タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔

文字の大きさ
24 / 35

24:山へ行こう!

しおりを挟む
「ドワーフ?」
「はい。この屋敷はもともとドワーフの職人たちによる仕事でして」

 まったく全然寛げなかった温泉での翌朝。
 朝食の席で「屋敷の修繕」についてバスチャンと話をする悠斗。
 
 ドワーフは見た目に反して手先が器用で云云かんぬん。やはり悠斗の知る『ドワーフ』そのものだ。
 
「どうせでしたらしっかりと修繕して頂きたく、出来ればドワーフ族に依頼をして頂きたいのです」
「そうですか。ではどこに行けば頼めるのでしょう?」
「さぁ、どうでしょう。何分、元が別の貴族の所有物でしたから」

 そういえばそうだったと思い出し、ならルティに心当たりは無いかと尋ねてみる。

「ドワーフの職人なら、少し大きな町にでも行けばすぐに見つかる。しかし――」
「しかし?」
「彼らは頑固者でね。自分が作りたいときに作りたい物を作る。そういう生き方をしている」
「つまり修繕したいと思っているドワーフを探さなきゃいけないと?」

 そんな悠斗の言葉にルティは小さく微笑み、そうではないけど――と話を続けた。

「もちろん交渉次第で引き受けてくれるかもしれない。だが人族の町に住むドワーフでは難しいだろうな。彼らにも仕事があるし、そもそも鍛冶師や細工師がほとんどだ」
「職人でも種類が違うのか……じゃあどうすれば?」

 食後のお茶を優雅に啜りながら、ルティは「ドワーフの村だな」と。
 場所は知っているが行ったことが無いというルティの言葉に、では最寄りまで転移して、そこからはいつものように徒歩で向かうことになる。
 ルティの予想だと、徒歩での移動は二、三日になるだろうとのこと。
 食料は十分。あとは出発するだけだ。

 バスチャンが移動中のお弁当を用意し終えると、二人は早速出発した。屋敷はゴーストたちごとタブレットに収納して。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 二人が飛んだのはどこかの街道近く。そして目の前には高い山々がそびえ立つ光景。
 まさかと思い悠斗は尋ねる。

「もしかしてあの山の中?」

 するとルティは頷き、その通りだと言う。
 エルフが森の妖精と呼ばれるなら、ドワーフは大地の妖精だ。まぁ大地はどこでもあるし、地面は全てそうだと言える。
 だが彼らは山を好む。しかも鉱石が豊富に取れる山を。
 そして目の前の山には巨大な鉱山があった。

「あの山には人族の村もある。ドワーフと協力して鉱山資源を採掘しているようだ」
「鉱山の村かー。そんな村で大工が見つかるのかなぁ……」
「まぁ私が知るドワーフの村がここしか無いのだ。仕方あるまい」

 町の雑貨屋で購入できる地図には、人族が暮らす街や村しか記載されない。他種族の村は完全スルー。それがこの世界の常識だ。
 そして悠斗のタブレットをズームして見れる町や村には、人族の村かそうでないかは記載されていない。
 もちろん村や町の名前をひとつひとつ検索していけば見つかるだろうが、かなり面倒な作業だ。
 
 鉱山の村へ行き、例え大工が居なかったとしても村のドワーフに尋ねれば教えてくれるだろう。
 
 そうと決まれば行動あるのみ。二人は山へと続く道へと向かった。
 鉱山の村へと続く道なので、さすがに整備されており歩きやすい。温泉山への道に比べるとまさに天国だ。
 採掘された鉱石や、その鉱石でドワーフらが作った武具や貴金属類。それらを取引するための馬車が通っても良さそうなのだが……。
 その日。二人が野宿出来そうな場所へやってくるまでの間に、それらしい荷車や人とすれ違うことは無かった。

「ふーむ……ここの鉱山は近隣諸国の中でも規模の大きな所だし……いや、もしかすると今では掘りつくされて寂れてしまっているのだろうか?」
「え? ルティの情報って、いつのものなんだい?」
「んー……ここの鉱山が知られるようになったのは、あの噴火より後だとしか」

 いかんせんエルフは時間というものを気にしない。だから自分の近辺で起きた大きな事件を基準に、それがいつだったかと記憶する程度だ。
 彼女は各地を旅していたので、その辺のエルフよりは年代別に起きた事件を覚えている方だろう。それでもやはり、細かいことは覚えていないし、覚える気すらない。

「そういえば、ドワーフの村があるってことは、エルフにも村が?」
「ユウト殿。エルフを馬鹿にしているのか? もちろん村はあるし、なんなら国だってあるぞ」

 と、胸を張るルティ。ついでにドワーフの国もあるが、それは地面の下だし入り口はドワーフのみが知る。とも言う。
 だがエルフの国は地上にあり、確かに森で囲まれているがどこにあるのかは人族でも知っていると。
 そして悠斗のタブレットの地図でもそれは確認できた。
 どうやら大陸のやや東よりにある、森で囲まれた小さな国のようだ。
 だがこのエルフの国。エルフ以外は入れない。
 ルティの結界魔法と同じものが張り巡らされ、何人の侵入も許さないのだ。

「エルフは人族とのかかわりを断っているからな」
「ここに思いっきり関わってるエルフがいるのに?」

 悠斗は苦笑いを浮かべルティを指差す。差されたルティもまた苦笑いだ。
 ルティはエルフの国の彼らとは、同じエルフ族だが氏族が違う。

 ルティの先祖は妖精のみが住む世界からやって来た、純粋なエルフだ。
 そしてエルフの国に居る者たちの先祖は、この世界の神により、純粋なエルフを元にして創造された存在。
 ちなみに人族も神に創造された存在だし、動物や魔物もそうだ。
 そして神に創造された者は、神より優れた存在にならないよう、劣化させられている。
 故にエルフの国のエルフたちの寿命は約300年ほどと、それほど長くはなく。だがルティの寿命は正直何年なのか彼女にも分からない。
 彼女が仲間たちと暮らしていた時期は非常に短く、生まれて10年ほどしかない。だが老衰した者は見ていないし、そもそも老人も見たことが無い。
 せいぜい30代止まりなのだ。彼女の一族の外見は。

「だから私は一般的に知られているエルフとは少し違うのだ」

 と何故かドヤ顔。

「知らなかった……え、じゃあルティって凄いエルフ!?」
「ふっふっふ。今頃気づいたか勇者殿よ。私は凄いエルフなのだ! どのくらい凄いかっていうと!!」

 耳が1センチ長い!

 彼女は力強くそう宣言する。

 寿命以外の所ではあまり違いはなさそうだ。

 昼も夜もバスチャンの手料理で腹を満たし、だが食べ終えたルティは少し落ち込んでいるようだ。

「ルティ、どうしたんだい?」

 尋ねてみると、バスチャンの料理が美味しいからなのだとか。

「私だって長年ひとりで旅をしてきたから、ご飯ぐらい作れる。どうせ食べるなら美味しいほうがいい。だから……美味しい物を作れる努力はしてきた」
「うん。ルティの作ってくれるスープは、あっさりした味付けだけど美味しいよ」

 そう返事をすれば、ルティはぱぁっと表情を明るくする。実に愛い奴だ。
 だが――

「でもバスチャンの料理は本格的だね」

 そう悠斗が付け加えると、途端にシュンとなる。

「でも仕方ないさ。だってルティが作る料理は、最低限の器具と食材で作っているだろ? でもバスチャンは屋敷の厨房で、鍋もフライパンも竈だってあるんだ。調味料も町で買える物は全部取り揃えた。それだけの差があるんだから、味に差が出て当然」
「そ、そうか……でも私は立派な調理器具など使った料理はしたことがないしな。も、もっとユウト殿に美味しい物をご馳走してやりたいのに」

 などと、お皿を抱えたままもじもじするルティ。
 チラり、チラりと悠斗を見つめ、彼がどんな反応をするだろうかと観察しているようだ。

「じゃあ今度、バスチャンに料理を習ったらどうかな? 俺も楽しみにしているよ」

 そう悠斗は最高の笑み(営業スマイル)を浮かべた。
 もちろんルティは大喜び。「俺も楽しみにしているよ」という言葉が、彼女の脳内でリフレインする。
 
 無自覚たらしとは、こういう男の事を言うのだろう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

最強ドラゴンを生贄に召喚された俺。死霊使いで無双する!?

夢・風魔
ファンタジー
生贄となった生物の一部を吸収し、それを能力とする勇者召喚魔法。霊媒体質の御霊霊路(ミタマレイジ)は生贄となった最強のドラゴンの【残り物】を吸収し、鑑定により【死霊使い】となる。 しかし異世界で死霊使いは不吉とされ――厄介者だ――その一言でレイジは追放される。その背後には生贄となったドラゴンが憑りついていた。 ドラゴンを成仏させるべく、途中で出会った女冒険者ソディアと二人旅に出る。 次々と出会う死霊を仲間に加え(させられ)、どんどん増えていくアンデッド軍団。 アンデッド無双。そして規格外の魔力を持ち、魔法禁止令まで発動されるレイジ。 彼らの珍道中はどうなるのやら……。 *小説家になろうでも投稿しております。 *タイトルの「古代竜」というのをわかりやすく「最強ドラゴン」に変更しました。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...