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64.好きの理由
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待て、落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。
思わず絶叫してしまったけど、女子小学生にちょっと告白されただけじゃないか。うんうん、高校生がこんなことくらいでうろたえていたらダメだよね。ははっ。
「えっとね、唯花ちゃん……」
「なあに比呂さん?」
唯花ちゃんは小首をかしげて、僕を上目遣いで見つめる。
その際に長い銀髪が肩から流れ落ちた。サラサラと流れる銀色が、見惚れてしまうほど美しい……。
ロリ城戸さん。そう思えるほどに、唯花ちゃんの容姿は城戸さんによく似ていた。
「その、ね……」
青い瞳が、僕を見つめて離さない。
笑顔ではあるのに、唯花ちゃんの目は真剣そのもので。小学生だからと誤魔化してはいけないような気がした。
「唯花ちゃんは、どうして僕と付き合いたいの?」
だから、理由を聞いてみた。
「お姉ちゃんを助けてくれた時の比呂さんがカッコ良かったから……かな」
即答だった。
唯花ちゃんは文化祭のミスコンでの出来事を言っているのだろう。それくらいしか心当たりがない。
「そ、そうかな?」
あの時のことは、今でも忘れられない。
たぬきのお面を被って、ラッパーの真似事のようなことをして……。思い出すだけで恥ずかしい記憶だ。
大勢の前で言いたいことを言えるだけの度胸がなかったから、あんな変人みたいな行動をしてしまった。
最低限、城戸さんへの悪意が僕の方に向けばいい。
そう考えたからこそ、恥ずかしいことをした自覚はあるけれど、後悔はなかった。
……でも、やっぱりカッコ良くはなかったと思うんだけどなぁ。
「そうだよ! 比呂さんカッッッコ良かったよ!」
恥ずかしさで下を向きかけた僕を、唯花ちゃんの元気な声が止めた。
「アタシはずっと見ていたよ。お姉ちゃんがステージで輝いていて、なのに悪いことを言う人がいて……アタシは怖かったの」
あの時の空気を思い出したのだろう。唯花ちゃんが身震いをする。
あの時の体育館は、みんなが城戸さんを責める空気になりかけていた。
それはとても異様なもので。こんなにも元気で明るい唯花ちゃんにとっても恐ろしくてたまらないものだったに違いない。
「そんな時にお姉ちゃんを守ってくれたのが比呂さんだった! お姉ちゃんは悪くないって……あんなに大勢の人の前で言ってくれたのが比呂さんだったの!」
「で、でも僕は緊張しすぎていて……声も身体も震えていて……」
「だからカッコ良かったんだよ!」
唯花ちゃんの小さな手が、僕の手を握る。
「比呂さんが頑張って勇気を出したのが伝わってきたよ? だからアタシも勇気を出せたんだよ。ずっと話したいって思ってたお姉ちゃんのもとへ、行けたんだよ」
唯花ちゃんは頭を下げる。
「比呂さん、お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます。おかげでお姉ちゃんと仲直りできました」
「……っ」
あ、ヤバイ……目頭が熱い。
城戸さんに感謝されて、松雪さんに褒められたものだけど。こうして他の人に褒められ感謝されるというのは何か込み上げてくるものがある。
本当にあれでよかったのか? もっと上手いやり方があったんじゃないのか?
城戸さんが前を向けた結果になってよかったと思いつつも、不甲斐ない自分への反省が頭から離れなかった。
それが唯花ちゃんの言葉のおかげで、ようやく自分を認めてあげられる気がした。
「これがアタシが比呂さんを好きになった理由だよ。一番大変な時に助けてくれて。優しくて温かくて、可愛い人♪」
「最後のは余計だったんじゃないかな?」
何を思って「可愛い人」なんて言うのかなっ? せっかく感動していたのに吹き飛んじゃったじゃないか。
「それで比呂さん。アタシはちゃんと言ったよ? だから今度は、比呂さんの答えが聞きたいな」
「え、え?」
「比呂さんは、アタシと付き合ってくれる?」
僕の手をぎゅっと握りながらの上目遣い。
唯花ちゃんは自分の可愛さを存分に生かしていた。
唯花ちゃんの気持ちを聞けて、正直嬉しかった。
でも、相手は小学生だ。彼女にとっても僕のような高校生が恋人なんてあまりいいことではないだろう。
それに、と。松雪さんと城戸さんに目を向ける。
二人は積極的な唯花ちゃんに驚いているのか固まっていた。
だけど、僕の答えがどんなものになるのか。それを聞き漏らさないようにしているみたいに見える。
「唯花ちゃんの気持ちは嬉しいよ。でも、僕には好きな人が……」
「好きな人がいるの?」
「……いるわけじゃないんだけどね」
僕は何を口走ろうとしていたんだ?
美月のことはもう気持ちの整理ができた。今の僕に好きな人なんていないはずだ。
なのに、なんでそんな言い訳をしようとしたのだろう?
「ただね、唯花ちゃんはまだ小学三年生だよね?」
「うん。九歳だよ♪」
一桁かぁ……。何かしでかしたわけでもないのに、自分から犯罪臭が漂う気がしてきた。
「唯花ちゃんはこれから大きくなって、気持ちも成長していくと思う。出会いも増えるし、僕よりももっと好きになる男の子が現れるかもしれない」
「比呂さんよりも素敵な人なんかいないよっ!」
「ありがとうね。でもね、成長していくってことは気持ちも変わっていくんだ。段々大人になっていく。だから、そういうことはもう少し大人になってから考えてもいいんじゃないかな?」
女子小学生相手にキモいことを言っているかもしれない。
それでも唯花ちゃんは真剣だったから。
ちゃんと僕の考えを伝えたいと、そう思わされたのだ。
「そっか……わかった」
わかってくれたか。僕はほっと安堵する。
「それじゃあ大きくなって美人になったら、また比呂さんに告白するね♪」
「うぇっ!?」
前向きな唯花ちゃんに、僕は変な声を出してしまった。
「大丈夫。アタシ他の子より成長が早いから。すぐに比呂さんの身長に追いつくよ」
それは本当に実現しそうで怖い。城戸さんという姉がいるから、遺伝的に僕よりも背が伸びてもおかしくない。
「六……ううん、五年生になる頃には追いついてみせるよ。その時に成長したアタシを見て、また答えをちょうだいね♪」
唯花ちゃんは明るい未来を想像してか、にこりんぱっと満面の笑みを僕に向ける。
小学五年生って……二年後!? 早くない!?
順調にいけば、その頃の僕は大学生である。
高校生と小学生という組み合わせってだけでも危ういのに、大学生と小学生は完全にアウトだろう。本気で通報されやしないか心配だよ……。
「ははっ……唯花ちゃんの気持ちが変わらなければ、またその時に考えるよ」
曖昧なことを言ってしまう僕。
唯花ちゃんを傷つけられないとはいえ、僕の返事ってヘタレだったよなぁ……。
「というわけで、二年くらいは待ってあげるからねお姉ちゃん♪」
「ちょっ、ゆ、唯花っ!?」
城戸さんが顔を真っ赤にする。目の前で唯花ちゃんが僕に告白したものだから驚きすぎてしまったのだろう。姉は大変な立場である。
「それと松雪先輩……ううん、綾乃先輩」
「わ、私ですか?」
唯花ちゃんにいきなり名前呼びをされて驚いた様子の松雪さん。
「これで、アタシもライバルなんだからね」
「わ、私は……」
「やり方は人それぞれだろうけど、何もせずにする後悔が一番悔しいんだってさ。お母さんがそう言ってたよ」
「……っ」
松雪さんは言葉を詰まらせる。
ライバルって、ゲームの話かな? さっきもライバルだなんだって言っていたし。
唯花ちゃんはアドバイスをしているっぽいけど、レベルが違いすぎるせいか僕にはよくわからなかった。
「も、もうこんな時間っ」
城戸さんの声に反応して時計を確認すれば、そろそろ帰らないと外が暗くなる時間だった。
「あまり遅くなると悪いし。そろそろ僕たちは帰るよ」
「比呂さん」
ソファから立ち上がろうとすると、唯花ちゃんは僕の袖を引いて止める。
引っ張られて少し前屈みになってしまう。そんな僕に、唯花ちゃんが顔を近づけてきた。
「「うぇっ!?」」
チュッと、頬に柔らかい感触が押しつけられた。
松雪さんと城戸さんが変な声を漏らした。僕も事実の認識が遅れてしまい、呆けてしまう。
「え?」
「さっきアタシが一位だったから……ご褒美っ」
唯花ちゃんは照れ臭そうにはにかむ。
最近の小学生は本当にませている……。
もしかしたら僕は精神年齢で、とっくに唯花ちゃんに追いつかれているのかもしれなかった。
「比呂さん、綾乃先輩。また遊びに来てね♪」
唯花ちゃんに見送られながら、僕と松雪さんは城戸家を後にした。
「ゆ、ゆ、ゆ……唯花ーーっ!!」
玄関の向こう側から、城戸さんの大声が響いてきた。
城戸さんもあんな風な大声を上げるのだなと、ぼんやりした頭で思った。
思わず絶叫してしまったけど、女子小学生にちょっと告白されただけじゃないか。うんうん、高校生がこんなことくらいでうろたえていたらダメだよね。ははっ。
「えっとね、唯花ちゃん……」
「なあに比呂さん?」
唯花ちゃんは小首をかしげて、僕を上目遣いで見つめる。
その際に長い銀髪が肩から流れ落ちた。サラサラと流れる銀色が、見惚れてしまうほど美しい……。
ロリ城戸さん。そう思えるほどに、唯花ちゃんの容姿は城戸さんによく似ていた。
「その、ね……」
青い瞳が、僕を見つめて離さない。
笑顔ではあるのに、唯花ちゃんの目は真剣そのもので。小学生だからと誤魔化してはいけないような気がした。
「唯花ちゃんは、どうして僕と付き合いたいの?」
だから、理由を聞いてみた。
「お姉ちゃんを助けてくれた時の比呂さんがカッコ良かったから……かな」
即答だった。
唯花ちゃんは文化祭のミスコンでの出来事を言っているのだろう。それくらいしか心当たりがない。
「そ、そうかな?」
あの時のことは、今でも忘れられない。
たぬきのお面を被って、ラッパーの真似事のようなことをして……。思い出すだけで恥ずかしい記憶だ。
大勢の前で言いたいことを言えるだけの度胸がなかったから、あんな変人みたいな行動をしてしまった。
最低限、城戸さんへの悪意が僕の方に向けばいい。
そう考えたからこそ、恥ずかしいことをした自覚はあるけれど、後悔はなかった。
……でも、やっぱりカッコ良くはなかったと思うんだけどなぁ。
「そうだよ! 比呂さんカッッッコ良かったよ!」
恥ずかしさで下を向きかけた僕を、唯花ちゃんの元気な声が止めた。
「アタシはずっと見ていたよ。お姉ちゃんがステージで輝いていて、なのに悪いことを言う人がいて……アタシは怖かったの」
あの時の空気を思い出したのだろう。唯花ちゃんが身震いをする。
あの時の体育館は、みんなが城戸さんを責める空気になりかけていた。
それはとても異様なもので。こんなにも元気で明るい唯花ちゃんにとっても恐ろしくてたまらないものだったに違いない。
「そんな時にお姉ちゃんを守ってくれたのが比呂さんだった! お姉ちゃんは悪くないって……あんなに大勢の人の前で言ってくれたのが比呂さんだったの!」
「で、でも僕は緊張しすぎていて……声も身体も震えていて……」
「だからカッコ良かったんだよ!」
唯花ちゃんの小さな手が、僕の手を握る。
「比呂さんが頑張って勇気を出したのが伝わってきたよ? だからアタシも勇気を出せたんだよ。ずっと話したいって思ってたお姉ちゃんのもとへ、行けたんだよ」
唯花ちゃんは頭を下げる。
「比呂さん、お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます。おかげでお姉ちゃんと仲直りできました」
「……っ」
あ、ヤバイ……目頭が熱い。
城戸さんに感謝されて、松雪さんに褒められたものだけど。こうして他の人に褒められ感謝されるというのは何か込み上げてくるものがある。
本当にあれでよかったのか? もっと上手いやり方があったんじゃないのか?
城戸さんが前を向けた結果になってよかったと思いつつも、不甲斐ない自分への反省が頭から離れなかった。
それが唯花ちゃんの言葉のおかげで、ようやく自分を認めてあげられる気がした。
「これがアタシが比呂さんを好きになった理由だよ。一番大変な時に助けてくれて。優しくて温かくて、可愛い人♪」
「最後のは余計だったんじゃないかな?」
何を思って「可愛い人」なんて言うのかなっ? せっかく感動していたのに吹き飛んじゃったじゃないか。
「それで比呂さん。アタシはちゃんと言ったよ? だから今度は、比呂さんの答えが聞きたいな」
「え、え?」
「比呂さんは、アタシと付き合ってくれる?」
僕の手をぎゅっと握りながらの上目遣い。
唯花ちゃんは自分の可愛さを存分に生かしていた。
唯花ちゃんの気持ちを聞けて、正直嬉しかった。
でも、相手は小学生だ。彼女にとっても僕のような高校生が恋人なんてあまりいいことではないだろう。
それに、と。松雪さんと城戸さんに目を向ける。
二人は積極的な唯花ちゃんに驚いているのか固まっていた。
だけど、僕の答えがどんなものになるのか。それを聞き漏らさないようにしているみたいに見える。
「唯花ちゃんの気持ちは嬉しいよ。でも、僕には好きな人が……」
「好きな人がいるの?」
「……いるわけじゃないんだけどね」
僕は何を口走ろうとしていたんだ?
美月のことはもう気持ちの整理ができた。今の僕に好きな人なんていないはずだ。
なのに、なんでそんな言い訳をしようとしたのだろう?
「ただね、唯花ちゃんはまだ小学三年生だよね?」
「うん。九歳だよ♪」
一桁かぁ……。何かしでかしたわけでもないのに、自分から犯罪臭が漂う気がしてきた。
「唯花ちゃんはこれから大きくなって、気持ちも成長していくと思う。出会いも増えるし、僕よりももっと好きになる男の子が現れるかもしれない」
「比呂さんよりも素敵な人なんかいないよっ!」
「ありがとうね。でもね、成長していくってことは気持ちも変わっていくんだ。段々大人になっていく。だから、そういうことはもう少し大人になってから考えてもいいんじゃないかな?」
女子小学生相手にキモいことを言っているかもしれない。
それでも唯花ちゃんは真剣だったから。
ちゃんと僕の考えを伝えたいと、そう思わされたのだ。
「そっか……わかった」
わかってくれたか。僕はほっと安堵する。
「それじゃあ大きくなって美人になったら、また比呂さんに告白するね♪」
「うぇっ!?」
前向きな唯花ちゃんに、僕は変な声を出してしまった。
「大丈夫。アタシ他の子より成長が早いから。すぐに比呂さんの身長に追いつくよ」
それは本当に実現しそうで怖い。城戸さんという姉がいるから、遺伝的に僕よりも背が伸びてもおかしくない。
「六……ううん、五年生になる頃には追いついてみせるよ。その時に成長したアタシを見て、また答えをちょうだいね♪」
唯花ちゃんは明るい未来を想像してか、にこりんぱっと満面の笑みを僕に向ける。
小学五年生って……二年後!? 早くない!?
順調にいけば、その頃の僕は大学生である。
高校生と小学生という組み合わせってだけでも危ういのに、大学生と小学生は完全にアウトだろう。本気で通報されやしないか心配だよ……。
「ははっ……唯花ちゃんの気持ちが変わらなければ、またその時に考えるよ」
曖昧なことを言ってしまう僕。
唯花ちゃんを傷つけられないとはいえ、僕の返事ってヘタレだったよなぁ……。
「というわけで、二年くらいは待ってあげるからねお姉ちゃん♪」
「ちょっ、ゆ、唯花っ!?」
城戸さんが顔を真っ赤にする。目の前で唯花ちゃんが僕に告白したものだから驚きすぎてしまったのだろう。姉は大変な立場である。
「それと松雪先輩……ううん、綾乃先輩」
「わ、私ですか?」
唯花ちゃんにいきなり名前呼びをされて驚いた様子の松雪さん。
「これで、アタシもライバルなんだからね」
「わ、私は……」
「やり方は人それぞれだろうけど、何もせずにする後悔が一番悔しいんだってさ。お母さんがそう言ってたよ」
「……っ」
松雪さんは言葉を詰まらせる。
ライバルって、ゲームの話かな? さっきもライバルだなんだって言っていたし。
唯花ちゃんはアドバイスをしているっぽいけど、レベルが違いすぎるせいか僕にはよくわからなかった。
「も、もうこんな時間っ」
城戸さんの声に反応して時計を確認すれば、そろそろ帰らないと外が暗くなる時間だった。
「あまり遅くなると悪いし。そろそろ僕たちは帰るよ」
「比呂さん」
ソファから立ち上がろうとすると、唯花ちゃんは僕の袖を引いて止める。
引っ張られて少し前屈みになってしまう。そんな僕に、唯花ちゃんが顔を近づけてきた。
「「うぇっ!?」」
チュッと、頬に柔らかい感触が押しつけられた。
松雪さんと城戸さんが変な声を漏らした。僕も事実の認識が遅れてしまい、呆けてしまう。
「え?」
「さっきアタシが一位だったから……ご褒美っ」
唯花ちゃんは照れ臭そうにはにかむ。
最近の小学生は本当にませている……。
もしかしたら僕は精神年齢で、とっくに唯花ちゃんに追いつかれているのかもしれなかった。
「比呂さん、綾乃先輩。また遊びに来てね♪」
唯花ちゃんに見送られながら、僕と松雪さんは城戸家を後にした。
「ゆ、ゆ、ゆ……唯花ーーっ!!」
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