【悲報】氷の悪女と蔑まれた辺境令嬢のわたくし、冷徹公爵様に何故かロックオンされました!?~今さら溺愛されても困ります……って、あれ?

放浪人

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第十話:氷解の果てに掴んだ温もり、そして未来へ

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アレクシス公爵様が王都へ旅立たれてから、数週間が経過いたしました。

その間、わたくしは文字通り寝る間も惜しんで、ヴァインベルク領の再建計画に没頭しておりました。

公爵様がいない間、この領地を守り、発展させるのはわたくしの役目。

そして何よりも、彼が戻られた時に、胸を張って「お任せください」と申し上げられるように。

その一心で、わたくしは領民たちと共に汗を流し、知恵を絞り、時にはぶつかり合いながらも、一歩一歩、着実に前へと進んでおりました。

灌漑工事はほぼ完了し、痩せ細っていた畑には、青々とした作物の芽が力強く顔を出し始めております。

隣町との交易路も整備が進み、以前よりも多くの物資が領内へと運び込まれるようになりました。

そして何よりも嬉しかったのは、領民たちの顔に、以前のような諦めや絶望の色ではなく、確かな希望と、そしてわたくしへの信頼の光が灯り始めたことでございました。

「エレオノーラ様、ありがとうございます」

「エレオノーラ様のおかげで、わしらもようやくまともな暮らしができそうだ」

そんな言葉をかけられるたび、わたくしの胸は熱いもので満たされ、三年間凍り付いていた心の氷が、また一つ、また一つと溶けていくのを感じましたわ。

もちろん、全てが順調に進んだわけではございません。

王都からは、依然として再建計画を妨害しようとする動きがあるという知らせが、アンナを通じて時折もたらされておりました。

その度に、わたくしの心は不安に揺れ動きましたけれど、それでも、決して諦めようとは思いませんでした。

だって、わたくしはもう、一人ではないのですから。

遠く王都で、わたくしたちのために戦ってくださっている公爵様がいる。

そして、この辺境の地で、わたくしを信じ、支えてくれる領民たちがいる。

その想いが、わたくしに勇気と力を与えてくれたのです。

そして、ある晴れた日の午後。

待ちに待った知らせが、ついに届きました。

「エレオノーラ様! 公爵様が…アレクシス様が、王都からお戻りになられました!」

アンナのその言葉に、わたくしは手にしていた書類を放り出し、夢中で屋敷の玄関へと駆け出しておりました。

玄関ホールには、長旅の疲れも見せず、凛とした佇まいで立っておられるアレクシス公爵様のお姿が。

そのお顔には、いつもの厳しい表情はなく、どこか、安堵したような、そして…ほんの少しだけ、誇らしげな微笑みが浮かんでいるように見えましたわ。

「…アレクシス様…!」

わたくしは、思わずそのお名前を呼び、彼の元へと駆け寄っておりました。

そして、気づけば、彼の逞しい胸の中に、力強く抱きしめられていたのです。

「…よく、頑張ったな、エレオノーラ」

彼の低い声が、わたくしの耳元で優しく響きました。

その声と、彼の腕の温もりに、わたくしの目からは、またしても熱いものが止めどなく溢れ出てまいります。

それは、喜びと、安堵と、そして何よりも、この方への抑えきれないほどの愛しさからくる、温かい涙でした。

「王都での件は、全て片付いた。もう、我々の計画を妨害する者はいない」

「本当…でございますか…?」

「ああ。そして…お前の父上にも、釘を刺しておいた。二度と、お前やこの領地に手出しはさせん、と」

その言葉に、わたくしは、ただただ、彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくることしかできませんでした。

どれほどの時間が経ったでしょう。

ようやく涙が収まった頃、公爵様はそっとわたくしの体を離し、その大きな手で、優しくわたくしの涙を拭ってくださいました。

そして、その燃えるような金の瞳で、まっすぐにわたくしを見つめ、こうおっしゃったのです。

「…エレオノーラ。王都へ発つ前に、お前に伝えようとしていたことがある」

その言葉に、わたくしの心臓が、またしても甘く、そして激しく高鳴り始めました。

(ああ…ついに、この時が…)

わたくしは、ゴクリと唾を飲み込み、彼の次の言葉を待ちました。

「私は…お前を、愛している。この世の誰よりも、何よりも、深く…」

その言葉は、まるで美しい音楽のように、わたくしの心に染み渡りました。

三年間、ずっと聞きたかった言葉。

そして、わたくし自身も、ずっと伝えたかった想い。

「私の妻として、この先永遠に、私の傍にいてはくれまいか。お前と共に、このヴァインベルク領を、そしていずれは帝国全体を、豊かで幸せな場所にしていきたいのだ」

彼の真摯な、そしてどこまでも深い愛情に満ちた告白に、わたくしは、もう、何の迷いもございませんでした。

「はい…! アレクシス様…! 喜んで…! わたくしも、あなた様を…心から、愛しておりますわ…!」

わたくしの涙ながらの返事に、彼の硬かった表情がふっと和らぎ、まるで太陽のような、眩しく、そして温かい微笑みが浮かびました。

そして、彼の唇が、優しく、けれど情熱的に、わたくしの唇に重ねられたのです。

それは、これまでの全ての苦しみや悲しみを、跡形もなく溶かしてくれるような、甘く、そして永遠を誓う、至福の口づけでございました。

「もう、お前を一人にはしない。お前が『氷の悪女』などと心ない言葉で呼ばれることも、この私が二度と許さない。お前は、私の唯一無二の、愛しいエレオノーラだ」

彼の力強い言葉と、その腕の温もりが、わたくしの胸に、そして魂に、温かく、深く、染み渡ります。

ええ、アレクシス様。

わたくしはもう、孤独ではございません。

あなたの、この不器用で、けれど誰よりも深い愛情という温かな光の中で、これからは心からの笑顔で、あなた様と共に生きていくことができるのですから。

北の辺境で凍てついていたわたくしの心は、今、確かな愛によって完全に溶かされ、新しい、輝かしい春を迎えようとしていました。

アレクシス様の、時に強引で、時に不器用で、けれどどこまでも深い愛情に包まれて、わたくしの物語は、ようやく本当の幸福へと、確かな一歩を踏み出したのです。

そして、数年後。

ヴァインベルク領は、かつての荒涼とした姿が嘘のように、緑豊かな、活気に満ちた土地へと生まれ変わっておりました。

領民たちの顔には笑顔が溢れ、子供たちの元気な声が、どこまでも響き渡っております。

そして、その中心には、いつも、わたくしと、そして誰よりもわたくしを愛し、支えてくださるアレクシス様の姿があるのでした。

「エレオノーラ、愛しているよ」

「わたくしもですわ、アレクシス様。永遠に…」

これからも、きっと、たくさんの困難が待ち受けていることでしょう。

けれど、この方の愛と、そしてこの土地で育まれた確かな絆があれば、わたくしたちは、どんな未来も、笑顔で乗り越えていける。

そう、確信しているのでございます。

(…それにしても、公爵様ったら、わたくしがいないと何もできないみたいで、ちょっと困ってしまいますけれど。それもまた、愛おしいのですから、仕方ありませんわね!)

わたくし、エレオノーラ・フォン・シュヴァルツェンベルクは、今、世界で一番幸せな「元」氷の悪女でございますわ!
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