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14 アイラからイーリスへ
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ルルイエたち一行がアイラ国に到着したのは、4ヶ月後のことだった。
とはいえ、イーリスまででも半年近くはかかると思われていたので、そこより更に北東に位置するアイラに四ヶ月で到着したのは、ずいぶん早かったといえるだろう。
その主な理由の一つは、移動が馬車になったせいだった。
アイラからの使者二人が同行するまでは、ルルイエたちは徒歩でのんびりと移動していた。悪天候などに見舞われた場合や、ミルカのような大きな街では、宿で何日も過ごすことも多かった。
だが、馬車だとそもそも一日に移動できる距離がまったく違っていたし、多少の悪天候でも動くことができる。
その上、アイラ国の騎士であるヘグンとラスが護衛してくれるので、野盗などの危険も少なく、旅程はずいぶんとはかどったのだった。
そんなわけで、彼らが到着した時にはすでに、4月になっていた。
ただ、アイラ国のある北部はミルカなどのある中部に較べると、かなり寒い地域である。
実際4月であってもまだ空気は冷たく、毛皮の上着がいるほどだった。
「ようこそ、ルルイエ殿、ジャクリーヌ殿」
アイラの都の北側、小高い丘の上に建つ城の中央庭園で、ルルイエたちは国王自らの出迎えを受けた。王は四十前後というところだろうか。長身で威風堂々とした風情の黒髪の男性だった。
ルルイエとジャクリーヌは、その王の前にそっとひざまづく。
到着してすぐではあったが、二人とも馬車の中で身だしなみを整え、王の御前に出ても少しも恥ずかしくない装いだった。
「お招きいただき、ありがとう存じます。わたくしは、西方の王国エーリカの元聖女ルルイエにございます。そしてこちらは、わたくしの同行者でエーリカ左大臣パニエの娘にして、騎士のジャクリーヌにございます」
頭を垂れたまま、ルルイエが告げる。
「丁寧な挨拶、痛み入る。だが、客人をひざまづかせたままとあっては、私が困る。さあ、立たれよ」
王は言って、二人に立つよう促した。
立ち上がった二人に、王は続ける。
「我らの招待を受けていただき、かたじけない。そして、恩人をわざわざ呼びつける形になってしまった非礼を許してもらいたい」
「非礼だなどと……。もとよりわたくしたちは、特段急ぐ旅路でもありませんし、騎士のお二人にはとてもよくしていただきました」
対してルルイエも、穏やかに返した。
やがて彼女たちは、王の先導で城の中へと案内される。
そこは、吹き抜けのある広々としたエントランスで、新たな出迎えの人々が待っていた。
その中に、ルルイエにもジャクリーヌにも見覚えのある少女がいる。白っぽい金の髪を長く伸ばし、白が勝ったクリーム色の肌の少女――あの不思議な村のモスクにいた少女だ。
「娘のスラヴェナだ」
王が、少女を紹介する。
すると少女――スラヴェナは、ルルイエの前につとひざまづいた。
「聖女様。先日は、わたくしの魂を解放していただき、ありがとう存じます。おかげでわたくしはまた、こうして父や母の顔を見ることができるようになりました」
「お立ちください。わたくしはもう聖女ではございませんし、あれもまた偶然の成り行きでした」
ルルイエはそれへ穏やかに返して、スラヴェナの手を取る。
スラヴェナは微笑み、立ち上がった。
それへルルイエは、改めて言う。
「わたくしは、役に立たぬと言われて、エーリカを追放された身です。ただの元聖女というだけの女にすぎないのです」
「たとえそうだとしても、あの時わたくしの魂を解放し、助けてくださったのは聖女様――いえ、ルルイエ様ですもの」
スラヴェナは微笑んで返すと父王と、もう一人その場に出迎えに出ていた母王妃をふり返った。
「わたくしたちは、本当に感謝しているのです」
その夜は、ルルイエたちを歓迎する宴が開かれ、二人は王と王妃から贈られた東方の衣装をまとい、出席した。宴では二人にとっては珍しい東方の料理や美酒が饗され、なんとも賑やかだった。
その翌日には、午後に王妃とスラヴェナのお茶会に招かれ、二人は求められるままに旅の道中の話などをして楽しんだ。
そして三日目の午後。
王に招待されたお茶会で、ルルイエは初めて旅の行き先を問われた。
「イーリスへ向かうつもりでした」
答えるルルイエに、王は「やはりそうか」と低い吐息をつく。そして言った。
「ヘグンとラスからお二人の目的地を聞いた時にも思いましたが、あの地にうら若い女性だけで向かうのは、あまりにも危険ですぞ」
「ヘグン様とラス様からも、そのように言われました。いえ、その前にも宿で商人の一人から、同じように警告もされました。なんでも、国境の兵士が盗賊まがいに成り果てているとか」
ルルイエはうなずいて返す。
「そのとおりです。殊に西のミルカ側の国境は、ひどいありさまだという話で……我が国でも、積極的に訪れる旅人らには警告しているところなのです」
王は言って、真摯な目でルルイエを見やった。
「ヘグンの話では、イーリスはルルイエ殿の故郷だとのことですが……誰か、会いたい者でもおいでですか?」
「いえ……」
問われてルルイエはかぶりをふる。
「おそらく、親族はもう誰もいないのではないかと思います。ただ……お招きを受けてこちらに向かう途中に考えたのですが、やはり一度足を運び、父や母のことを知りたいと思いました」
それは、嘘ではなかった。
エーリカを出る時には、ただ漠然とそこが自分の故郷なのだから、戻ろうといった程度の気持ちしかなかった。だが、イーリスは危険だ行かない方がいいと何度も警告されて、改めてどうしようかと考えた時、ルルイエは「やはり行ってみたい」という結論にたどり着いたのだ。
理由は、今口にしたとおり、両親のことを知りたかったからだ。
母がなぜ幼い自分を連れて国を出たのか。ぼんやりとしか記憶にない父は、その時どうしていたのか。今更だが、そうしたことを、ちゃんと知りたいと思ったのだ。
彼女がそれを口にすると、王はなるほどとうなずいた。
「わかりました。……でしたら、ヘグンとラスを護衛として同行させましょう」
「王様?」
王の言葉に、さすがにルルイエは目を見張る。
同席して、黙って話を聞いていたジャクリーヌも、同じく瞠目した。
「さすがに、それは……。わたくしたちは、アイラの民でも貴族でもございません」
即座にルルイエが、かぶりをふって言う。
だが王は、笑って返した。
「たしかにそうかもしれないが、あなたはスラヴェナの恩人だ。……あなたは、エーリカを追放されたゆえに、元聖女でしかないと言われたが、私はあなたから強い魔力を感じます。また、あなたがスラヴェナを助けてくれたのは偶然ではなく、そうした流れの中にあったのだと感じます。そしてその流れは、あなたを守るべきだと告げている。私は、こうした自分の直感には従うことにしています」
「ですが……」
ルルイエは言いさして、困ったようにジャクリーヌをふり返る。
それへジャクリーヌは、少し考えてから言った。
「わたくしは、王の申し出をお受けするべきだと思います。あなたの気持ちが変わらず、危険があってもどうしてもイーリスへ行きたいと考えるなら、やはり護衛は必要でしょう。わたくしも騎士ではありますが、見知らぬ国の兵士に、わたくしの剣がどこまで通じるかは今はまだわかりません。ならば、腕がたって地の利や習慣にも詳しい方に、護衛として同行いただけることは、とてもありがたいことだと思います」
「ジャクリーヌ……」
ルルイエは幾分驚いたように彼女を見やったが、少し考え、うなずいた。そして、王を改めてふり返る。
「わかりました。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
「そうしてもらえると、娘も喜ぶだろう」
王は安堵したように、笑ってうなずくのだった。
数日後。
旅支度を終えたルルイエたちは、イーリスに向けて出発することになった。
今回も馬車が用意されたが、あまり目立ちすぎてはいけないと、アイラへ来るまでよりは小さめの幾分古びた外観のものになった。
「ルルイエ様、これを」
旅立ちの日、見送りに立ったスラヴェナが、小さな布の袋を差し出した。
「いい匂い。……ポプリですね」
つと袋を顔に近づけてその香りを吸い込み、ルルイエが問う。
「はい。旅の間、心穏やかにあれるようにと。旅の安全と癒しの魔法も付与しましたので、お守りとして身につけてくださいませ」
うなずいて言うと、スラヴェナは、ジャクリーヌや護衛のヘグン、ラスにも同じものを一つずつ渡した。
「ありがとう存じます。大事にします」
礼を言って、ルルイエはポプリについた紐を使って首にかける。
それを見やって、スラヴェナが言った。
「それからもう一つ。今日は夕方から夜にかけては、雨になります。ですから、少し早目に宿を取ってくださいませ」
「スラヴェナ様は、天気予報までできるのですか?」
目を見張って言ったのは、ジャクリーヌの方だ。
「出立の日ですから、何か助言をと、占いをいたしました」
クスクスと楽しげに笑って、スラヴェナは返した。
「占いですから、当たるも八卦、当たらぬも八卦ですが」
「そんなことはありません。姫様の占いは、とてもよく当たるのです」
言ったのは、ヘグンだ。
「雨になる前に、かならず宿を探します」
彼はスラヴェナに約束すると、ラスと大きくうなずき合った。
やがて、ルルイエとジャクリーヌが馬車に乗り込むと、ラスが御者台に陣取った。ヘグンは馬で馬車の横に並ぶ。
ちなみに、ジャクリーヌがエーリカから連れて来た馬は、アイラまでの道中も従っていたが、今回は城の厩に預けて行くことになった。ジャクリーヌは騎士だが、ヘグンとラスにとっては彼女も護衛の対象なのだ。そして、護衛する相手が複数いる場合、一緒に一つの馬車にいてくれる方がありがたい、ということなのだった。
むろん、ジャクリーヌは剣は手放してはいなかったので、必要とあれば戦う気は充分だったが、とりあえずは馬車の中でルルイエを守りつつ、男たちに護衛されていろということだった。
ともあれこうして、ルルイエとジャクリーヌは、改めてイーリスへの旅路に就いたのだった。
とはいえ、イーリスまででも半年近くはかかると思われていたので、そこより更に北東に位置するアイラに四ヶ月で到着したのは、ずいぶん早かったといえるだろう。
その主な理由の一つは、移動が馬車になったせいだった。
アイラからの使者二人が同行するまでは、ルルイエたちは徒歩でのんびりと移動していた。悪天候などに見舞われた場合や、ミルカのような大きな街では、宿で何日も過ごすことも多かった。
だが、馬車だとそもそも一日に移動できる距離がまったく違っていたし、多少の悪天候でも動くことができる。
その上、アイラ国の騎士であるヘグンとラスが護衛してくれるので、野盗などの危険も少なく、旅程はずいぶんとはかどったのだった。
そんなわけで、彼らが到着した時にはすでに、4月になっていた。
ただ、アイラ国のある北部はミルカなどのある中部に較べると、かなり寒い地域である。
実際4月であってもまだ空気は冷たく、毛皮の上着がいるほどだった。
「ようこそ、ルルイエ殿、ジャクリーヌ殿」
アイラの都の北側、小高い丘の上に建つ城の中央庭園で、ルルイエたちは国王自らの出迎えを受けた。王は四十前後というところだろうか。長身で威風堂々とした風情の黒髪の男性だった。
ルルイエとジャクリーヌは、その王の前にそっとひざまづく。
到着してすぐではあったが、二人とも馬車の中で身だしなみを整え、王の御前に出ても少しも恥ずかしくない装いだった。
「お招きいただき、ありがとう存じます。わたくしは、西方の王国エーリカの元聖女ルルイエにございます。そしてこちらは、わたくしの同行者でエーリカ左大臣パニエの娘にして、騎士のジャクリーヌにございます」
頭を垂れたまま、ルルイエが告げる。
「丁寧な挨拶、痛み入る。だが、客人をひざまづかせたままとあっては、私が困る。さあ、立たれよ」
王は言って、二人に立つよう促した。
立ち上がった二人に、王は続ける。
「我らの招待を受けていただき、かたじけない。そして、恩人をわざわざ呼びつける形になってしまった非礼を許してもらいたい」
「非礼だなどと……。もとよりわたくしたちは、特段急ぐ旅路でもありませんし、騎士のお二人にはとてもよくしていただきました」
対してルルイエも、穏やかに返した。
やがて彼女たちは、王の先導で城の中へと案内される。
そこは、吹き抜けのある広々としたエントランスで、新たな出迎えの人々が待っていた。
その中に、ルルイエにもジャクリーヌにも見覚えのある少女がいる。白っぽい金の髪を長く伸ばし、白が勝ったクリーム色の肌の少女――あの不思議な村のモスクにいた少女だ。
「娘のスラヴェナだ」
王が、少女を紹介する。
すると少女――スラヴェナは、ルルイエの前につとひざまづいた。
「聖女様。先日は、わたくしの魂を解放していただき、ありがとう存じます。おかげでわたくしはまた、こうして父や母の顔を見ることができるようになりました」
「お立ちください。わたくしはもう聖女ではございませんし、あれもまた偶然の成り行きでした」
ルルイエはそれへ穏やかに返して、スラヴェナの手を取る。
スラヴェナは微笑み、立ち上がった。
それへルルイエは、改めて言う。
「わたくしは、役に立たぬと言われて、エーリカを追放された身です。ただの元聖女というだけの女にすぎないのです」
「たとえそうだとしても、あの時わたくしの魂を解放し、助けてくださったのは聖女様――いえ、ルルイエ様ですもの」
スラヴェナは微笑んで返すと父王と、もう一人その場に出迎えに出ていた母王妃をふり返った。
「わたくしたちは、本当に感謝しているのです」
その夜は、ルルイエたちを歓迎する宴が開かれ、二人は王と王妃から贈られた東方の衣装をまとい、出席した。宴では二人にとっては珍しい東方の料理や美酒が饗され、なんとも賑やかだった。
その翌日には、午後に王妃とスラヴェナのお茶会に招かれ、二人は求められるままに旅の道中の話などをして楽しんだ。
そして三日目の午後。
王に招待されたお茶会で、ルルイエは初めて旅の行き先を問われた。
「イーリスへ向かうつもりでした」
答えるルルイエに、王は「やはりそうか」と低い吐息をつく。そして言った。
「ヘグンとラスからお二人の目的地を聞いた時にも思いましたが、あの地にうら若い女性だけで向かうのは、あまりにも危険ですぞ」
「ヘグン様とラス様からも、そのように言われました。いえ、その前にも宿で商人の一人から、同じように警告もされました。なんでも、国境の兵士が盗賊まがいに成り果てているとか」
ルルイエはうなずいて返す。
「そのとおりです。殊に西のミルカ側の国境は、ひどいありさまだという話で……我が国でも、積極的に訪れる旅人らには警告しているところなのです」
王は言って、真摯な目でルルイエを見やった。
「ヘグンの話では、イーリスはルルイエ殿の故郷だとのことですが……誰か、会いたい者でもおいでですか?」
「いえ……」
問われてルルイエはかぶりをふる。
「おそらく、親族はもう誰もいないのではないかと思います。ただ……お招きを受けてこちらに向かう途中に考えたのですが、やはり一度足を運び、父や母のことを知りたいと思いました」
それは、嘘ではなかった。
エーリカを出る時には、ただ漠然とそこが自分の故郷なのだから、戻ろうといった程度の気持ちしかなかった。だが、イーリスは危険だ行かない方がいいと何度も警告されて、改めてどうしようかと考えた時、ルルイエは「やはり行ってみたい」という結論にたどり着いたのだ。
理由は、今口にしたとおり、両親のことを知りたかったからだ。
母がなぜ幼い自分を連れて国を出たのか。ぼんやりとしか記憶にない父は、その時どうしていたのか。今更だが、そうしたことを、ちゃんと知りたいと思ったのだ。
彼女がそれを口にすると、王はなるほどとうなずいた。
「わかりました。……でしたら、ヘグンとラスを護衛として同行させましょう」
「王様?」
王の言葉に、さすがにルルイエは目を見張る。
同席して、黙って話を聞いていたジャクリーヌも、同じく瞠目した。
「さすがに、それは……。わたくしたちは、アイラの民でも貴族でもございません」
即座にルルイエが、かぶりをふって言う。
だが王は、笑って返した。
「たしかにそうかもしれないが、あなたはスラヴェナの恩人だ。……あなたは、エーリカを追放されたゆえに、元聖女でしかないと言われたが、私はあなたから強い魔力を感じます。また、あなたがスラヴェナを助けてくれたのは偶然ではなく、そうした流れの中にあったのだと感じます。そしてその流れは、あなたを守るべきだと告げている。私は、こうした自分の直感には従うことにしています」
「ですが……」
ルルイエは言いさして、困ったようにジャクリーヌをふり返る。
それへジャクリーヌは、少し考えてから言った。
「わたくしは、王の申し出をお受けするべきだと思います。あなたの気持ちが変わらず、危険があってもどうしてもイーリスへ行きたいと考えるなら、やはり護衛は必要でしょう。わたくしも騎士ではありますが、見知らぬ国の兵士に、わたくしの剣がどこまで通じるかは今はまだわかりません。ならば、腕がたって地の利や習慣にも詳しい方に、護衛として同行いただけることは、とてもありがたいことだと思います」
「ジャクリーヌ……」
ルルイエは幾分驚いたように彼女を見やったが、少し考え、うなずいた。そして、王を改めてふり返る。
「わかりました。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
「そうしてもらえると、娘も喜ぶだろう」
王は安堵したように、笑ってうなずくのだった。
数日後。
旅支度を終えたルルイエたちは、イーリスに向けて出発することになった。
今回も馬車が用意されたが、あまり目立ちすぎてはいけないと、アイラへ来るまでよりは小さめの幾分古びた外観のものになった。
「ルルイエ様、これを」
旅立ちの日、見送りに立ったスラヴェナが、小さな布の袋を差し出した。
「いい匂い。……ポプリですね」
つと袋を顔に近づけてその香りを吸い込み、ルルイエが問う。
「はい。旅の間、心穏やかにあれるようにと。旅の安全と癒しの魔法も付与しましたので、お守りとして身につけてくださいませ」
うなずいて言うと、スラヴェナは、ジャクリーヌや護衛のヘグン、ラスにも同じものを一つずつ渡した。
「ありがとう存じます。大事にします」
礼を言って、ルルイエはポプリについた紐を使って首にかける。
それを見やって、スラヴェナが言った。
「それからもう一つ。今日は夕方から夜にかけては、雨になります。ですから、少し早目に宿を取ってくださいませ」
「スラヴェナ様は、天気予報までできるのですか?」
目を見張って言ったのは、ジャクリーヌの方だ。
「出立の日ですから、何か助言をと、占いをいたしました」
クスクスと楽しげに笑って、スラヴェナは返した。
「占いですから、当たるも八卦、当たらぬも八卦ですが」
「そんなことはありません。姫様の占いは、とてもよく当たるのです」
言ったのは、ヘグンだ。
「雨になる前に、かならず宿を探します」
彼はスラヴェナに約束すると、ラスと大きくうなずき合った。
やがて、ルルイエとジャクリーヌが馬車に乗り込むと、ラスが御者台に陣取った。ヘグンは馬で馬車の横に並ぶ。
ちなみに、ジャクリーヌがエーリカから連れて来た馬は、アイラまでの道中も従っていたが、今回は城の厩に預けて行くことになった。ジャクリーヌは騎士だが、ヘグンとラスにとっては彼女も護衛の対象なのだ。そして、護衛する相手が複数いる場合、一緒に一つの馬車にいてくれる方がありがたい、ということなのだった。
むろん、ジャクリーヌは剣は手放してはいなかったので、必要とあれば戦う気は充分だったが、とりあえずは馬車の中でルルイエを守りつつ、男たちに護衛されていろということだった。
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