84 / 178
第一部
84.あくまで夢の話
しおりを挟む
【前書き】
瞳子ちゃん視点です。
少女は一人だった。
きらめく銀髪は誰もが目を奪われ、サファイアのような青い瞳は誰もが目を惹きつけられた。
妖精じみた美少女。それでも少女の周りには人が集まらなかった。
少女はその容姿に反して攻撃的だった。目つきは常に厳しく、近づこうとする者達を躊躇させた。
それは少女の防衛本能だ。
その珍しくも美しい容姿からか、昔からちょっかいをかけてくる者が多かった。少女はそれらに対して不快感で身を硬くし、そして撃退してきた。
注目はされていた。なのに誰もが見て見ぬフリをした。
誰も助けてくれないのなら自分でなんとかするしかない。幸い少女には自分自身を守るだけの力と度胸があった。
身を守るため。そうやって少女は他人を遠ざけてきた。
年月を重ねるごとに人との間に壁が出来あがっていく。それは段々と厚みを帯びていき、いつしか少女をすっぽりと覆い隠した。
こうして少女は一人となったのだ。しかし、時折壁の向こう側に目が向いてしまう。
そこには誰かといっしょにいる者達がいた。嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに。少女から見ても正の感情に彩られているのがわかった。
眺めていると少女の冷え切ってしまった心でも思ってしまう。
とても羨ましい、と。
※ ※ ※
「はっ……」
目が覚めて体を起こす。汗をびっしょりかいていて気持ち悪い。
「何よ、まだ夜中の二時じゃない」
時計を確認するとまだ起きる時間じゃなかった。もう一度眠ろうとして、汗で湿ったパジャマが気になった。
季節は冬。このまま汗で濡れてしまったパジャマを着たままで寝るのは風邪を引いてしまうかもしれない。
ベッドから降りる。床に触れた足があたしに寒さを訴えてくる。
それにしても……。
「……変な夢」
思わず言葉が零れる。
なんだかよくわからない夢だった。知らない感情で胸が苦しくなった。何より俊成と葵がいないのに平然としていた自分が不自然で仕方がない。
なんであたしが一人ぼっちになっている夢を見たのだろう? 何か未来でも指し示す意味でもあったのだろうか。そう考えてしまうのは昨日夢占いの話題で盛り上がったからだろう。それでこんな夢を見てしまったに違いない。
だからさっさと忘れてしまうべきだ。そもそも夢なんて時間が経てば勝手に忘れてしまうものである。
なのに、寂しさは消えてくれなくて、ドロドロとしたものが心の中に入ってこようとする感覚があった。
「俊成に会いたい……」
無性にそう思った。ちゃんと俊成の存在を確かめたい。じゃないとこの変な気持ちが収まってくれそうになかった。
着替えを済ませてベッドに潜り込む。ぬくもりに包まれたまま、早く朝になりますように、そう思いながら二度目の眠りについた。
※ ※ ※
「おはよう瞳子ちゃん」
「おはよう俊成」
いつものように笑顔であいさつをしてくれる俊成がいた。それだけで寒さで冷えていた体がぽかぽかしてくる。
やっぱり夢は夢か。思った以上に安心して力が抜けていく。
「どうしたの瞳子ちゃん?」
あたしの変化に気づいてくれた俊成が心配そうに駆け寄ってくる。嬉しいけれど、これくらいのことで心配させるわけにもいかない。
「そんな心配しなくてもいいわ。ちょっと立ちくらみしただけよ」
「それはそれで気になるんだけど……。体調が悪くなりそうだったらすぐに言ってね」
俊成はあたしの隣を歩いてくれる。安心感とちょっとした幸福感で満たされていく。近くにいてくれるだけで大丈夫なんだって思えた。
いつも通りに学校に行って、授業を受けて、休み時間を迎えた。
俊成の顔を見て夢のことなんてもう気にならなくなったはずなのに。なぜかまだ心の中に残っている感じがした。
誰かに話したい。じゃないとこの気持ちはすっきりしない気がした。
「変な夢?」
「そうなのよ。俊成と葵がいないのに普通に生活している、そんな夢を見たの」
まずは葵に夢の内容を話してみることにした。
葵は黙ってあたしの話を聞いてくれた。聞き終わる頃にはせつなそうな表情に変わっていた。
「なんだか嫌な夢だね」
嫌な夢。そうかもしれないと、言われてから思った。
「夢の中のあたしはそれが普通だって思っていたのよね。なんだかそれが不思議」
「でも夢ってそんなものじゃない? あり得ないことでも目が覚めるまでそれが夢だって気づかないものだよ」
言われてみればそうかと納得する。なんであたしはこんなにも気になっているのだろうか?
「私もたまに見るよ。トシくんと瞳子ちゃんが近くにいない夢」
「え? それってどんな?」
「うーんとね……」
葵は視線を宙に向けて記憶を探る。
「瞳子ちゃんは全然出てこなくってね。トシくんはいるんだけどすごく遠いの。……なんだか赤の他人みたいに」
寂しそうな目で葵は窓の外を見る。そこからは運動場が広がっていて、たくさんの生徒が遊んでいた。
そこには俊成の姿もあった。本郷に誘われてサッカーをやっている。あたしも誘われたけど「女の子だけで遊びたい」と言ったらあっさりと引き下がった。
遠目からでも本郷の速いドリブルについていけているのは俊成だけだった。眺めていると手に力が入る。近くで応援したいな。
「夢の中では私が話しかけてもトシくんは目を逸らすだけなの。嫌だよねそんなの……」
「……そうね」
考えられない、考えたくない。たとえ夢だとしても俊成にそんな態度を取られたくない。
「あっ、でもそういう夢の時は真奈美ちゃんがいつも近くにいたかも」
「真奈美が?」
空気を変えるように葵が言う。唐突に出てきた名前に何か意味でもあるのかと勘繰ってしまう。
「なになに? 私のこと呼んだ?」
自分を呼ばれたと思ったのか真奈美がこっちに近づいてきた。
「真奈美ちゃんが私の夢の中に出てくることがあるって話していたの」
「えー? あおっちったら私のこと好き過ぎなんじゃないの」
嬉しそうね真奈美。表情がふやけているわよ。
「トシくんよりも真奈美ちゃんが私の近くにいるのって変な夢だよねって思っていたの」
「そ、そう……」
葵の笑顔とともに放たれた言葉に真奈美は顔を引きつらせる。けれどもう慣れてしまったのか、肩をすくめるだけだった。
「まあいいけどね。あおっちときのぴーが高木くんのこと好き過ぎるのは今に始まったことじゃないし」
真奈美はやれやれとかぶりを振る。まあ反論はしないけれどね。
「高木がどうかした?」
今度は美穂が反応する。無表情のまま首をかしげるので話していたことを教える。
「夢の中に出ないって……、そういうこともあるんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけどね。なぜか気になっちゃって」
このもやもやした気持ちは自分でも説明できない。なのにどうしても心が不安になってしまって仕方がないのだ。
「別に毎回出ないわけじゃないんでしょ?」
「そう、なんだけどね……」
むしろ夢の記憶が残っていた時はほとんど俊成が登場している。今回の夢は本当に珍しいのだ。
あたしの反応の悪さに美穂が顎に手を当てて頷く。
「なら高木の写真でも枕の下に敷いてみたらいいと思う」
「それ聞いたことあるー! 枕の下に好きな人の写真とか名前を書いた紙を敷いておくとその対象の夢が見られるんでしょっ。私もそれ試してみてさー、スイーツの写真を敷いて寝たことあるよー」
真奈美……、それ好きな人じゃないから……。お菓子に囲まれた夢だなんてそれはそれで夢があるけれど。
それから葵。ちゃっかりとメモしているの見えているんだからね。早速今夜から試すつもりでしょ。
「そういえば、好きな人が夢に出てこないのは悪い意味ばかりじゃないって聞いたことがある」
思い出したかのように美穂は言う。あたし達は耳を傾けた。
「夢に出ないのは現実での関係が順調だからとか。それに出たのに冷たい態度とか素っ気ない態度なんてのも、現実での関係が好転するサインだったかな」
「美穂ちゃん、それ本当?」
「……確かそう聞いたような、気がする」
葵が前のめりになって美穂に詰め寄る。夢の中とはいえ俊成に素っ気ない態度を取られて相当不安だったみたい。人のこと言えないけれど……。
美穂の言ったことを信じるのなら、あたしと俊成の関係は順調ってことよね。うん、きっとそのサインだったのね。絶対そうよ。
「あとさー、見たい夢を見るためのおまじないに戻るんだけどさ。パジャマを裏返しにして寝ると確率が上がるって聞いたことあるよ」
「そうなの?」
「あー、きのぴー信じてないな。この私が試しましたとも。写真を枕の下に敷くだけじゃ見られなかったけどね、なんとパジャマを裏返しにしたら念願だったスイーツに囲まれる夢を見られたんだから!」
真奈美は体験談を交えてどれだけ効果が出るかと熱弁する。ほとんど「スイーツは女の夢!」てばかりだった。わかったわかった。
葵はそれもメモしていた。今夜の葵は俊成の写真を枕の下に敷いて裏返しにしたパジャマを着て眠りにつくのだろう。
「盛り上がっているみたいだけど、みんな何を話してるの?」
いきなりの俊成の出現に驚きで固まってしまう。どうやら休み時間の終わりが近いから教室に戻ってきたようだ。
「高木が夢に出なくて――もがっ」
「え、俺?」
「な、なんでもないわよ!」
余計なことを口にしようとする美穂の口を塞ぐ。俊成本人に言うのは恥ずかしいじゃないっ。
「占い……。そう! 私達占いをしていたの! トシくんも占ってあげようか?」
「へぇー、占いか。女子はそういうの好きだよね」
葵が上手いこと話を逸らしてくれた。さすがは葵。大事なところで機転を利かせてくれる。
即興で葵が俊成を占ってくれたおかげで誤魔化せたみたい。安堵の息を零す。
でも、みんなに話したおかげでだいぶ気持ちが楽になっていた。
夢は夢。あくまでも夢の中での出来事でしかない。
今この現実のあたしとは違っていて、きっと俊成も違う。ただの記憶のつぎはぎと考えてしまえば、変な夢を見たところで思い悩む必要もないのかもしれない。
ただまあ、今夜は良い夢が見られるようにと願う。だからちょっとだけ、ちょっとだけおまじないを試してもいいかなと、そう思った。
瞳子ちゃん視点です。
少女は一人だった。
きらめく銀髪は誰もが目を奪われ、サファイアのような青い瞳は誰もが目を惹きつけられた。
妖精じみた美少女。それでも少女の周りには人が集まらなかった。
少女はその容姿に反して攻撃的だった。目つきは常に厳しく、近づこうとする者達を躊躇させた。
それは少女の防衛本能だ。
その珍しくも美しい容姿からか、昔からちょっかいをかけてくる者が多かった。少女はそれらに対して不快感で身を硬くし、そして撃退してきた。
注目はされていた。なのに誰もが見て見ぬフリをした。
誰も助けてくれないのなら自分でなんとかするしかない。幸い少女には自分自身を守るだけの力と度胸があった。
身を守るため。そうやって少女は他人を遠ざけてきた。
年月を重ねるごとに人との間に壁が出来あがっていく。それは段々と厚みを帯びていき、いつしか少女をすっぽりと覆い隠した。
こうして少女は一人となったのだ。しかし、時折壁の向こう側に目が向いてしまう。
そこには誰かといっしょにいる者達がいた。嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに。少女から見ても正の感情に彩られているのがわかった。
眺めていると少女の冷え切ってしまった心でも思ってしまう。
とても羨ましい、と。
※ ※ ※
「はっ……」
目が覚めて体を起こす。汗をびっしょりかいていて気持ち悪い。
「何よ、まだ夜中の二時じゃない」
時計を確認するとまだ起きる時間じゃなかった。もう一度眠ろうとして、汗で湿ったパジャマが気になった。
季節は冬。このまま汗で濡れてしまったパジャマを着たままで寝るのは風邪を引いてしまうかもしれない。
ベッドから降りる。床に触れた足があたしに寒さを訴えてくる。
それにしても……。
「……変な夢」
思わず言葉が零れる。
なんだかよくわからない夢だった。知らない感情で胸が苦しくなった。何より俊成と葵がいないのに平然としていた自分が不自然で仕方がない。
なんであたしが一人ぼっちになっている夢を見たのだろう? 何か未来でも指し示す意味でもあったのだろうか。そう考えてしまうのは昨日夢占いの話題で盛り上がったからだろう。それでこんな夢を見てしまったに違いない。
だからさっさと忘れてしまうべきだ。そもそも夢なんて時間が経てば勝手に忘れてしまうものである。
なのに、寂しさは消えてくれなくて、ドロドロとしたものが心の中に入ってこようとする感覚があった。
「俊成に会いたい……」
無性にそう思った。ちゃんと俊成の存在を確かめたい。じゃないとこの変な気持ちが収まってくれそうになかった。
着替えを済ませてベッドに潜り込む。ぬくもりに包まれたまま、早く朝になりますように、そう思いながら二度目の眠りについた。
※ ※ ※
「おはよう瞳子ちゃん」
「おはよう俊成」
いつものように笑顔であいさつをしてくれる俊成がいた。それだけで寒さで冷えていた体がぽかぽかしてくる。
やっぱり夢は夢か。思った以上に安心して力が抜けていく。
「どうしたの瞳子ちゃん?」
あたしの変化に気づいてくれた俊成が心配そうに駆け寄ってくる。嬉しいけれど、これくらいのことで心配させるわけにもいかない。
「そんな心配しなくてもいいわ。ちょっと立ちくらみしただけよ」
「それはそれで気になるんだけど……。体調が悪くなりそうだったらすぐに言ってね」
俊成はあたしの隣を歩いてくれる。安心感とちょっとした幸福感で満たされていく。近くにいてくれるだけで大丈夫なんだって思えた。
いつも通りに学校に行って、授業を受けて、休み時間を迎えた。
俊成の顔を見て夢のことなんてもう気にならなくなったはずなのに。なぜかまだ心の中に残っている感じがした。
誰かに話したい。じゃないとこの気持ちはすっきりしない気がした。
「変な夢?」
「そうなのよ。俊成と葵がいないのに普通に生活している、そんな夢を見たの」
まずは葵に夢の内容を話してみることにした。
葵は黙ってあたしの話を聞いてくれた。聞き終わる頃にはせつなそうな表情に変わっていた。
「なんだか嫌な夢だね」
嫌な夢。そうかもしれないと、言われてから思った。
「夢の中のあたしはそれが普通だって思っていたのよね。なんだかそれが不思議」
「でも夢ってそんなものじゃない? あり得ないことでも目が覚めるまでそれが夢だって気づかないものだよ」
言われてみればそうかと納得する。なんであたしはこんなにも気になっているのだろうか?
「私もたまに見るよ。トシくんと瞳子ちゃんが近くにいない夢」
「え? それってどんな?」
「うーんとね……」
葵は視線を宙に向けて記憶を探る。
「瞳子ちゃんは全然出てこなくってね。トシくんはいるんだけどすごく遠いの。……なんだか赤の他人みたいに」
寂しそうな目で葵は窓の外を見る。そこからは運動場が広がっていて、たくさんの生徒が遊んでいた。
そこには俊成の姿もあった。本郷に誘われてサッカーをやっている。あたしも誘われたけど「女の子だけで遊びたい」と言ったらあっさりと引き下がった。
遠目からでも本郷の速いドリブルについていけているのは俊成だけだった。眺めていると手に力が入る。近くで応援したいな。
「夢の中では私が話しかけてもトシくんは目を逸らすだけなの。嫌だよねそんなの……」
「……そうね」
考えられない、考えたくない。たとえ夢だとしても俊成にそんな態度を取られたくない。
「あっ、でもそういう夢の時は真奈美ちゃんがいつも近くにいたかも」
「真奈美が?」
空気を変えるように葵が言う。唐突に出てきた名前に何か意味でもあるのかと勘繰ってしまう。
「なになに? 私のこと呼んだ?」
自分を呼ばれたと思ったのか真奈美がこっちに近づいてきた。
「真奈美ちゃんが私の夢の中に出てくることがあるって話していたの」
「えー? あおっちったら私のこと好き過ぎなんじゃないの」
嬉しそうね真奈美。表情がふやけているわよ。
「トシくんよりも真奈美ちゃんが私の近くにいるのって変な夢だよねって思っていたの」
「そ、そう……」
葵の笑顔とともに放たれた言葉に真奈美は顔を引きつらせる。けれどもう慣れてしまったのか、肩をすくめるだけだった。
「まあいいけどね。あおっちときのぴーが高木くんのこと好き過ぎるのは今に始まったことじゃないし」
真奈美はやれやれとかぶりを振る。まあ反論はしないけれどね。
「高木がどうかした?」
今度は美穂が反応する。無表情のまま首をかしげるので話していたことを教える。
「夢の中に出ないって……、そういうこともあるんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけどね。なぜか気になっちゃって」
このもやもやした気持ちは自分でも説明できない。なのにどうしても心が不安になってしまって仕方がないのだ。
「別に毎回出ないわけじゃないんでしょ?」
「そう、なんだけどね……」
むしろ夢の記憶が残っていた時はほとんど俊成が登場している。今回の夢は本当に珍しいのだ。
あたしの反応の悪さに美穂が顎に手を当てて頷く。
「なら高木の写真でも枕の下に敷いてみたらいいと思う」
「それ聞いたことあるー! 枕の下に好きな人の写真とか名前を書いた紙を敷いておくとその対象の夢が見られるんでしょっ。私もそれ試してみてさー、スイーツの写真を敷いて寝たことあるよー」
真奈美……、それ好きな人じゃないから……。お菓子に囲まれた夢だなんてそれはそれで夢があるけれど。
それから葵。ちゃっかりとメモしているの見えているんだからね。早速今夜から試すつもりでしょ。
「そういえば、好きな人が夢に出てこないのは悪い意味ばかりじゃないって聞いたことがある」
思い出したかのように美穂は言う。あたし達は耳を傾けた。
「夢に出ないのは現実での関係が順調だからとか。それに出たのに冷たい態度とか素っ気ない態度なんてのも、現実での関係が好転するサインだったかな」
「美穂ちゃん、それ本当?」
「……確かそう聞いたような、気がする」
葵が前のめりになって美穂に詰め寄る。夢の中とはいえ俊成に素っ気ない態度を取られて相当不安だったみたい。人のこと言えないけれど……。
美穂の言ったことを信じるのなら、あたしと俊成の関係は順調ってことよね。うん、きっとそのサインだったのね。絶対そうよ。
「あとさー、見たい夢を見るためのおまじないに戻るんだけどさ。パジャマを裏返しにして寝ると確率が上がるって聞いたことあるよ」
「そうなの?」
「あー、きのぴー信じてないな。この私が試しましたとも。写真を枕の下に敷くだけじゃ見られなかったけどね、なんとパジャマを裏返しにしたら念願だったスイーツに囲まれる夢を見られたんだから!」
真奈美は体験談を交えてどれだけ効果が出るかと熱弁する。ほとんど「スイーツは女の夢!」てばかりだった。わかったわかった。
葵はそれもメモしていた。今夜の葵は俊成の写真を枕の下に敷いて裏返しにしたパジャマを着て眠りにつくのだろう。
「盛り上がっているみたいだけど、みんな何を話してるの?」
いきなりの俊成の出現に驚きで固まってしまう。どうやら休み時間の終わりが近いから教室に戻ってきたようだ。
「高木が夢に出なくて――もがっ」
「え、俺?」
「な、なんでもないわよ!」
余計なことを口にしようとする美穂の口を塞ぐ。俊成本人に言うのは恥ずかしいじゃないっ。
「占い……。そう! 私達占いをしていたの! トシくんも占ってあげようか?」
「へぇー、占いか。女子はそういうの好きだよね」
葵が上手いこと話を逸らしてくれた。さすがは葵。大事なところで機転を利かせてくれる。
即興で葵が俊成を占ってくれたおかげで誤魔化せたみたい。安堵の息を零す。
でも、みんなに話したおかげでだいぶ気持ちが楽になっていた。
夢は夢。あくまでも夢の中での出来事でしかない。
今この現実のあたしとは違っていて、きっと俊成も違う。ただの記憶のつぎはぎと考えてしまえば、変な夢を見たところで思い悩む必要もないのかもしれない。
ただまあ、今夜は良い夢が見られるようにと願う。だからちょっとだけ、ちょっとだけおまじないを試してもいいかなと、そう思った。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる