悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ

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ガルド城の秘密

第116話-もう1人の物語-前編

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「ありがとさん、俺は本当に大丈夫だからよ。疲れただろうしもう戻ってくれ。ガルド公になんか言われたらちゃんと俺が説明するさ」

 俺の車椅子を押してくれている資料室の管理人も大変だろうと思い声をかけた。
 他意はない。純粋に大変だろうから声をかけただけだ。邪見に扱ったつもりもまったくない。
 ある程度状況を知っていて、手が空いていたのが彼女だったから舞台に上がる俺のために白羽の矢が立ったのが彼女だ。

「いえ、私は大丈夫ですので」
「無理すんなよ。疲れんだろうに」
「疲れはします。しかし、仕事でもありますので」
「そうかい。ならもう少し付き合ってもらおうかね」
「えぇ、私もその方がいいので」

 言葉の意味がよくわからなかった。

「残業代がいいのか?」
「そもそも年中資料室に篭り切りなので、残業代がつくと恐ろしいことになりますよ私」
「確かに、想像したら恐ろしいな」

 笑い話を振るくらいには元気らしい。それならこっちの罪悪感もましになる。
 どうも体の大きい俺は苦手らしいし、早く解放した方がいいと思ったんだけどな。

「では、せっかくですので、少し私とお話ししてくれないでしょうか」
「美人にそう言われると断れねぇな」
「良かった。では少し場所を変えましょう」

 茶化したつもりが全くの無反応で、逆に気味が悪かった。何か怒らせてしまったのか。不安で仕方ない。
 その言葉を最後に会話はなく、淡々と彼女は俺を移動させていた。階段は流石に車椅子のままだと登れないので俺が杖をついて登って、後ろから彼女が車椅子を持ち上げているのか、それとも無理矢理押しながら登っているのか分からない状況ではあるが階段を登っていた。
 そんな中で俺は見覚えのある場所へとたどり着いた。資料室だ。

「なんだ、懐かしな。あんたのお得意の部屋じゃないか」
「はい。ここなら誰も来ませんので」

 淡々と告げる彼女はまるで今から大きな事をしでかす前の緊張をしているようにも思える。
 誰も来ない部屋で2人、俺はこの怪我で満足に動けない。どことなく俺の直感が危険を囁いている。当たることのない事に好評な直感だったが今回ばかりはやばいかも知れない。ただ、何もなければこの状況で逃げる事は大変失礼だ。
 だから俺はこの状況を素直に受け入れた。

「前来た時と変わってないな。この部屋の管理ができるのはすごいよな」

 場を和ませるために言った言葉だが、嘘ではない。仮にこの部屋の管理をしてみろと言われたら何処に何があるかを把握はできないと言う自負はある。
 扉が閉まり、鍵をかける音がした。
 鍵をかけたのはチェルだ。
 この部屋には2人しかいないんだから当たり前だ。

「それでなんの話だ? そんな聞かれたくない話なのか?」
「貴方の過去のことが聞きたいんです。本では知ることのできない、本物の体験談を」

 そう来たか。これには今日関わった誰も聞いてこなかった。触れてはいけないと察してくれたんだろう。でも彼女は違った。

「やっぱ気になるよな。この服を着せてくれる時に見えちまったもんな」

 下は自分でなんとか着たがどうしても上は怪我の部分を動かすから手伝ってもらった。
 彼女が見たのだとしたらその時だろう。

「なんで魔法信者になったのか、なんで辞めたのか。どっちが聞きたい?」
「両方です。当たり前じゃないですか」
「間違いない」
「お茶いりますか? 入れている間に話をまとめてもらったらと思いますので」
「いや、いいや。話した後にもらうよ」
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