悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ

文字の大きさ
116 / 435
ガルド城の秘密

第88話-同志の証-

しおりを挟む
 目の前が爆発すると同時に視界は自分の盾にした上着と腕で覆われていた。
 爆弾と言っても規模の大きいものでもない。小さな掌よりも小さな爆弾は主に地面を抉ってその飛散物で攻撃してくる。
 だから空中で爆発した所で見た目以上の威力はない。そう自分に言い聞かせて守る腕に力を入れた。
 足を地面に踏ん張らせる。息を止めて痛みを堪える準備をした。
 爆破音と共に痛みと熱が腕に伝わってくる。
 盾にした服も爆破の瞬間が終わるとボロボロになっていた。焦げた臭いが鼻につく。
 幸い肉の焦げた臭いじゃない。それは盾にした服に効果があったと言う事だ。
 そして前に走りだす。無言で、無心に、標的を逃さない様に、鋭く、妥協せず、痛みに負けず、煙に負けず。
 視界は煙で遮られ、相手の姿は見えない。それでもいるはずだ。勝ったつもりでいる相手を目掛けて一直線に。
 声が聞こえた。自分の勝利を確信した叫びが。
 その声の元は目の前の方向だ。相手はその場を動いてない。
 一歩二歩近づくとぼんやりと黒いローブが煙に揺れて見えてくる。
 
 「何が見たいか知らねーが。お前の負けだ」

 拳は硬く握りしめて、体重を右腕に込めて突き出した。
 拳は男の左耳を掠めて空を切る。
 間一髪の所で避けられた。ただまぐれなのは男の反応を見るによくわかる。そのまま反撃と言うにはお粗末な行動を取ってきた。
 こっちに距離を詰めて来たが、体当たりをするでもなく、服を掴んで引っ張ってくる。

「うわっ!」

 反射的に両腕で男の肩を掴んで引き離す。
 それでも相手は手を離さない。
 両腕にさらに力を込めてようやく引き離せた。俺の服を破りながら男は硬い砂利の上に尻餅をついて、地面を這う様に後ずさった。

「お、お前! お前もじゃないか!?」

 男は俺の鎖骨部分を見てそう叫んだ。
 何をどう言う意味で言ってるのか、俺には分かった。その通り、お前の言う通りだ。
 俺の見られたくない部分だ。
 上着ぐらいなら無くても大丈夫だろうと思っていたが、まさか思わぬ抵抗にあって服が破けるとは正直思っていなかった。

「その刺青はまさしく同志の証! なんでだ。私達は同じ志を持つ者。何故『魔法』を信じない不敬な輩と共に行動しているんだ!」

 男が嬉々に見せてくる足首にある紋様。それは魔法信者である証、円の中に三角と縦1本の線の入った紋様が俺の鎖骨部分にも入れられている。

「俺たちは仲間だ。早く戻って不敬な輩に見せつけてやろう」

 水を得た魚の様にベラベラと喋る男。一言一句に不快感が増していく。

「よく見やがれ。紋様の上から×って傷を入れてんだろ。恥ずかしながら『元』同志だ」
「何を言う。それは『魔法』を求めて探索したうちに出来た名誉の傷だろう!」
「自分の都合の良い様にしか現実を見ない所、昔の自分を見てる様で本当に嫌になるぜ」

 地面に手をついたままの男の元へ迫る。もはや逃げる気も無くなったのか男はそのままの体勢で俺に何かを話しかけてくる。聞く気にもならない。耳に入ってくる音を聴かない様に感情を殺した。

「歯ぁ、くいしばれ」

 左で男の首元を掴んでそのまま右拳を全力で振り下ろした。
 放った一撃は男の腹に突き刺さる。
 声にならない声を出しながら男は身体を小刻みに振るわせている。

「まだ意識あんのか。しぶとさだけは一丁前か」

 意識を失わせるために男の背中側から首を二の腕で締める。
 殺しはしない。ただ酸欠を起こさせる。ものの数秒で男の手から力が抜けていった。

「少し寝てな」

 男からローブを剥ぎ取って来てみる。懐かしい感じがするのが複雑な気分だ。
 鎖骨部分の刺青を隠すために来てみたが、前を閉じてしまえばそう簡単には見えないだろう。
 こっちは片付けた。早くあっちに戻るために奥へと急いで走りだす。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...