偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人

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第16話:偽りの承諾と、力の覚醒

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目の前に突きつけられた、あまりにも残酷で、非情な選択肢。
私の返答一つで、アレクシス様の、そして彼が守る全ての人々の運命が決まってしまう。

(負けるわけには、いかない……)

ここで絶望して、彼らの言いなりになるのは簡単だ。
でも、それではダメだ。
それでは、私が彼の元へ帰るという、血の滲むような想いで交わした約束を果たせない。
アレクシス様の、私を信じてくれた想いを、無駄にしてしまうことになる。

全身の震えを、意志の力で、無理やりねじ伏せる。
私はゆっくりと顔を上げ、私を獣のように掴む王太子の腕を、その奥にある彼の醜い欲望を、まっすぐに見据えた。

「……わかりました」

静かに、けれど、心の奥底に燃え盛る怒りを隠して、はっきりと告げる。

「協力、いたします。王家の儀式場を、蘇らせてみせましょう」

私の言葉に、王太子は満足げに、下卑た笑みを浮かべた。
そして、私をゴミでも捨てるかのように、乱暴に突き放す。
よろめいた私を、イザベラが慌てて支えた。その顔には、安堵の色が浮かんでいる。

「物分かりが良くて助かる。それでこそ、我が国の民だ。褒めてやろう」

王太子はそう言って、高笑いしながら部屋を出て行った。
残されたのは、私と、どこか気まずそうな顔をしたイザベラだけ。

「……ごめんなさい、リリアーナ。わたくし、殿下がここまでなさるとは、思ってもみなくて……」

「……いいえ」

私は静かに首を振った。
彼女に同情の余地など、ひとかけらもない。
元はと言えば、彼女が招いた事態なのだから。

「それよりも、儀式場へ案内してください。この薄暗い牢獄では、力を高めることなど到底できません」

私の、予想に反して毅然とした態度に、イザベラは少し驚いたように目を見開いた後、「……わかりましたわ」と頷いた。

牢から出され、客間として使われる一室に移された私は、一人きりになった時、ようやく深く、深く、息を吐いた。
張り詰めていた緊張の糸が、少しだけ緩む。

(これは、屈服じゃない。***時間稼ぎ***よ)

アレクシス様と領民たちを人質に取られている状況は変わらない。
でも、このまま奴隷のように言いなりになるつもりは、毛頭なかった。

私には、私の武器がある。
王太子もイザベラも、まだその本質を、本当の恐ろしさを、全く理解していない、この***力***が。

手のひらを見つめる。
そこから、淡い若葉色の光が、私の感情に応えるように、ゆらりと静かに灯った。

(私のこの力は、本当に「植物を元気にする」だけなのだろうか?)

ヴァインベルク領で、私の力は飛躍的に強くなった。
枯れた大地を蘇らせ、呪われた土壌を浄化した。
それは、単に植物に作用しているだけではない。
もっと根源的な……***生命そのもの***に、直接働きかけているのではないだろうか。

アレクシス様の、あの忌まわしい呪いの苦痛が、私がそばにいると和らいだのも、その証拠かもしれない。
私の力が、彼の生命力を蝕む呪いの力を、無意識のうちに癒していた……?

だとしたら。

この力を、もっと自在に、私の意志でコントロールすることができたなら。
植物や大地だけでなく、もっと別のものにも、この生命の光を注ぎ込むことができるかもしれない。

(これは、危険な賭けだ……)

でも、やるしかない。
この絶望的な状況を覆すには、私自身が、この力の本当の主(あるじ)になるしかないのだ。

窓の外に、王宮の華やかで、しかしどこか空虚な庭が見える。
けれど、私の目には、北の地の荒涼とした、けれど愛おしい風景だけが映っていた。
彼が守る、あの土地の景色が。

(待っていて、アレクシス様)

私は、あなたの偽聖女なんかじゃない。

あなたの元へ帰り、あなたを絶望から救い出す、***唯一の希望***になってみせる。

その燃えるような覚悟を胸に、私は自らの内なる力と、深く、深く、向き合い始めた。
それは、誰にも知られることのない、孤独で、そして危険な挑戦の始まりだった。
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