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30.できることとできないこと
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美月の話では、城戸さんの悪い噂は一年の間でかなり有名になっているらしい。
二、三年もそこそこ知っている人が多かったとのこと。銀髪に長身女子という目立つ外見もあって、「あいつが噂の暴力女……」みたいな感じで認知されているのだそうだ。
「てか噂の出所がうちのバド部の後輩たちだったんだよね。もう広めないようにって言い聞かせたけど……ここまで有名になったらあまり効果がないよね。うちの後輩が本っ当にごめん!」
確かに。そこまで広まってしまえば、噂を発信し始めた人を特定しても、あまり意味はないのだろう。
ていうか、別に美月が悪いわけでもないのに謝るんだ……。緩そうな部活っぽく言ってたけど、先輩の責任だと考えている辺りが運動部っぽいな。
「美月のせいじゃないよ。でも、先輩として責任を感じているのなら、真実かどうかもわからない噂で迷惑する人がいるんだって、きちんと指導してあげてほしい」
僕や松雪さんよりも、バドミントン部のことなら美月に任せておいた方がいいだろう。
かといって、心のもやもやが消えるわけではない。
迷惑をかけられた張本人である城戸さんに向けられる目が変わらなければ意味がないのだ。
僕と同じく、ただ口下手なだけの彼女なのに。はじめに「父親を半殺しにした」というバイアスがかかってしまうと、大人しくしているだけで「何考えてるかわからない怖い奴」になってしまうのかもしれなかった。
「真実を説明すれば解決するかもだけど……。それは城戸さんが許さないよなぁ」
現時点では、噂を否定する以上のことができるわけでもない。
真実をみんなの前で明らかにすることが、絶対に正しいわけじゃないのだ。
内容が内容だけに、今度は妹さんに矛先が向かうかもしれない。学校が違っているからといって、妹さんに伝わらないとは限らないのだ。
城戸さんが秘密にしていても、こうやって噂が広まったことを思うと、どこから漏れるかわかったものではない。
城戸さんもそれは望んでいないだろう。
彼女の場合は自分を責めてしまうから。一人暮らしするようになった原因も、結局は自分を責めすぎたからだ。
「城戸さんが、自分を責めなくても済むようにしたいな……」
真実を知ったからこそ、強く思う。
身体を張って妹さんを守った。本来なら誇ってもいいことのはずだ。
だけど、逆にその過去が城戸さんの自信を奪ってしまったかのように思える。
妹さんを守るためとはいえ、暴力を振るってしまったという恐怖。
さらには守ったはずの妹さんに責められて、心が限界を迎えてしまったのだろう。
城戸さんは間違っていない。むしろ立派だ。すごい人だ!
そのことを城戸さんに伝え続けたい。そして、そういう人なのだと、みんなにもわかってほしかった。
◇ ◇ ◇
「メイド服……自分で作らないといけないんだって……」
昼休み。いつもの三人で昼食をとっていると、城戸さんが震えた声で切り出した。
「そういえば紬さんのクラスはメイドカフェなのでしたっけ?」
「うん。予算がないから自分たちでメイド服を作らないといけなくて……ど、どうしよう?」
どうやら城戸さんは裁縫が苦手らしい。部屋の惨状を思うと意外でもなんでもなかった。
それにしたって、文化祭の出し物でメイド服を自作しろとは、けっこう無茶ぶりではないだろうか?
「他の人は裁縫が得意な人に作ってもらえるみたいで……私、頼る人もいなくて……」
だから城戸さんは僕たちを頼ったようだ。
というか他の人は裁縫が得意な人に作ってもらえるって……。それって衣装係の仕事じゃないのか? そういう役割分担をしていてもおかしくないと思うんだけど。
そうだとして、そこに城戸さんが入っていないところに悪意を感じるのは僕だけかな?
「うーん……ボタン付けくらいならできますけど、私も裁縫はあまり得意ではないんですよね」
「ど、どうしよう……制服をメイド服だって言い張るしかないかな……」
「さすがにそれは無理があるでしょう……」
城戸さんの表情が絶望に染まる。表情筋がそんなに動いてないのに、痛いほど感情が伝わってくるな。
母親を頼る……というのも難しいか。何がきっかけで妹さんを刺激するかわからないし。
「それなら僕が作ろうか?」
「「えっ!?」」
僕の申し出に、松雪さんと城戸さんがぎょっと目を見開く。
そこまで驚かなくても……。裁縫くらい、家庭科の授業でやったことあるし。
「比呂くん作れるのですか!? あ、あのですね……メイド服ってエプロンだけではないのですよ?」
「わかってるよ。女物の服を作ったことがあるから……たぶん大丈夫」
「女物の服を? 比呂くんが? なぜですか?」
「うっ……」
美月の誕生日プレゼントで、手作りの服を贈ったことがある……なんて言えない。
手作りして形に残るものの方が思い出になる、とか考えていた過去の僕……。今振り返ってみると、キモキモのキモすぎて、のたうち回りたいほどの恥ずかしい思い出となってしまった。こんなの黒歴史確定だよっ!
「や、矢沢先輩っ」
「わっ!?」
城戸さんが勢いよく、僕の両手をがっと掴んだ。
「お願いしても……いい?」
「いいに決まってるだろ。困ってる後輩を見捨てたりはしないよ」
メイド服を準備できそうだと安心したのだろう。城戸さんが嬉しそうに目元を緩ませる。
「でも比呂くんは脱出ゲームのストーリーや謎解きの問題も考えないといけませんよね? クラスの出し物のこともありますのに、大変ではないですか?」
松雪さんが言った通り、僕にもクラスでの仕事がある。
発案者というのもあり、アイデアを出す役割となったのだ。
代わりに当日の案内役は免除されるので、狙い通りでもあった。
「問題ないよ。これくらいの仕事がないと落ち着かないくらいだしさ」
松雪さんが城戸さんのために頑張ってくれているのだ。僕だって、少しは力になれたのだと言えるくらいのことをしておきたい。
「ありがとう矢沢先輩。それじゃあ早速──」
城戸さんはおもむろに立ち上がると、僕に流し目を送ってきた。
そして胸を強調する格好で、小首をかしげたのだ。
「あたしのサイズ……測る?」
「ぶっ!?」
メリハリがありすぎるスタイルを強調する格好に、危うく噴き出しかけた。
「紬さんっ!? いけません……いけませんよっ!」
「え、だって肩幅やスリーサイズがわからないとメイド服が作れないでしょ?」
「私が測ります! お願いですから恥じらいを持ってくださいっ!」
この後、城戸さんは滅茶苦茶説教された。
後日、松雪さんに城戸さんの身長や肩幅、スリーサイズの数値を教えられてしまった。ある意味暴力的だなと、僕はそんな感想を抱いた。
「……」
「え、何? そんなにじーっと見つめられると落ち着かないんだけど」
「比呂くんのエッチ」
「理不尽っ!?」
松雪さんが僕に向ける目が変わった気がするのは、きっと気のせいではないのだろう。……僕は無実だ!
二、三年もそこそこ知っている人が多かったとのこと。銀髪に長身女子という目立つ外見もあって、「あいつが噂の暴力女……」みたいな感じで認知されているのだそうだ。
「てか噂の出所がうちのバド部の後輩たちだったんだよね。もう広めないようにって言い聞かせたけど……ここまで有名になったらあまり効果がないよね。うちの後輩が本っ当にごめん!」
確かに。そこまで広まってしまえば、噂を発信し始めた人を特定しても、あまり意味はないのだろう。
ていうか、別に美月が悪いわけでもないのに謝るんだ……。緩そうな部活っぽく言ってたけど、先輩の責任だと考えている辺りが運動部っぽいな。
「美月のせいじゃないよ。でも、先輩として責任を感じているのなら、真実かどうかもわからない噂で迷惑する人がいるんだって、きちんと指導してあげてほしい」
僕や松雪さんよりも、バドミントン部のことなら美月に任せておいた方がいいだろう。
かといって、心のもやもやが消えるわけではない。
迷惑をかけられた張本人である城戸さんに向けられる目が変わらなければ意味がないのだ。
僕と同じく、ただ口下手なだけの彼女なのに。はじめに「父親を半殺しにした」というバイアスがかかってしまうと、大人しくしているだけで「何考えてるかわからない怖い奴」になってしまうのかもしれなかった。
「真実を説明すれば解決するかもだけど……。それは城戸さんが許さないよなぁ」
現時点では、噂を否定する以上のことができるわけでもない。
真実をみんなの前で明らかにすることが、絶対に正しいわけじゃないのだ。
内容が内容だけに、今度は妹さんに矛先が向かうかもしれない。学校が違っているからといって、妹さんに伝わらないとは限らないのだ。
城戸さんが秘密にしていても、こうやって噂が広まったことを思うと、どこから漏れるかわかったものではない。
城戸さんもそれは望んでいないだろう。
彼女の場合は自分を責めてしまうから。一人暮らしするようになった原因も、結局は自分を責めすぎたからだ。
「城戸さんが、自分を責めなくても済むようにしたいな……」
真実を知ったからこそ、強く思う。
身体を張って妹さんを守った。本来なら誇ってもいいことのはずだ。
だけど、逆にその過去が城戸さんの自信を奪ってしまったかのように思える。
妹さんを守るためとはいえ、暴力を振るってしまったという恐怖。
さらには守ったはずの妹さんに責められて、心が限界を迎えてしまったのだろう。
城戸さんは間違っていない。むしろ立派だ。すごい人だ!
そのことを城戸さんに伝え続けたい。そして、そういう人なのだと、みんなにもわかってほしかった。
◇ ◇ ◇
「メイド服……自分で作らないといけないんだって……」
昼休み。いつもの三人で昼食をとっていると、城戸さんが震えた声で切り出した。
「そういえば紬さんのクラスはメイドカフェなのでしたっけ?」
「うん。予算がないから自分たちでメイド服を作らないといけなくて……ど、どうしよう?」
どうやら城戸さんは裁縫が苦手らしい。部屋の惨状を思うと意外でもなんでもなかった。
それにしたって、文化祭の出し物でメイド服を自作しろとは、けっこう無茶ぶりではないだろうか?
「他の人は裁縫が得意な人に作ってもらえるみたいで……私、頼る人もいなくて……」
だから城戸さんは僕たちを頼ったようだ。
というか他の人は裁縫が得意な人に作ってもらえるって……。それって衣装係の仕事じゃないのか? そういう役割分担をしていてもおかしくないと思うんだけど。
そうだとして、そこに城戸さんが入っていないところに悪意を感じるのは僕だけかな?
「うーん……ボタン付けくらいならできますけど、私も裁縫はあまり得意ではないんですよね」
「ど、どうしよう……制服をメイド服だって言い張るしかないかな……」
「さすがにそれは無理があるでしょう……」
城戸さんの表情が絶望に染まる。表情筋がそんなに動いてないのに、痛いほど感情が伝わってくるな。
母親を頼る……というのも難しいか。何がきっかけで妹さんを刺激するかわからないし。
「それなら僕が作ろうか?」
「「えっ!?」」
僕の申し出に、松雪さんと城戸さんがぎょっと目を見開く。
そこまで驚かなくても……。裁縫くらい、家庭科の授業でやったことあるし。
「比呂くん作れるのですか!? あ、あのですね……メイド服ってエプロンだけではないのですよ?」
「わかってるよ。女物の服を作ったことがあるから……たぶん大丈夫」
「女物の服を? 比呂くんが? なぜですか?」
「うっ……」
美月の誕生日プレゼントで、手作りの服を贈ったことがある……なんて言えない。
手作りして形に残るものの方が思い出になる、とか考えていた過去の僕……。今振り返ってみると、キモキモのキモすぎて、のたうち回りたいほどの恥ずかしい思い出となってしまった。こんなの黒歴史確定だよっ!
「や、矢沢先輩っ」
「わっ!?」
城戸さんが勢いよく、僕の両手をがっと掴んだ。
「お願いしても……いい?」
「いいに決まってるだろ。困ってる後輩を見捨てたりはしないよ」
メイド服を準備できそうだと安心したのだろう。城戸さんが嬉しそうに目元を緩ませる。
「でも比呂くんは脱出ゲームのストーリーや謎解きの問題も考えないといけませんよね? クラスの出し物のこともありますのに、大変ではないですか?」
松雪さんが言った通り、僕にもクラスでの仕事がある。
発案者というのもあり、アイデアを出す役割となったのだ。
代わりに当日の案内役は免除されるので、狙い通りでもあった。
「問題ないよ。これくらいの仕事がないと落ち着かないくらいだしさ」
松雪さんが城戸さんのために頑張ってくれているのだ。僕だって、少しは力になれたのだと言えるくらいのことをしておきたい。
「ありがとう矢沢先輩。それじゃあ早速──」
城戸さんはおもむろに立ち上がると、僕に流し目を送ってきた。
そして胸を強調する格好で、小首をかしげたのだ。
「あたしのサイズ……測る?」
「ぶっ!?」
メリハリがありすぎるスタイルを強調する格好に、危うく噴き出しかけた。
「紬さんっ!? いけません……いけませんよっ!」
「え、だって肩幅やスリーサイズがわからないとメイド服が作れないでしょ?」
「私が測ります! お願いですから恥じらいを持ってくださいっ!」
この後、城戸さんは滅茶苦茶説教された。
後日、松雪さんに城戸さんの身長や肩幅、スリーサイズの数値を教えられてしまった。ある意味暴力的だなと、僕はそんな感想を抱いた。
「……」
「え、何? そんなにじーっと見つめられると落ち着かないんだけど」
「比呂くんのエッチ」
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