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第二幕:霜降る大地に咲く希望の蕾
第13話:カシアンの過去と隠された優しさ
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薬草採りの一件以来、城の者たちの私に対する態度は、少しずつ軟化してきたように感じられた。特に厨房の者たちは、私を見かけると笑顔で挨拶してくれるようになり、時には新しい料理の試食を勧めてくれることもあった。それは、私にとって大きな喜びだった。
カシアン様との関係も、以前よりは打ち解けてきたように思う。相変わらず口数は少なかったが、時折、彼の過去や領地のことについて話してくれるようになったのだ。
ある夜、いつものように二人で夕食をとっていると、彼が不意に口を開いた。
「……お前は、なぜ俺の顔の傷について、それ以上聞かないのだ」
以前、私が彼の傷を気遣う言葉をかけたことがあったが、それ以来、その話題に触れることはなかった。
「……お話しになりたくないことなのかもしれないと、思いましたから」
「……そうか」
彼はしばらく黙っていたが、やがて、ぽつりぽつりと語り始めた。
「この傷は、若い頃、隣国との戦で負ったものだ。あの時は、死ぬかと思った」
彼の声には、当時の壮絶な状況を物語るような重みがあった。
「……大変なご経験をなさったのですね」
「戦場では、日常茶飯事だ。俺だけではない。この城の者たちの多くが、家族や友を戦で失っている。だからこそ、我々は強くならねばならんのだ。この厳しい土地で生き抜き、大切なものを守るためには」
彼の言葉は、氷の辺境伯と呼ばれる所以を物語っているようだった。彼は、ただ冷酷なのではない。この地で生きる人々を守るために、非情にならざるを得なかったのだ。
「……カシアン様は、お優しいのですね」
思わず、私の口からそんな言葉がこぼれた。彼は驚いたように私を見た。
「優しい……? 俺が、か?」
「はい。厳しさの奥に、深い優しさをお持ちなのだと、私は思います。そうでなければ、これほど多くの家臣たちが、あなたに忠誠を誓うはずがありませんわ」
私の言葉に、カシアン様はふっと息を吐き、そして、初めて見るような、穏やかな笑みを浮かべた。それは、本当に僅かな、一瞬の笑みだったが、私の心には強く焼き付いた。
「……お前は、物事の本質を見抜く目を持っているのかもしれないな」
彼はそう言うと、私の手を取り、その甲に軽く口づけをした。その行為はあまりにも自然で、そして、驚くほど優しかった。
「え……」
私は顔を赤らめ、言葉を失った。彼の突然の行動に、心臓が早鐘を打っていた。
「……今夜は、冷える。暖かくして休むといい」
彼はそれだけを言うと、いつものように静かに部屋を出て行った。
一人残された部屋で、私は自分の手の甲をじっと見つめた。彼の唇の感触が、まだ残っているような気がした。
(カシアン様……)
彼のことを、もっと知りたい。彼の心の奥深くに触れてみたい。そんな思いが、私の胸に強く湧き上がってきた。
氷の仮面の下に隠された、彼の本当の優しさ。それに気づいた時、私の心は、かつてないほど温かいもので満たされていた。この結婚は、もしかしたら、私が思っていたような不幸なものではないのかもしれない。そんな淡い希望が、私の胸に灯り始めていた。
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思わず、私の口からそんな言葉がこぼれた。彼は驚いたように私を見た。
「優しい……? 俺が、か?」
「はい。厳しさの奥に、深い優しさをお持ちなのだと、私は思います。そうでなければ、これほど多くの家臣たちが、あなたに忠誠を誓うはずがありませんわ」
私の言葉に、カシアン様はふっと息を吐き、そして、初めて見るような、穏やかな笑みを浮かべた。それは、本当に僅かな、一瞬の笑みだったが、私の心には強く焼き付いた。
「……お前は、物事の本質を見抜く目を持っているのかもしれないな」
彼はそう言うと、私の手を取り、その甲に軽く口づけをした。その行為はあまりにも自然で、そして、驚くほど優しかった。
「え……」
私は顔を赤らめ、言葉を失った。彼の突然の行動に、心臓が早鐘を打っていた。
「……今夜は、冷える。暖かくして休むといい」
彼はそれだけを言うと、いつものように静かに部屋を出て行った。
一人残された部屋で、私は自分の手の甲をじっと見つめた。彼の唇の感触が、まだ残っているような気がした。
(カシアン様……)
彼のことを、もっと知りたい。彼の心の奥深くに触れてみたい。そんな思いが、私の胸に強く湧き上がってきた。
氷の仮面の下に隠された、彼の本当の優しさ。それに気づいた時、私の心は、かつてないほど温かいもので満たされていた。この結婚は、もしかしたら、私が思っていたような不幸なものではないのかもしれない。そんな淡い希望が、私の胸に灯り始めていた。
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