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第二幕:霜降る大地に咲く希望の蕾
第11話:侍女アーニャからの便り
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グレイロック城での生活にも少しずつ慣れてきた頃、王都の侍女アーニャから手紙が届いた。遠く離れた故郷からの便りは、私の心を揺さぶるには十分だった。
震える手で封を開けると、そこにはアーニャの几帳面な文字で、王都の様子や私の身を案じる言葉が綴られていた。
『セラフィナお嬢様、お元気でお過ごしでしょうか。北の地はさぞかし寒いことと存じますが、お身体を壊されてはいらっしゃいませんか?』
アーニャの優しい言葉に、思わず涙がこぼれそうになる。彼女だけは、ずっと私のことを気にかけてくれているのだ。
手紙には、ヴァレリウス公爵家の近況も記されていた。父は相変わらず厳格に公務に励んでいること。エラーラ様は、イゾルデ様を伴って夜会や観劇に明け暮れていること。そして、イゾルデ様とアラリック王子の婚約は順調に進んでおり、近々正式な婚約発表の祝宴が開かれる予定であること。
(やはり、イゾルデは思い通りに事を進めているのね……)
苦々しい思いが胸に広がる。私を陥れて手に入れた幸せ。それが長く続くとは思えないが、今はまだ、彼女の思う壺なのだろう。
手紙の最後には、こう書かれていた。
『お嬢様、どうかご自分をお責めになりませんように。そして、決して希望をお捨てになりませんように。私はいつまでも、お嬢様の味方でございます。いつか必ず、お嬢様の無実が証明され、本当の笑顔を取り戻される日が来ることを、心よりお祈り申し上げております』
アーニャの変わらぬ忠誠心と温かい励ましに、私は胸が熱くなるのを感じた。そうだ、私は一人ではない。遠く離れていても、私のことを信じ、応援してくれる人がいるのだ。
(ありがとう、アーニャ。私は大丈夫よ。必ず、ここで自分の居場所を見つけてみせるわ)
私はペンを取り、アーニャへの返事を書き始めた。北の地の厳しい自然、グレイロック城での生活、そして、カシアン様のこと。全てを正直に書くことはできなかったが、元気に暮らしていること、そして希望を失っていないことを伝えたかった。
カシアン様については、どう書くべきか少し迷った。冷酷な男だと書くべきか、それとも、時折見せる不器用な優しさについて触れるべきか。結局、私は「カシアン様は口数の少ない方ですが、決して悪い方ではないと思います」とだけ記した。それが、今の私が彼に対して抱いている偽らざる気持ちだったからだ。
手紙を書き終え、封をすると、少しだけ心が軽くなったような気がした。過去を完全に忘れることはできない。しかし、未来に向かって歩き出す勇気は、少しずつ湧いてきている。
アーニャからの便りは、凍てついた私の心に差し込んだ一筋の陽光のように、温かく、そして力強いものだった。
震える手で封を開けると、そこにはアーニャの几帳面な文字で、王都の様子や私の身を案じる言葉が綴られていた。
『セラフィナお嬢様、お元気でお過ごしでしょうか。北の地はさぞかし寒いことと存じますが、お身体を壊されてはいらっしゃいませんか?』
アーニャの優しい言葉に、思わず涙がこぼれそうになる。彼女だけは、ずっと私のことを気にかけてくれているのだ。
手紙には、ヴァレリウス公爵家の近況も記されていた。父は相変わらず厳格に公務に励んでいること。エラーラ様は、イゾルデ様を伴って夜会や観劇に明け暮れていること。そして、イゾルデ様とアラリック王子の婚約は順調に進んでおり、近々正式な婚約発表の祝宴が開かれる予定であること。
(やはり、イゾルデは思い通りに事を進めているのね……)
苦々しい思いが胸に広がる。私を陥れて手に入れた幸せ。それが長く続くとは思えないが、今はまだ、彼女の思う壺なのだろう。
手紙の最後には、こう書かれていた。
『お嬢様、どうかご自分をお責めになりませんように。そして、決して希望をお捨てになりませんように。私はいつまでも、お嬢様の味方でございます。いつか必ず、お嬢様の無実が証明され、本当の笑顔を取り戻される日が来ることを、心よりお祈り申し上げております』
アーニャの変わらぬ忠誠心と温かい励ましに、私は胸が熱くなるのを感じた。そうだ、私は一人ではない。遠く離れていても、私のことを信じ、応援してくれる人がいるのだ。
(ありがとう、アーニャ。私は大丈夫よ。必ず、ここで自分の居場所を見つけてみせるわ)
私はペンを取り、アーニャへの返事を書き始めた。北の地の厳しい自然、グレイロック城での生活、そして、カシアン様のこと。全てを正直に書くことはできなかったが、元気に暮らしていること、そして希望を失っていないことを伝えたかった。
カシアン様については、どう書くべきか少し迷った。冷酷な男だと書くべきか、それとも、時折見せる不器用な優しさについて触れるべきか。結局、私は「カシアン様は口数の少ない方ですが、決して悪い方ではないと思います」とだけ記した。それが、今の私が彼に対して抱いている偽らざる気持ちだったからだ。
手紙を書き終え、封をすると、少しだけ心が軽くなったような気がした。過去を完全に忘れることはできない。しかし、未来に向かって歩き出す勇気は、少しずつ湧いてきている。
アーニャからの便りは、凍てついた私の心に差し込んだ一筋の陽光のように、温かく、そして力強いものだった。
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