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第3話 それが理由になると思いまして?
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オドラル様のお母様はお姉さまからの連絡に卒倒したそうで、こちらにお越しになったのはお父様の子爵様だけでした。
オドラル様は子爵家の三男四女の末っ子で、おうちの皆様にたいそう可愛がられておいでだったとか。だから甘やかしてしまった、と涙ながらに語られましたが。
「それは、当家に何の関係もないことでございますわね」
お姉さまの仰る通りです。
「私との婚約契約書を偽造し、婚約者を詐称して物品を要求して回り、我が家に購入物の対価を支払わせようと企んだ件につきましては、しかるべき手を打っておりますので」
「息子を罪人にすると仰るのですか、あなたの婚約者ですぞ!」
このお答えですと、子爵様も、あまりまともな方では無いような……?
「ですから、婚約は成立しておりませんし、提出なさったとされる書類は質問状が出されるほどの不審な物でしたのよ」
お姉さまが子爵様の前に出したのは、紋章局からの書状でした。
貴族の血統を記録している紋章局は、現代では貴族の婚姻等の手続きも担っております。怪しまれるような婚約や婚姻の届け出は受理せず、軽いところでは修正指示から、重いところでは受付拒否の上で拒否理由の通達と質問状の送付まで、様々な対応をしております。
そしてお姉さまの手元にあるのは、そのうちで最も重大なもの。
お家乗っ取りなどを企てた疑いがもたれた場合に、確認のために出される書状です。
「こんなの、偽造書類ではないか!」
「良くご覧くださいませ?」
「小娘が、黙って倅と結婚しておれば良いのだ!行かず後家め!」
怒鳴ってテーブルを拳で殴りつけられましても、そんなのでおびえるようなお姉さまではございません。
「わたくし、まだ18歳になったばかりでしてよ?そしてこの質問状が出されたという事は、すでに調査が始まっているという意味です」
そうなのですよねえ。
乗っ取りが疑われる場合、紋章局とて本気を出しますから。この書状は最後通告に等しいもの、調査対象となる家の御機嫌伺をするためのものではございません。
とはいえ、お姉さまにはなんの落ち度もおありでないことですし、わたくしにはなんの心配もございません。
それに調査にお越しになった局員の方が素敵でしたので、わたくしにとって喜ばしい経験でございました。お仕事中の男性とは、ああもきりっとしているものなのでしょうか。いえ、お父様を見る限りは、男性の方がすべてきりっとなさっているわけではないでしょうね。
オドラル様?お話にもなりませんわ。いつだって我儘ばかりでふてくされているか、だらしない薄ら笑いを浮かべているかで、引き締まったお顔なんて見たこともありませんもの。
まともな方にお目にかかって、はっきり自覚いたしました。
やはり、これまでわたくしに近寄ってきた男の方たちは、男性として魅力が無かったのだと。
「ううう、うるさい!女の分際で!だまって結婚して子供を産んでおれば良いのだ!」
「子爵の分際で、伯爵家に口をはさむものではありません。分を弁えなさい」
お姉さまが視線を投げると、控えていた侍従のうち二人が一礼し、子爵の腕を一本ずつ抱え込んで、子爵を応接室の外へと引きずってゆきました。
「……赦して貰えると、なぜ思っていたんでしょう?」
息子が可愛いから、なんてお姉さまに関係ありませんのにね。
「ああやって、泣き落としと脅しで言うことを聞かせるのが常なのでしょうね。リファも疲れたでしょう、お茶にしましょう」
お姉さまが苦笑しながら仰ったので、わたくしも席を立ちました。
「今日はお庭ではなくて、東のテラスにするわ。警備しやすいから」
「あら。だれか、不審な者でも?」
今回、お姉さまがこうしてわたくしを同席させたのは、お姉さまと一緒にいた方が安全だから。
お父様の手の者がいくぶんいますから、お屋敷の中と言えど完全に安全とはまいりません。わたくしが拐かされたりしないよう、お姉さまの周辺に手の者を増やさざるを得ない時は、わたくしも一緒に守れるようにして下さっています。
お父様に対しては親子の情もなく、わたくしの母に対しては代官夫人以外のお気持ちは無いお姉さまですが、お父様の横暴と母の愚かさで涙ぐんでいたわたくしには、お優しいのです。そのわたくしを盾に取るくらい、お父様やオドラル様は平気でなさることでしょう。
「ええ、サラス男爵の手の者がね」
また別の、厄介な方の名前が出てまいりました。
「また面倒ですわね……」
サラス男爵には、個人的にも思うところがございます。あちらも、お姉さまもわたくしも気に入らない事でございましょう。
「その話は、あとで。とりあえず着替えていらっしゃいな」
「はい。では後程、お茶の席で」
さて、今日のお茶用のドレスはどれにいたしましょうか。
オドラル様は子爵家の三男四女の末っ子で、おうちの皆様にたいそう可愛がられておいでだったとか。だから甘やかしてしまった、と涙ながらに語られましたが。
「それは、当家に何の関係もないことでございますわね」
お姉さまの仰る通りです。
「私との婚約契約書を偽造し、婚約者を詐称して物品を要求して回り、我が家に購入物の対価を支払わせようと企んだ件につきましては、しかるべき手を打っておりますので」
「息子を罪人にすると仰るのですか、あなたの婚約者ですぞ!」
このお答えですと、子爵様も、あまりまともな方では無いような……?
「ですから、婚約は成立しておりませんし、提出なさったとされる書類は質問状が出されるほどの不審な物でしたのよ」
お姉さまが子爵様の前に出したのは、紋章局からの書状でした。
貴族の血統を記録している紋章局は、現代では貴族の婚姻等の手続きも担っております。怪しまれるような婚約や婚姻の届け出は受理せず、軽いところでは修正指示から、重いところでは受付拒否の上で拒否理由の通達と質問状の送付まで、様々な対応をしております。
そしてお姉さまの手元にあるのは、そのうちで最も重大なもの。
お家乗っ取りなどを企てた疑いがもたれた場合に、確認のために出される書状です。
「こんなの、偽造書類ではないか!」
「良くご覧くださいませ?」
「小娘が、黙って倅と結婚しておれば良いのだ!行かず後家め!」
怒鳴ってテーブルを拳で殴りつけられましても、そんなのでおびえるようなお姉さまではございません。
「わたくし、まだ18歳になったばかりでしてよ?そしてこの質問状が出されたという事は、すでに調査が始まっているという意味です」
そうなのですよねえ。
乗っ取りが疑われる場合、紋章局とて本気を出しますから。この書状は最後通告に等しいもの、調査対象となる家の御機嫌伺をするためのものではございません。
とはいえ、お姉さまにはなんの落ち度もおありでないことですし、わたくしにはなんの心配もございません。
それに調査にお越しになった局員の方が素敵でしたので、わたくしにとって喜ばしい経験でございました。お仕事中の男性とは、ああもきりっとしているものなのでしょうか。いえ、お父様を見る限りは、男性の方がすべてきりっとなさっているわけではないでしょうね。
オドラル様?お話にもなりませんわ。いつだって我儘ばかりでふてくされているか、だらしない薄ら笑いを浮かべているかで、引き締まったお顔なんて見たこともありませんもの。
まともな方にお目にかかって、はっきり自覚いたしました。
やはり、これまでわたくしに近寄ってきた男の方たちは、男性として魅力が無かったのだと。
「ううう、うるさい!女の分際で!だまって結婚して子供を産んでおれば良いのだ!」
「子爵の分際で、伯爵家に口をはさむものではありません。分を弁えなさい」
お姉さまが視線を投げると、控えていた侍従のうち二人が一礼し、子爵の腕を一本ずつ抱え込んで、子爵を応接室の外へと引きずってゆきました。
「……赦して貰えると、なぜ思っていたんでしょう?」
息子が可愛いから、なんてお姉さまに関係ありませんのにね。
「ああやって、泣き落としと脅しで言うことを聞かせるのが常なのでしょうね。リファも疲れたでしょう、お茶にしましょう」
お姉さまが苦笑しながら仰ったので、わたくしも席を立ちました。
「今日はお庭ではなくて、東のテラスにするわ。警備しやすいから」
「あら。だれか、不審な者でも?」
今回、お姉さまがこうしてわたくしを同席させたのは、お姉さまと一緒にいた方が安全だから。
お父様の手の者がいくぶんいますから、お屋敷の中と言えど完全に安全とはまいりません。わたくしが拐かされたりしないよう、お姉さまの周辺に手の者を増やさざるを得ない時は、わたくしも一緒に守れるようにして下さっています。
お父様に対しては親子の情もなく、わたくしの母に対しては代官夫人以外のお気持ちは無いお姉さまですが、お父様の横暴と母の愚かさで涙ぐんでいたわたくしには、お優しいのです。そのわたくしを盾に取るくらい、お父様やオドラル様は平気でなさることでしょう。
「ええ、サラス男爵の手の者がね」
また別の、厄介な方の名前が出てまいりました。
「また面倒ですわね……」
サラス男爵には、個人的にも思うところがございます。あちらも、お姉さまもわたくしも気に入らない事でございましょう。
「その話は、あとで。とりあえず着替えていらっしゃいな」
「はい。では後程、お茶の席で」
さて、今日のお茶用のドレスはどれにいたしましょうか。
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