追放された悪役令嬢は、氷の辺境伯に何故か過保護に娶られました ~今更ですが、この温もりは手放せません!?~

放浪人

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第二幕:霜降る大地に咲く希望の蕾

第12話:理解の兆し/共有された瞬間

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アーニャからの手紙を読んだ後、私は少しだけ前向きな気持ちで日々を過ごせるようになっていた。そんなある日、城の厨房を通りかかった時、料理人たちが何やら困った様子で話し合っているのを見かけた。

「どうしたのですか? 何か問題でも?」

私が声をかけると、料理長が申し訳なさそうな顔で答えた。

「それが奥様、本日予定しておりました保存食の仕込みなのですが、材料の一つである薬草が足りなくなってしまいまして……。この時期、城の備蓄も少なくなっており、困っておりました」

この北の地では、冬の間の食料を確保するために、秋のうちに大量の保存食を作るのが習わしだという。そのための薬草が足りないというのは、確かに問題だ。

「その薬草、どのようなものか教えていただけますか? もしかしたら、私にも何かお手伝いできるかもしれません」

先日読んだ植物図鑑の知識が役立つかもしれないと思ったのだ。料理長は驚いた顔をしたが、すぐに薬草の名前と特徴を教えてくれた。それは、私が図鑑で見たことのある、比較的見つけやすい薬草だった。

「もしよろしければ、私が探しに行きましょうか? 城の近くの森なら、少しは土地勘もありますし」

「よろしいのですか、奥様!? しかし、危険では……」

「大丈夫です。もちろん、護衛の方もつけていただきますし」

私の申し出に、料理長は恐縮しながらも、深く感謝してくれた。すぐにカシアン様に許可を取り、私は数名の護衛と共に、薬草を探しに城の近くの森へ出かけることになった。

森の中はひんやりとしていたが、木々の間から差し込む陽光が暖かく、心地よかった。私は図鑑で見た知識を頼りに、注意深く薬草を探した。護衛の兵士たちは、最初は戸惑っている様子だったが、私が的確に薬草を見つけ出すのを見て、次第に感心したような表情に変わっていった。

数時間後、私たちは籠いっぱいの薬草を手に、城へ戻ることができた。厨房では、料理長をはじめとする料理人たちが、私たちの帰りを今か今かと待ちわびていた。

「奥様! 本当に、こんなにたくさんの薬草を……! ありがとうございます!」

料理長は深々と頭を下げ、何度も感謝の言葉を繰り返した。他の料理人たちも、私を見る目が以前とは少し違っているように感じられた。それは、感謝と、そして僅かな敬意が混じったような眼差しだった。

その夜の食事の時、カシアン様が私に尋ねた。

「……今日は、森へ薬草を採りに行ったそうだな」

「はい。少しでもお役に立てればと思いまして」

「……そうか。ご苦労だった」

彼の言葉は相変わらず短かったが、その声には、どこか温かい響きが感じられた。

「あの、カシアン様」

「なんだ」

「……この城の皆さんは、私が王都から来たよそ者だから、警戒していらっしゃるのだと思っていました。でも、今日、少しだけですが、皆さんの役に立てたような気がして……嬉しかったのです」

私の言葉に、カシアン様はしばらく黙って私を見つめていた。そして、ぽつりと言った。

「……お前は、お前が思うよりも、ずっと強い人間だ」

その言葉は、私の胸の奥深くに、じんわりと染み渡った。彼が、私のことを認めてくれた。そう感じただけで、私は満たされた気持ちになった。

それは、ほんの些細な出来事だったかもしれない。しかし、私とカシアン様、そしてこの城の人々との間に、確かな理解の兆しが生まれた瞬間だったように思う。この氷の城にも、少しずつ温かい風が吹き始めているのかもしれない。
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