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ガルド城の秘密
第108話-とある本当の小さな宝-
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机の上には小さな箱が1つ置いてあった。
現代だったら100円均一に置いてありそうシンプルな箱、鍵もついていない。
ただ長年使われている事は外見の汚れから分かる。
開けてみると中には手帳のような物が入っていた。
手に取って開いた。
そのまま私は適当に開いたのはページの中身を見て、罪悪感に押し殺されそうになった。だけど、私がそのページだけでも見終わるまでは目を離せなかった。
読んではいけない。これは私が読むべきではない。読まなければいけない人は他にいる。
1ページだけでも読んでしまった事を、いやこの手帳を私が見つけた事に後悔した。
「フランソワ様!? どうされたんですか?」
ユリが私を見て驚いた。
「どこか怪我でもされましたか!?」
その言葉の意味はよくわかる。でも痛いんじゃない。ただ涙が止まらなかった。
目の奥が熱くなって、気づけば涙が頬を伝っている。涙を手帳に落とさない事だけに努めた。
「ガルド公……ごめんなさい。これは私が読んではいけないものだった。あなたが読まなければいけないものだったのに……」
ガルド公が不思議そうにこちらに来て手帳を受け取った。
頭からめくって最初に書き込んであるページを読み込んでいた。そしてその次のページ、さらにその次のページへ。
「あなたは……嫌われてなんかいなかった……」
私が見つけた手帳。それはガルド公の奥さんが書いた日記だった。
その中には奥さんからの感謝の言葉。そして、ガルド公と共に過ごした楽しい思い出が言葉にして刻まれていた。
「そうか。そうじゃったんじゃな」
手帳を捲る手が止まった。
「先は帰って読もう。お主らの前でジジイが泣くのは忍びない」
その声は震えていた。喉の奥から絞り出すような声が弱々しくこの部屋に響いた。
「毎年、ここに来て書いておったんじゃな。先を読むのが怖い気持ちもある。それでも妻の気持ちが知れて良かった。ありがとう。これを見つけてくれてありがとう。さっきの石板よりも何百倍、いや、もっと……儂にとっては嬉しいものだった」
私は1ページしか見てなかったからわからなかったけれど、これは日記ではなく、年記だったようだ。つまり、ここに繋がる明かりを付けたのも奥さんだったのかも知れない。暗い中歩くのが不便だったから、この時期の集まりに乗じて付けたようにも思える。
「後、これも。手帳と一緒に入ってました。綺麗ですね」
箱の中身をガルド公に見せた。
中に入ってのはアクセサリー、首輪だった。
細いチェーンの先に丸い水晶のような石が付いた、可愛らしいデザインのもの。
「これは……ここにあったのか。魔除けの石と呼ばれたものじゃったよ」
「魔除けの石? 私はてっきりガルド公からの奥様への贈り物かと」
「ガルド一族が昔からお守りとして身につけておったと聞いたことがあるわい。悪意ある魔法から身を守ると言われておってな」
「でも魔法が本当ならガルド一族にしか使えなかったんだから、あんまり意味がないような気もしますね」
「昔は親子だからと言っても家督争いもあったとは聞くからの。まぁ真偽の程はともかく、今ではただのお守りじゃよ」
箱から魔除けの石をガルド公が手に取る。部屋の明かりに照らされて水晶の中で光が反射して一層輝いて見える。
「フランソワとユリよ。これをお主らにやろう。ガルド一族にもう女性はおらぬ。そしてここを見つけた褒美じゃ」
「「も、もらえません!!」」
私とユリ、同じタイミングで同じ言葉を発した。
「そこまで言わんでも……」
「そもそも私はアクセサリーをあまり身につけないので、それでもとあれば、フランソワ様にお願い致します!」
「いやいや! まず一族のお守りを貰えませんよ! 由緒正しきものですよ」
「ええんじゃよ。今では本当にただのお守りじゃ。それならば、身につけられる者がおれば、その者が身につけた方がよいわ。儂にはこの手帳だけあれば良い」
「でも……」
「ここを見つけた事、それに対しては改めて礼をする。そして、魔法を見つけた事にもな。ただこれは手帳を見つけたくれた礼じゃ。バレルにも権利はあるが、あやつにこれは似合わぬ」
一瞬、バレルさんがこれを付けている想像をして吹き出しそうになった。
「それであれば、やはりフランソワ様、お願いします。ここを見つけたのはフランソワ様なんですから」
ガルド公が手にお守りを握らせてくる。
その手は温かい。
「つけてみ」
言葉のままに首の後ろに手を回してチェーンを外して付けてみる。
「似合うではないか」
「えぇ、お似合いですフランソワ様」
褒められて悪い気はしない。フランソワ良かったわね。貴方美人だからよく似合ってるって。
こうして私達のお宝を探す小さな冒険は一旦幕を閉じた。
現代だったら100円均一に置いてありそうシンプルな箱、鍵もついていない。
ただ長年使われている事は外見の汚れから分かる。
開けてみると中には手帳のような物が入っていた。
手に取って開いた。
そのまま私は適当に開いたのはページの中身を見て、罪悪感に押し殺されそうになった。だけど、私がそのページだけでも見終わるまでは目を離せなかった。
読んではいけない。これは私が読むべきではない。読まなければいけない人は他にいる。
1ページだけでも読んでしまった事を、いやこの手帳を私が見つけた事に後悔した。
「フランソワ様!? どうされたんですか?」
ユリが私を見て驚いた。
「どこか怪我でもされましたか!?」
その言葉の意味はよくわかる。でも痛いんじゃない。ただ涙が止まらなかった。
目の奥が熱くなって、気づけば涙が頬を伝っている。涙を手帳に落とさない事だけに努めた。
「ガルド公……ごめんなさい。これは私が読んではいけないものだった。あなたが読まなければいけないものだったのに……」
ガルド公が不思議そうにこちらに来て手帳を受け取った。
頭からめくって最初に書き込んであるページを読み込んでいた。そしてその次のページ、さらにその次のページへ。
「あなたは……嫌われてなんかいなかった……」
私が見つけた手帳。それはガルド公の奥さんが書いた日記だった。
その中には奥さんからの感謝の言葉。そして、ガルド公と共に過ごした楽しい思い出が言葉にして刻まれていた。
「そうか。そうじゃったんじゃな」
手帳を捲る手が止まった。
「先は帰って読もう。お主らの前でジジイが泣くのは忍びない」
その声は震えていた。喉の奥から絞り出すような声が弱々しくこの部屋に響いた。
「毎年、ここに来て書いておったんじゃな。先を読むのが怖い気持ちもある。それでも妻の気持ちが知れて良かった。ありがとう。これを見つけてくれてありがとう。さっきの石板よりも何百倍、いや、もっと……儂にとっては嬉しいものだった」
私は1ページしか見てなかったからわからなかったけれど、これは日記ではなく、年記だったようだ。つまり、ここに繋がる明かりを付けたのも奥さんだったのかも知れない。暗い中歩くのが不便だったから、この時期の集まりに乗じて付けたようにも思える。
「後、これも。手帳と一緒に入ってました。綺麗ですね」
箱の中身をガルド公に見せた。
中に入ってのはアクセサリー、首輪だった。
細いチェーンの先に丸い水晶のような石が付いた、可愛らしいデザインのもの。
「これは……ここにあったのか。魔除けの石と呼ばれたものじゃったよ」
「魔除けの石? 私はてっきりガルド公からの奥様への贈り物かと」
「ガルド一族が昔からお守りとして身につけておったと聞いたことがあるわい。悪意ある魔法から身を守ると言われておってな」
「でも魔法が本当ならガルド一族にしか使えなかったんだから、あんまり意味がないような気もしますね」
「昔は親子だからと言っても家督争いもあったとは聞くからの。まぁ真偽の程はともかく、今ではただのお守りじゃよ」
箱から魔除けの石をガルド公が手に取る。部屋の明かりに照らされて水晶の中で光が反射して一層輝いて見える。
「フランソワとユリよ。これをお主らにやろう。ガルド一族にもう女性はおらぬ。そしてここを見つけた褒美じゃ」
「「も、もらえません!!」」
私とユリ、同じタイミングで同じ言葉を発した。
「そこまで言わんでも……」
「そもそも私はアクセサリーをあまり身につけないので、それでもとあれば、フランソワ様にお願い致します!」
「いやいや! まず一族のお守りを貰えませんよ! 由緒正しきものですよ」
「ええんじゃよ。今では本当にただのお守りじゃ。それならば、身につけられる者がおれば、その者が身につけた方がよいわ。儂にはこの手帳だけあれば良い」
「でも……」
「ここを見つけた事、それに対しては改めて礼をする。そして、魔法を見つけた事にもな。ただこれは手帳を見つけたくれた礼じゃ。バレルにも権利はあるが、あやつにこれは似合わぬ」
一瞬、バレルさんがこれを付けている想像をして吹き出しそうになった。
「それであれば、やはりフランソワ様、お願いします。ここを見つけたのはフランソワ様なんですから」
ガルド公が手にお守りを握らせてくる。
その手は温かい。
「つけてみ」
言葉のままに首の後ろに手を回してチェーンを外して付けてみる。
「似合うではないか」
「えぇ、お似合いですフランソワ様」
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