」
「ありがとうございます、カシアン様!」
私は満面の笑みで礼を言った。すると、カシアン様は少し驚いたように目を見開き、そして、ふいと顔を逸らした。その耳が、僅かに赤くなっているように見えたのは、気のせいだろうか。
その日以来、私は図書室に通い詰め、この土地の植物について学ぶようになった。そして、時折カシアン様も図書室に顔を出し、私が読んでいる本について言葉を交わすようになった。それは、ほんの些細な変化だったが、私の心には確かな温もりが芽生え始めていた。
この氷の城にも、いつか春が訪れるのかもしれない。そして、私の心にも、スノーティアのような小さな希望の花が咲く日が来るのかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、私は凍土での日々を過ごしていくのだった。
それは、彼なりの歩み寄りなのかもしれない。あるいは、単なる気まぐれか。私にはまだ、彼の真意を測りかねていた。
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「……珍しいな。お前がこのようなものに興味を持つとは」
不意に背後から声をかけられ、私は驚いて振り返った。そこには、カシアン様が立っていた。いつからそこにいたのだろうか、全く気づかなかった。
「カシアン様……。こ、この土地の植物に興味がありまして」
「ほう。薬草か?」
「いえ、そういうわけでは……ただ、美しいと思いまして」
私がそう言うと、彼は意外そうな顔をした。そして、私が手にしていた図鑑を覗き込み、あるページを指差した。
「……これは、スノーティアと呼ばれる花だ。雪解けの頃、一番最初に咲く」
彼が指差したページには、純白の小さな花が描かれていた。その名の通り、まるで雪の涙のような、儚げで美しい花だった。
「……綺麗ですわね」
「ああ。この地の春の訪れを告げる花だ」
彼の声には、どこか誇らしげな響きがあった。
「もし興味があるなら、春になれば見に行くといい。城の裏手の谷間に、群生地がある」
「本当ですか!?」
思わず、私は声を弾ませていた。ずっと城の中に閉じこもっているような生活だったので、外に出られるというだけで嬉しかったのだ。
「ああ。ただし、一人で行くのは危険だ。護衛をつけよう」
「ありがとうございます、カシアン様!」
私は満面の笑みで礼を言った。すると、カシアン様は少し驚いたように目を見開き、そして、ふいと顔を逸らした。その耳が、僅かに赤くなっているように見えたのは、気のせいだろうか。
その日以来、私は図書室に通い詰め、この土地の植物について学ぶようになった。そして、時折カシアン様も図書室に顔を出し、私が読んでいる本について言葉を交わすようになった。それは、ほんの些細な変化だったが、私の心には確かな温もりが芽生え始めていた。
この氷の城にも、いつか春が訪れるのかもしれない。そして、私の心にも、スノーティアのような小さな希望の花が咲く日が来るのかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、私は凍土での日々を過ごしていくのだった。
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