悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ

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黒い獣

第337話-背中合わせの多角戦-

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 獣人の攻撃は早い上にリーチも長い。牙だけじゃなく爪の攻撃が厄介この上ない。
 かと言って避けるのも得策じゃない。避けてこいつらをお嬢の所へ行かせるのは愚策でしかない。
 二匹が同時に飛びかかってくる。さっきと同じなら避けたところに三匹目の攻撃がくるはずだ。

「残りの一匹は俺に任せな。そっち頼んだ」

 おっさんの言葉に気付かされた。

「分かった。任せるぜ」

 今の戦力は俺一人じゃない。隣にもう一人、お嬢が頼りにしてる奴がいる。
 攻撃は避けられない、なら全てを迎撃する。
 爪が襲いかかってくる。頭上と側面からの同時攻撃。だが、完全に同時じゃない。一瞬側面からの攻撃の方が早い。
 だから側面からの攻撃を弾いてそのまま頭上から攻撃を仕掛けてくる個体に武器を向けた。
 カウンターの一撃は避けられることなく、一匹を縦に斬った。何かを割くような手応えの感触が残る。
 完全に入った一撃は獣人を殺すには十分なはず、黒い何かを噴き出しながら地面へと落ちていく。

「斬った一匹は死んでます! 魂が見えなくなりました!」

 後方からの連絡がありがたい。わざわざ死んだか頭の片隅に残す必要もない。

「もう一匹!」
 
 自分に言い聞かせるようにして次の標的へ的を絞る。
 抵抗するような右爪の一撃。これは避けきれない、爪は俺の脇腹を掠めていく。
 油断じゃない。ただ単純に二匹を捌きながら無傷では無理だっただけの話。

「けどよ。次はもうねぇ」

 今度はこっちから仕掛けた。地面について切り返して攻撃をくりだそうとする獣人をすれ違い様に剣撃を入れた。抵抗される前に入った一撃でさっきの獣人と同じように地面へと倒れた。
 地面へ倒れた獣人の黒い毛のようなものが地面に溶けるように消えていく。

「おいおい、なんだこりゃ……まじかよ」

 目の前の現状から見ると剥がれたと言うべきかも知れない。ただ、目の前の光景は薄気味悪さだけが残っていた。



 素早い獣人には俺の攻撃が当たる気はしなかった。スピードで翻弄されているのは自分でよく分かる。

「ならこうするしかねぇな」

 左手に魔法を使った、ただ体を強化する魔法を集中的に。
 強化された腕は獣人の爪の一撃を傷を負いながらでも止めた。そして、止めた瞬間に獣人の腕を掴んだ。

「これでもう逃げらんねぇな」

 後ろじゃヤンは既に二匹仕留めている。こっちもさっさと仕留めないとお荷物だ。

「おらぁ!」

 右手にありったけの力を込めて獣人の腹へと突き立てる。
 掴んでいた獣人の腕へと入っていた力が抜けていく。突き立てた拳は貫通することはなくても何を押し潰すような感触だけは残っていた。
 
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