僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

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41.幼馴染のこと

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「羽柴美月先輩? それは誰だ?」
「わ、私の部活の先輩……二年の女子の……」

 ああ、と納得する。
 美月が言っていたっけ。バドミントン部の後輩が、城戸さんの噂を流してしまったんだって。
 それがあの女子なのだろう。

「そうか……すべての元凶はそいつか……だったら、ちゃんと償わせないとな?」

 顔を見なくても、男子が嫌な表情をしているのが伝わってくる。
 やり取りをちょっと聞いただけでもわかる。この男子は城戸さんとも、美月とも無関係だ。
 部外者のくせして他人を裁こうとしている。どういう神経をしていればそんなことを実行できるのか、僕にはわからなかった。

「違うよ。美月はそんなことしていない」

 気付けば、自分でも驚くほど冷静な声で、彼らに言い放っていた。

「は? いきなりなんだよ。つーか、あんた誰?」

 突然現れた僕に、男子は眉間にしわを寄せて不審な目を向けてくる。

「二年の矢沢比呂。君は?」
「俺のことはどうだっていいだろっ」

 あっそ。興味ないから別にいいや。
 階段を上がって、彼らのいる踊り場に立つ。
 目を向けるのはバド部の女子。美月の後輩だ。

「あ、あのっ……私……」
「怖かったね」
「え?」
「さっきの聞いていたよ。恫喝みたいなことをされたら、逃げたくて思わず先輩の名前出しちゃうよね」

 男子に詰められて、よほど怖かったのだろう。女子の目から涙が溢れてきた。
 反応を見て確信する。やっぱり美月は城戸さんの悪い噂を広めようとはしていないし、この女子も好きで美月を陥れようとしているわけではなかった。
 他の人にも目を向ける。たぶんみんな一年生だ。視線を動かしてみれば気まずそうに下を向く人ばかりだった。
 よかった。ただ見ているだけのようだったけど、好き好んで恫喝に加担しているわけではないらしい。

「誰が恫喝してるって──」
「美月はバド部の活動が楽しくて、後輩もいい子ばかりだって言っていたよ。上下関係があまりなくて、みんな仲良しなんだってね」

 美月の後輩に目を向け直しながら語り掛ける。

「美月は考えなしで、思ったことをすぐに口に出しちゃって、それでトラブルを起こすこともあるけど」

 美月は、決して欠点のない女の子ではない。
 でも、だからこそ僕は彼女のことが好きだったのだ。
 欠点を自覚して、反省して、それをまた忘れてしまうこともあるけど……その分、人の欠点にも寛容だったから。

「それでも人を陥れることはしないよ。面倒見がよくて、困っている人がいたらつい手を出して、一人でいる奴がいたら構いたがる……美月は、そういう奴だからさ」

 美月のおかげで、僕は一人ぼっちではなかった。
 彼女が考えなしに構ってくれていたから、陰キャの僕でも今までやってこれたのだ。
 確かに互いに頼りすぎてしまうことがあったかもしれないけれど。寄りかかりすぎて、一人でやっていける自信をつけられなかったけれど。
 それは全部僕の責任だ。頼りやすいからといって、責任まで美月に負わせるわけにはいかない。

「はい……美月先輩は優しくて、私が城戸さんの噂を流してしまったのに、注意するだけで決して責めたりはしませんでした……っ。なのに、私はそんな先輩に責任をなすりつけようとして……ごめんなさいっ」
「うん。ちゃんと本当のことを言ってくれてありがとう」

 泣き出してしまった女子にハンカチを差し出す。
 男子から責められて、よほど怖かったのだろう。そんな子を追い詰めたりはしない。美月なら、絶対にそんなことをしないだろうから。

「俺に嘘をついたのか? 嘘をつく奴は悪人だぞ!」
「もういいだろ。そろそろ君も黙ってくれないか?」
「は、はあ?」

 結局、ここで騒いでいるのはこの男子一人だけだった。大きな悪意に思えても、実態はそんなものなのかもしれない。
 人を裁くところを他人に見せたかっただけなのだろうか。一方的に悪を糾弾するのは、さぞ気持ちがいいだろうからな。

「身勝手な正義を振りかざしたいだけなら他でやってくれないか? そんなこと誰も望んでいないんだよ。君のやっていることはただの迷惑だ」
「お、俺が迷惑……だと?」
「さあ、みんな解散して。まだ後片付けが残っているだろ? こんなところで無駄な時間を過ごすのは勿体ないよ」

 空気が弛緩する。場が収まろうとした、その瞬間だった。

「テメェこそ勝手なこと言ってんじゃねえっ!」
「うぐっ!?」

 男子に胸倉を掴まれて、押される勢いのまま背中を壁に打ちつけた。
 痛い。そう思う間もなく、男子が拳を振り上げた。
 いつもの僕なら怯えていた場面だ。けれど、今は緊張の連続で逆に冷静になってしまったのか、男子の動きがスローモーションに見える。

「暴力を糾弾していた奴が、暴力に訴えるのか?」
「うるせえっ! お前が悪いんだよ! こっちは善意でやろうとしていたってのにゴチャゴチャ言いやがって!」

 正義マンの理屈は滅茶苦茶だ。まあ善意どころか、これではただ単に迷惑な人だけど。引っ込みがつかなくなっただけともいう。
 それにしても殴られそうなのに、我ながら落ち着いているなぁ。
 城戸さんの件で極限状態になったせいか、感覚がマヒしてしまったのかもしれない。
 本当に殴られたら、学校に報告して対処してもらおう。目撃者は充分すぎるほどいるし、僕の狂言という話にはならないはずだ。
 って、何考えてんだか……。今日一日いろいろあって、あまりの負荷に脳が破壊されているのかもしれないな。

「そこまでだ。現行犯で逮捕する、ってな」
「なっ!?」

 僕に向かって振り下ろされる拳を止めたのは、佐野くんだった。
 いつの間に? なんていいタイミングで現れてくれたんだ。これは格好よすぎるよ。

「マサー、そいつどうすんの?」
「やっちゃう? ねえ、やっちゃう?」
「バカ! こいつにはしかるべき指導を受けてもらうんだよ!」

 さらに佐野くんの友達らしき男子連中も、階段を下りて集まってきた。

「あなたたち、ここで騒いでいるから問題になっているわよ。誰か事情を説明できる人はいる?」

 そして杉藤さんまでもが現れた。彼女はテキパキと事態を収拾してくれる。

「よく頑張ったな矢沢くん。大体のことはわかってるから、後は俺らに任せてくれ」
「そ、そう? じゃあ僕はクラスに戻ろうかな……」

 佐野くんに促されて、僕は教室に戻ることにした。
 なんだか全部持ってかれた気分……。別にいいんだけども。元々僕の出る幕じゃなかっただろうし。
 階段を上がって、角を曲がる。

「わっ!? み、美月?」
「ひ、比呂……」

 角を曲がった先にいたのは、美月だった。
 なんか顔が赤いけど……、もしかしてさっきまでの会話を聞いていたのか?
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