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しおりを挟むこの大陸は、数百年ぶりに魔王が復活したことにより凍土に覆われた。
《冬夜の大地》と呼ばれる、呪われた地だ。
狭い海峡だけが最後の砦となってしまった《春華の大地》の人々は、魔王の手が伸びるのを恐れて少数精鋭の魔王討伐パーティーを送り込んだのだった。
オールラウンダーの勇者。
前衛の騎士。
中衛の魔剣士。
後衛の魔術師と弓使い。
斥候の狩人。
治癒と回復の神官と聖女。
どの役の人物も、超一流。
しかし、聖女だけは――違った。
「聖女様、お風邪を召してしまいます。早くテントに戻って暖を取ってください」
「平気ですよぉ、子供じゃないんですから。それに私には、皆さんの食事を作るという重大な使命があるのです。テントに逃げ込んではダメなのです~」
無駄に深刻そうな神官の声に、呑気極まりない聖女の声。
最近の他のパーティーメンバーは、このやり取りを聞くとイラっとするようになっていた。
吹雪があまり入り込まない崖の陰を見つけて、野営の準備をしている最中。他のメンバーは雪をかき、薪や水を手配し、保存食を残すために狩りに出る。
けれど神官と聖女は、自分たちのテントは設営するものの、ろくな労働力にならない。
神官のクリスは聖女の世話ばかり焼きたがるし、聖女は他のメンバーの仕事を手伝いたがるが、ほぼ確実に失敗して足を引っ張ってくれるので、大人しくしてもらっていたほうがマシな程度だ。
現に今も、料理をすると称してたき火の上に鍋をひっくり返した。せっかく集めた薪が水浸し。苦労して集めてきた騎士のダリルと弓使いのシンディがガクリと膝をついた。
「ちょっと聖女! 手出ししないでくれる? 火を点けるの私なんだから。こんな程度のことで魔力を使わせないでよね?」
魔術師チェルシーは怒り心頭だ。高位魔術師としてプライドが高いから、たき火の火付けなどという小さなことに魔力を割かれるのが我慢ならないのだ。
「んもうっ、寒いしサイテー!」
「ご、ごめんなさい! 私でも空気を暖かくすることは出来るので、お詫びにやります!」
「聖女様……!」
神官クリスが止める間もなく、聖女は祈りのために手を合わせる。たちまち崖の下は春のような暖かさに包まれた。
「わあ……暖かい。さすが聖女様って感じね」
シンディがホッと顔を緩める。ピリピリしかけた空気が、ぬくもりと共に和らいでいく。
しかし。
「ああ! 聖女様!?」
クリスが悲鳴を上げた。聖女がばったりと倒れたからだ。
「あーもう、信じらんない!」
チェルシーは頭をぐしゃぐしゃとかきむしった。
真っ青な顔をして倒れる聖女。魔力切れを起こしたせいだ。
「おい、何騒いでいるんだ?」
勇者アルヴィンと魔剣士ブラッドがそれぞれ兎を手に下げて戻ってきた。騎士ダリルが情けない顔で振り向いた。
「聖女様が魔力切れで倒れました……」
「おいおい、マジかよー?」
ブラッドは大げさに驚き、アルヴィンは舌打ちする。
「またか。本当に役に立たない聖女だな……!」
二人の後から戻ってきた狩人ヒューゴは、黙ったまま獲物の山鳥の羽をむしっていたが、その聖女に向けられた眼差しは冷ややかだ。
そもそもメンバーは聖女の名前を知らない。さすがに神官は知っているだろうが、彼ですら聖女を名前で呼ばない。最初は不思議だったし不快だったが、もう彼女の名前を聞く気も失せている。
他のメンバーが冷たい視線を送る中、クリスだけは優しく聖女をテントに運び込み、介抱していた。
野営の時だけでなく、大抵こんな流れになるのだった。
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