218 / 435
嵐の来訪者
第188話-正体不明の襲撃者-
しおりを挟む
二つの敷地を分ける壁を潜って自分のいるべき敷地へと戻ってきた。壁は決して厚いものじゃない。
それなのにどこかいつも以上に目の前にそりたつ壁が高く、厚く見えた。
お昼休みが終わるまではもう少し時間はあるけど教室で一人考え事をしたかった。今は友人の声より一人の時間が欲しい気分になった。
そう思って校舎に歩き出すと自然な風とは違った音が聞こえた。人為的に風を切る音、その音がした方向を見るとその正体が分かった。
「な、なによ!?」
そこには人がいた。ローブを深く被っていて顔は見えない。どこか小柄で、木の上に立てるくらいにはバランス感覚が良いらしい。
次の瞬間そのまま真下へと降りてきた。手には小さくはあるが刃物が光っていた。
「誰かしらないけど止まって。それ以上近づいたら叫ぶわよ」
この世界に防犯ベルなんてものはない。むしろ鳴らしてもこの状況だと人が来るまで時間がかかる。むしろ周りに人がいるかすら怪しい。
もちろんこの場に護身用の武器なんてものはない。
警告も虚しく距離は縮まっていく。校舎までの道のりは塞がれている、だから私は壁に向かって走った。逃げ道はそこしかなかった。
「いや! 来ないで!」
目的も正体もわからない襲撃者は魂胆が見えない分私から思考の余裕すら奪っていた。
何かを警戒しているのか私までは中々追いついてこない。不気味だ。だけど、その時間はありがたい。
声は聞こえていたはずだ。博打だけど彼なら私の声に応えてくれるはず。
「お嬢!」
声は届いていた。壁の穴を今度はヤンが潜って来てくれた。
私と襲撃者の間に割って入ってそのまま襲撃者へ向かっていく。丸腰でも臆さずに。
凶器はヤンに向かって振られたけど届かない。
凶器を持つ腕を止め、そのまますかさずに足払いをかけた。ただ今度はヤンの攻撃が届かない。ジャンプして空中へ逃げた。しかもその場で飛ぶんじゃなくてバックステップで距離を取った。
ヤンは足元にあった石を手に取って投げた。直線の軌道を描きながら飛んでいく石は素早い、当たれば痛い事は見ればわかった。
襲撃者はそれを避けて今度はあっちが石を投げた。ヤンよりは遅いけどそれでも武器としては十分だ。なぜならその矛先は私だったから。
「きゃっ!」
「こんにゃろ」
ヤンが石の軌道よりも先に私を抱くようにして地面へと逃してくれた。
ヤンの舌打ちが耳元で聞こえる。
「あいつ逃げたわ、ヤン」
ヤンの身体越しに襲撃者が木の上に逃げている姿が見えた。その身のこなしは軽い、単純に木に登るじゃなくて、木に駆けて登っていた。ほとんど手も使わずに、走って登って、太い枝に手をかけてまたその勢いで登っていた。そして別の木へと逃走していた。まるで猿のようだ。
「ありがとう……ヤン」
「怪我はねぇか。良かった」
「うん、大丈夫。ヤンは?」
「身体は大丈夫なんだけどな」
どこか歯切りの悪そうな答え。どうしたんだろうか。
「状況は最悪だな」
ヤンの視線は学院の校舎側から走って来ていた教師と生徒が数人に向けられていた。
それなのにどこかいつも以上に目の前にそりたつ壁が高く、厚く見えた。
お昼休みが終わるまではもう少し時間はあるけど教室で一人考え事をしたかった。今は友人の声より一人の時間が欲しい気分になった。
そう思って校舎に歩き出すと自然な風とは違った音が聞こえた。人為的に風を切る音、その音がした方向を見るとその正体が分かった。
「な、なによ!?」
そこには人がいた。ローブを深く被っていて顔は見えない。どこか小柄で、木の上に立てるくらいにはバランス感覚が良いらしい。
次の瞬間そのまま真下へと降りてきた。手には小さくはあるが刃物が光っていた。
「誰かしらないけど止まって。それ以上近づいたら叫ぶわよ」
この世界に防犯ベルなんてものはない。むしろ鳴らしてもこの状況だと人が来るまで時間がかかる。むしろ周りに人がいるかすら怪しい。
もちろんこの場に護身用の武器なんてものはない。
警告も虚しく距離は縮まっていく。校舎までの道のりは塞がれている、だから私は壁に向かって走った。逃げ道はそこしかなかった。
「いや! 来ないで!」
目的も正体もわからない襲撃者は魂胆が見えない分私から思考の余裕すら奪っていた。
何かを警戒しているのか私までは中々追いついてこない。不気味だ。だけど、その時間はありがたい。
声は聞こえていたはずだ。博打だけど彼なら私の声に応えてくれるはず。
「お嬢!」
声は届いていた。壁の穴を今度はヤンが潜って来てくれた。
私と襲撃者の間に割って入ってそのまま襲撃者へ向かっていく。丸腰でも臆さずに。
凶器はヤンに向かって振られたけど届かない。
凶器を持つ腕を止め、そのまますかさずに足払いをかけた。ただ今度はヤンの攻撃が届かない。ジャンプして空中へ逃げた。しかもその場で飛ぶんじゃなくてバックステップで距離を取った。
ヤンは足元にあった石を手に取って投げた。直線の軌道を描きながら飛んでいく石は素早い、当たれば痛い事は見ればわかった。
襲撃者はそれを避けて今度はあっちが石を投げた。ヤンよりは遅いけどそれでも武器としては十分だ。なぜならその矛先は私だったから。
「きゃっ!」
「こんにゃろ」
ヤンが石の軌道よりも先に私を抱くようにして地面へと逃してくれた。
ヤンの舌打ちが耳元で聞こえる。
「あいつ逃げたわ、ヤン」
ヤンの身体越しに襲撃者が木の上に逃げている姿が見えた。その身のこなしは軽い、単純に木に登るじゃなくて、木に駆けて登っていた。ほとんど手も使わずに、走って登って、太い枝に手をかけてまたその勢いで登っていた。そして別の木へと逃走していた。まるで猿のようだ。
「ありがとう……ヤン」
「怪我はねぇか。良かった」
「うん、大丈夫。ヤンは?」
「身体は大丈夫なんだけどな」
どこか歯切りの悪そうな答え。どうしたんだろうか。
「状況は最悪だな」
ヤンの視線は学院の校舎側から走って来ていた教師と生徒が数人に向けられていた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる