婚約破棄ですか？ 優しい幼馴染がいるので構いませんよ

25話

「が、がふっ……！」

「マルクス……？　マルクス！！」


　何が起きたのか理解した時にはマルクスは地面に伏していた。脇腹の辺りを刺されているのか、腹を抑えている。致命傷かそうでないのか……それは分からないけれど、グレンデル様が取り出した短剣は根本の辺りまで血で覆われていた。それだけでもかなり深くまで刺されたことが伺える。マズイのではないか……？　でも、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「もう、私はおしまいだ……ならばせめて、マルクス。お前だけでも道連れにしてやる！」

「グレンデル、貴様！」

「ぐはっ！」


　護衛の一人によってグレンデル様は地面に叩き落とされた。そして、護衛の人達がマルクス様を見返した。


「マルクス様！　大丈夫でございますか！？」

「すぐに医者を！」

「わかった！」

　素人が下手に動かしていい容態ではないかもしれない。残念ながら、私ではどうこうすることが出来ない程の傷だった。護衛の人達はマルクスの止血を開始している。


「アリスは……無事、か？」

「私は大丈夫！　それより、マルクス、あなたは自分の心配をして！」

「ああ、良かった……もう決して、グレンデルを自由にさせるな。必要とあれば両腕を折っても構わない」

「畏まりました、マルクス様！　今はそれ以上話さないでください！」


　意識はしっかりしているようだけれど、とてもまともには立てない状況なのは明白だった。時間が経つごとにおびただしい血が地面に流れているからだ。私はグレンデル様を睨んでいた。なぜ、このようなことをしでかしたのか。自分が破滅することが確定したので、自暴自棄になったのだろうか？


「申し訳ありません！　私が奴の腕を自由にしてしまったばかりに……！」

「今度から気を付ければ良い。いまさら起こったことの反省をしても無意味だろう。ふう、少し意識が遠のいていきそうだ。私はあとどのくらい持つ？」

「現状では傷の深さが分かりません！　ただし、時間がないかもしれない。止血をしながら、馬車で医師の元まで運びます！」


　医師をここに呼ぶだけでは間に合わないと判断したのか、護衛の人はすぐにマルクスを移動させる準備をし始めた。危険を伴うけれど、馬車で直接運んだ方が速いのは明白だ。

「マルクスお願い、助かって！　ああ、神様……！」


　なんと言えば良いのかしら……今の私は明らかに気が動転していた。