婚約破棄ですか? 優しい幼馴染がいるので構いませんよ

マルローネ

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6話

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「食べ歩き……貴族が行うことなのかしら?」

「まあ、たまにはこういうのもいいじゃないか」


 私とマルクスは気ままに貴族街を散策していた。近くのお店を回りながら食べ歩きをしているのだけれど、随分と庶民的な展開である。マルクスはとても大公殿下だとは思えない。まあ、周囲にいる荘厳な護衛の皆様のおかげで、一般人とは隔絶した待遇なのはすぐに分かるけれど。

「大公殿下という身分なのに、平気なの? あんまり他の貴族に見られたら……」

「そういうアリスだって伯爵令嬢なんだよ? 同じことさ。心配することはない」

「私とマルクスとの立場では大分違う気がするのだけれど」


 指摘はしておくが、マルクスは特に気にしている素振りはないようだ。私と対等に話しているから忘れてしまうけれど、彼は立派な最高位の貴族なのである。そんな人物が貴族街であるとはいえ、気ままに食べ歩き……かなりめずらしい光景だ。


 私としては気を遣わなくて済むので助かるけれどね。


「そういえば、グレンデル殿との婚約破棄はどうなったんだい?」

「書面での交付などは終了したから、婚約破棄は成立したわね」

「そうか。なんとか肩の荷が下りたというところかな?」

「そうなるわね」


 面倒な手続きのほとんどはお父様とお母様がしてくれた。私に余計な心労を掛けないようにする為らしいけど、悪いことをしてしまったと思う。


「もう、グレンデル様のことは考えたくないわ。慰謝料は何としても払ってもらうけれど……それで終わりね」

「ああ、その辺りで忘れた方がアリスのためだろうからね」

「そういうことね」


 マルクスも分かってくれている。グレンデル様とはもう会話すらしたくない。もちろん、アレッサ様の顔だって見たくないので、出会わないことを祈る。

「アリスは私とこうして歩いていてどう思っている?」

「どうって……それはどういう意味で?」

「まあ、つまり……ええと」


 なんだかマルクスの歯切れが悪い。話しにくいといった感じだ。


「私と一緒にいて楽しいかを聞いているのさ」

「ああ、そういうこと。もちろん楽しいわよ」

「そ、そうか! それなら良かったよ!」

 そんなこと聞かなくても分かっているだろうに……マルクスはとても嬉しそうだった。大切な幼馴染と一緒にいて楽しくないわけがない。私は今幸せだ。


「殿下、少々、お話しがございます。申し訳ございませんが……」

「ん、そうか。済まない、アリス。私は少し出て来るよ。申し訳ないがこの辺りで待っていてくれないか?」

「あらそうなの? わかったわ」


 マルクスの元に現れた人物と一緒にマルクスは席を外した。大公殿下という身分の関係上、こういうことはよくあったりする。私は最小限の護衛と一緒にその場で待機していた。

「アリス様、お元気になられたようで何よりでございます。マルクス様もお喜びになっておられました」

「そうでしたか。ありがとうございます。マルクスには感謝しかできませんが」


 グレンデル様との婚約破棄は悲しいものだったと認めたくはない。でも、元気になるまでには時間を要することになってしまった。確かに元気になった要因にはマルクスと再会できたことがとても大きい。彼との時間は楽しく貴重だったから。

 私は護衛の方とその後も少し話をした。と、向こうの方から男女のカップルが歩いて来る。私達に近づいているようだ。あれって……。

「そんな……グレンデル様と、アレッサ様?」

「なんと……こんな時に……」

 護衛の方も明らかに焦っていた。けれど間違いない彼らはグレンデル様とアレッサ様だ。私に気が付いているのか笑っているようにも見える。
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