僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

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84.特別な日だよ

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 ホテルのレストランなんて、僕の発想から出てくるはずがない。
 ここから先は隼人さんに頼っている。予約から支払いまで、全部を任せてしまっていた。

「お金のことは考えなくていいよ。俺、ちゃんと稼いでいるから。その代わり、綾乃を楽しませてあげて」

 と、隼人さんは言っていた。
 僕に頼ってまで、妹の誕生日を良いものにしたいのだろう。兄妹のいない僕には羨ましい関係だ。
 それに、金銭的にもありがたい。お小遣いを多めにもらったとはいえ、ここまででもそれなりに使っている。ディナーともなればけっこうな額になるだろう。

「~~っ!?!?!?!?」

 そんなわけで、僕は松雪さんを、隼人さんが予約しているホテルまでエスコートする。
 さすがにホテルなんて想像していなかったのだろう。松雪さんは口をパクパクさせながら、顔を真っ赤にして動揺しているようだったから。
 ふふっ、この時点でもサプライズが成功しているようですよ隼人さん。現地に着いたらどんな顔をするか……ちょっと楽しみだ。
 彼女の手を引くと、ほんの一瞬戸惑いを見せたけれど、ゆっくりと僕に寄りかかってきた。


  ◇ ◇ ◇


「え、レストランじゃないの?」
「はい。こちらのスイートルームのご予約を承っております」

 ホテルのフロントで、隼人さんが予約してくれたという部屋の鍵を受け取った。そこでディナーを用意してくれているとのことだ。
 想像以上に豪華なホテルだ。カジュアルな格好でいいとは言われていたけど……そういうことだったのか。
 確かに部屋ならレストラン以上に二人きりの空間だし、格好だって考えなくてもいい。隼人さんはそこまで考えてくれていたんだろうな。

「ほら松雪さん。スイートルームでディナーだよ。なんだか大人っぽくてすごいでしょ」

 とはいえ、隼人さんが関わっているのはまだ秘密だ。
 豪華なホテルにテンションが上がるかと思いきや、彼女は目をぐるぐる回していた。さすがの松雪さんも、こういう場所で食事する経験はないのかもしれない。
 だけど、それは僕も同じだ。
 正直かなりドキドキしているし、ここまで高級なホテルじゃなくてもよかったのにと隼人さんを恨みそうになる。

「じゃあ、行こうか」
「っ」

 それでも、僕よりも緊張した様子の松雪さんを見ていると、しっかりしなければという気持ちになるのだ。
 フロントの人に案内されて、最上階まで直通のエレベーターに乗った。
 エレベーターがぐんぐんと上昇していく。ガラス張りの壁越しに、きらびやかな街の夜景が広がっていく。

「すごい……」

 まだ部屋に着いてもいないのに、この夜景だけでも来た甲斐があったと思った。

「ねえ松雪さん。見て見て、すごい夜景だよ」

 この気持ちを共有したくて、彼女に声をかける。

「……っ」

 だけど、松雪さんはこくこくと頷くだけでとくに感想を口にすることはなかった。
 というか、ここに来るまでの道中含めて、一言もしゃべってはいない。
 顔を真っ赤にしたまま、僕の横にぴったりとくっついている。
 もう誰もいない空間なのに……。初めての場所で緊張がピークに達しているのかな?
 夜景を眺めていたら、目的の最上階に到着した。
 動きが鈍い松雪さんの手を引いて、エレベーターを降りる。そのまま、予約しているスイートルームに向かった。

「え……?」

 スイートルームのドアを開けると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
 フロアランプの温かな明かりと、キャンドルライトが点々と並ぶ演出。そして、部屋の中央にはテーブルにセットされたディナーのコース。
 とにかくおしゃれだ。もう僕の語彙力では足りないのはわかっている。でも言わせてほしい。ものすごくおしゃれ!
 それは松雪さんも同じ気持ちなのかもしれない。黙ったままだけど、なんだか喜んでいるのがこれでもかと伝わってくるから。

「松雪さん、誕生日おめでとう!」

 精一杯の気持ちを込めて、お祝いの言葉を口にした。

「……知って、いたのですか?」

 彼女の震える声に、僕は「うん」と頷いた。

「まあ、隼人さんから聞いたんだけどね。ここを予約してくれたのも隼人さんだし」
「お兄ちゃん……」
「あっ、でも僕もちゃんと考えたんだよ。ケーキ作ったし……プ、プレゼントだって、用意したし……」

 俯く彼女の目元が、ほんのり潤んでいる気がした。

「比呂くんったら……もうっ……」

 松雪さんの言葉に、いつもの勢いはなくて。
 ただ、その震えた声からは喜びが溢れているように感じられた。

「今日は特別な日だよ。クリスマスイブだからじゃない。松雪さんの誕生日だから特別で、僕はお祝いしたかったんだ」

 だからこそ、僕は素直な気持ちを伝える。

「そんなこと、言われたの……初めて、です……」

 松雪さんは目元を拭って──
 そして、とても可愛らしくて……松雪さんらしい笑顔を浮かべてくれたのだ。

「っ」

 その笑顔は、今日見たどんなイルミネーションよりも眩しくて、目を細めずにはいられなかった。
 僕は小さく咳払いをしてから言った。

「それじゃあ、松雪さんの誕生日パーティーを始めようか」
「はい。盛り上がっていきますよ、比呂くん」

 こうして、本当の意味で松雪さんの誕生日会が始まったのだった。
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