僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

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51.松雪さんは恥ずかしいところをさらけ出す

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「私、恋というものがわからないんです……」

 松雪さんは最初にそう切り出した。
 思春期を迎えて、周りのみんなが異性を意識するようになっても、彼女にはその感覚がわからなかったそうだ。
 だからこそ初めて男子に告白された時も、恋愛的な「好き」とはわからなかった。
「ラブ」ではなく「ライク」の好きだと思った松雪さんは、友達的な意味で好意を返した。
 するとその男子は、後日松雪さんと恋人になったのだとクラスで宣言したのだ。
 慌てて否定したが、それが悪かった。

「綾乃ちゃん……騙したなんてひどいよ!」

 相手の男子が怒ってしまったのだ。
 さらに周りの女子も松雪さんを責め立てた。その男子が女子からの人気が高かったこともあり、いじめにまで発展してしまった。

「どうして? 私達仲良しだったはずなのに……」

 松雪さんは周りが悪いのではなく、自分が悪いことをしてしまったのだろうと反省した。
 よくわかりもせず、安易に告白を受け入れてしまったからこうなった。
 なら、次からはハッキリと断ろう。

「松雪さんのことが好きです! 俺と付き合ってください!」
「ごめんなさい」

 次に訪れた男子からの告白の機会。松雪さんは決めていた通りにハッキリと断った。

「その気にさせておいて告白を断ったんだって」
「自分から誘っておきながらひどいよね」
「男を手玉にとって遊んでるつもりなんでしょ」

 なのに、またもや周囲の反応は冷たかった。
 みんなの言い分はこうだ。男子相手に親しげに名前で呼んだ。距離が近かった。だから誘っていたのだろう、と。
 松雪さんにそんなつもりはなかった。友達として仲良くなるために名前で呼んだ。距離感は男子も女子も変わりなかった。それだけのことだった。

「結局、私だけが子供のままだったのですよ……」

 松雪さんは夜空を見上げながら、力なく笑う。

「小学校の先生にお友達を名前で呼びましょうと教えられて、ずっとそうしてきたからこそ仲良しの人がいてくれるのだと思っていましたから……。男女の距離感という意識もないままで、それが同性からやっかまれる原因になっていたのでしょうね」

 中学までの松雪さんは、頻繁に男子から告白されていたらしい。
 告白される度に周りの人に嫌われていく。告白を断った男子からはもちろん、女子からも。
 それに耐えかねて形だけでも付き合うことも考えたらしいけど、恋すらわからない自分が告白を受けるのは失礼だと思ってできなかったのだとか。
 そして、ついに松雪さんは友達に相談した。
 なんでも相談ができる、たった一人の親友だった。
 みんなと仲良くなりたいこと。でも男女関係はまだわからないこと。告白されたくないということ。やっかまれるのが嫌だということ。
 思いつくことをすべて話した。どうすればいいのかわからなかったし、この気持ちをわかってほしいと思っていた。

「何それ……綾乃ちゃん、贅沢すぎるんじゃない?」

 でも、親友の反応は松雪さんが予想したものではなかった。
 慰めるものでも、共感するものでも、元気づけるものでもない。友人は松雪さんを敵意のこもった目で睨んでいた。
 たった一人の親友だと思っていた女の子も、松雪さんに対して反感を覚える者の一人でしかなかったのだ。
 そこでようやく松雪さんは気づいた。いつの間にか自分に「友達」がいなくなっていたことに。

「まあそんなことがありまして……。みんなが私を悪女と呼ぶのなら、その通りにしてやろうって思ってしまったのですよ」

 松雪さんはポテチをかじる。苦い味でも口にしたみたいに表情が歪む。

「たくさん告白されて、人の好意がどこに向いているのか自然とわかるようになっていました。同じように嫌悪の感情もですけど……」

 松雪さんは僕と目を合わせないまま続ける。

「高校ではできるだけ告白をされないように振る舞ってきました。それでも私に告白してきた人には……心を折らせてもらいました」

 告白自体されなければ、誰からも嫌われることはない。
 それでも告白してきた相手には、一度は受けておきながら、徹底的に心を折る勢いで振った。
 そうしなければ、またみんなから嫌われてしまうから。心さえ折ってしまえば、恥ずかしくて周りに言いふらす人はいなかったから。

「だから私は悪女なのですよ。……人の心を弄んで、酷い女ですよね」
「そうだね」
「っ」

 僕の同意に、彼女は泣きそうな顔になった。

「でも、松雪さんがこれ以上傷つけられたくなかったという気持ちもわかる」
「え?」

 松雪さんは、たぶん悪いことをしてしまったのだろう。
 だからって、周囲の身勝手さまで許してやる必要はないように思えた。

「だって松雪さんは男子の告白をその気がないからってちゃんと断ったんじゃないか。誠実な対応をしてきたのに、それを悪いことのように責めて、そいつらこそ何様だよ」

 なんだか言ってて怒りが込み上げてきた。
 でも、周りの奴らと僕。そこに違いがあっただろうかと自問する。

 僕は幼馴染の美月のことが好きだった。
 美月に彼氏ができた時、僕は理不尽な怒りを覚えた。
 とても恥ずかしいことだ。告白すらしなかった僕が怒りを覚えるなんて、おこがましいにもほどがある。
 だからこそ感情は厄介だ。理不尽なことでも、気持ちが支配されてしまうから。

「恋は一方通行だ。自分が相手を好きだからって、相手が自分を好きだとは限らない。仮に両想いだったとしても、その気持ちの強さが同じとも限らない……と思う」

 松雪さんは「恋というものがわからない」と言った。
 だけど、他の人もどれだけ「恋愛」について知っているのだろう?
 僕の初恋の相手は美月。そう思っていたけれど、今はちょっと自信がない。
 昔から僕と仲良くしてくれるのは、美月しかいなかった。
 だから美月が彼氏ができたのだと報告してきた時に、僕は一人ぼっちになってしまうのではないかと恐れたのかもしれない。と、今だからこそそんな風に考えてしまう。
 脳がグチャグチャに破壊される感覚……。それは孤独に対する恐怖だったのだろう。
 その恐怖に似たものを松雪さんも感じていたのだとすれば、僕に彼女を責める権利はないと思った。

「どこかの偉い人は『恋は勘違い』と言ったらしいよ。失恋は男の勲章とも言うしね」
「そう、なのですか?」

 うん。たぶん……テレビか何かで言ってたんじゃないかな。

「だから深刻に考えなくてもいいと思う。それに今は、その悪女ムーブをしていないんでしょ?」
「ええ……。友達が、できましたから」

 松雪さんは恥ずかしそうにしながらも、少し誇らしげだった。
 たぶんその「友達」は僕のことではないのだろう。
 それでもいい。人に裏切られながらも、期待することをやめなかった彼女だからこそ、手に入れられた大切な存在なのだろうから。

「だったら、なおさら「悪女」なんかに振り回される必要はないよ。自分が変わったと思うのなら、あとは胸を張って堂々としていくだけだ」
「はい……そう、ですよね」

 松雪さんが安心したように頬を緩ませる。
 僕と松雪さんは全然違うタイプなのかと思い込んでいた。
 でも、全然違うことのはずなのに、共通点のようなものを感じた。
 陰キャだとか陽キャだとか、人はそれぞれカテゴリー分けすることが多いけど、案外探してみれば似ているところが出てくるのかもしれない。

「ごめんなさい比呂くん。こんなくだらない話を聞かせてしまって……」
「松雪さんにとってくだらない話じゃないのなら、僕にとってもくだらなくないよ」

 自分の悩みは大したことがないのかもしれない。そう思っていることを、人に打ち明けるのは勇気がいる。
 自分が小さい人間だと思われてしまう。それもまた怖いことだ。
 それに松雪さんが親友だと思っていた人でも、悩みそのものを否定することだってある。
 弱味を見せるのは怖くて、とても恥ずかしい……。
 だからこそ、悩みを打ち明けられたことは信頼された証なのだろう。
 その信頼に応えたい。友達として、少しでも力になりたかった。

「あれ、松雪さん? 顔真っ赤だよ?」
「え?」

 公園の街灯程度でもわかるほど、彼女の顔が真っ赤になっていた。

「こんな夜遅くだから冷えたのかも。風邪を引かないように早く帰って身体を温めた方がいいよ」
「そ、そうですねっ」

 松雪さんは焦ったようにゴミを片付ける。
 彼女を「悪女」と呼ぶ人がいる経緯はわかった。
 けれど問題はここからだ。
 また松雪さんに告白する男子が現れた。そして、彼女を恨んでいる人がいるかもしれないという事実。
 その辺りのことを、また説明してもらわないといけない。

「松雪さん、相談の続きはまた明日ね」
「比呂くん……」

 僕もなんだか顔が熱い。松雪さんの話にのめり込みすぎて力を入れすぎたのかもしれない。

「綾乃……こんなところで何してんの?」

 声をかけられるまで、まったく気配を感じなかった。
 振り返った先にいたのは、息を呑むほど美形な男の人だった。
 親しげに松雪さんの名前を呼んだ?
 そこから導き出される答えは……この人、松雪さんの元カレか!?

「に、逃げて松雪さんっ!」

 咄嗟に松雪さんと男の人の間に割って入る。
 おそらく松雪さんは、今まで告白を断ったり付き合うフリをして心を折った相手から、恨まれているのではないかと危惧している。
 もし逆上して襲ってこられたら……。なんとしても僕が食い止めるしかない!
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