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3:セドリックは魔法陣に乗っ取られている!
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魔術師団長の息子セドリックも、ダグラスと同じシチュエーションの場所に転移させられていた。
しかしセドリックの魔力量は学園でもトップクラス。転移魔術はまだ使えないが、飛行魔術は得意だ。スライム入り泥水プールより少し上に体を浮かせて飛び、さっさと細工された廊下を通り抜けていく。
「ふん……この程度の罠で、僕がどうかなるわけないじゃないか。性格悪い上に愚かとは救いがたいな」
セドリックは童顔に嘲笑を浮かべる。
セドリックは馬鹿が嫌いだ。
男にしては低い自分の背丈のことを、わざわざからかいにくるような愚か者なんか特に。
背が低くて女顔だから何だというんだ。そういうお前らに、どんな価値があるというのだ?
イライラしていたある日、グチャグチャ言ってくる奴らに軽く電気ショックを与えてやった。効果は抜群だ!
この程度の攻撃すら対処できないなんて、やはり奴らは馬鹿者だ。
婚約者であり、口うるさくて生意気な後輩クレアは攻撃魔法を他人に向けるなんて最低だと喚いていたが、無視した。自分より魔力量も少ないくせに、ありとあらゆる魔術の単位を取りまくっていて嫌味な女。しかも自分より背が高い。本当に腹立たしい。一度頭にきて、実習中に水魔法でびしょぬれにしてやったことがある。あれは楽しかった。
ある日、アレクシス王子に呼び出された。馬鹿どもを倒した魔術に興味があるという。
あの電気ショックの件は、防御用のオリジナル魔法陣を銀板に刻み込んだ刻印魔術の試用でもあったので、それを伝えたら一人の女子学園生と引き合わされた。それがフローラだった。
フローラはアレクシス王子らと仲が良いから、それを妬んだ愚か者が嫌がらせをしてくるのに悩んでいるのだという。その守りとしてあの刻印魔術が一番妥当なのだとアレクシス王子は説明した。フローラ自身は聖女だから他人を攻撃するような魔術が使えないという。
可哀想に。フローラという清純な少女は、自分と同じなのだ。セドリックは強く共感し、彼女を護る魔術を刻んだアクセサリーを多く提供するようになった。
優しいフローラ、健気なフローラ。聖女に認定されるにふさわしい、泥の中で美しく咲く蓮の花のようなフローラ。彼女は王子の恋人だけれど、セドリックも惹かれていくのを止められなかった。彼女を護るためならば、何でもしよう。その力が自分にはある、と思っていた。
「それなのに……、あの性悪女めっ!」
自分がこうして一人でいるということは、フローラや王子たちもバラバラに転移させられているに違いない。フローラを一人にして酷い目に合わせるために。なんて性格の悪い仕掛けなのだ。
廊下の突き当りは、ただの石の壁だ。その代わり、天井がなくなっていて、井戸のような縦の穴が上に伸びている。側面には登るのに丁度いい石の出っ張りがあるが、それに触れたらどうにかなる罠が仕掛けられていることだろう。
「ふん。僕の魔力量をなめては困るな」
セドリックは縦穴に沿って飛翔する。
すると、側面の出っ張った石が光りだした。
大した光量ではない。淡い光が石の表面に複雑な図形を描き出す。
「っ!」
セドリックの体が横に吹き飛ばされた。
「がはっ、あっ……」
縦穴の壁面に叩きつけられ、セドリックの喉から呻きが漏れる。
集中力が途切れたせいで、飛行魔術が消えてしまった。このままではスライム入り泥水に真っ逆さまだ。
「ま、まずいっ……」
焦れば焦るほど、魔術を構築できない。しばし暴れて――そして気づいた。
自分は落ちていない。それどころか、ズルズルと何かの力に引きずりあげられている。
背中を壁面に擦られながらも引きずられる先に目をやる。そこにはまたもや淡く光る石があった。
よくよく見れば、それは石に刻まれた刻印魔術だった。しかしその魔法陣にしてはシンプルだが力を感じさせる形に見覚えはない。
「――そ、それは、『引き寄せ』、だよ」
上方から声が降ってきた。
縦穴の最上部の壁面に、膝をかかえて座っている男子学園生がいた。立てた膝に顔半分を埋めて隠しているが、セドリックには彼が誰だかすぐにわかった。
「オーガスタス、きみは――」
「さ、最初のは、『捻じ曲げ』。ど、どうだい? せ、セドリックくんには、見たことないものばかり、だよね……」
「っ、どういう意味だよ!?」
セドリックは、体内魔力を放出させて、強引に『引き寄せ』の刻印魔術を破った。
ぼさぼさの髪、ガリガリの小さな体。オーガスタスはセドリックの級友だ。そして、共に刻印魔術を学んだ相手である。
オーガスタスは少しだけ顔を上げて、やけに甲高い笑い声をたてた。
「だってだって、これはぜーんぶ、ボクの新作、だから! ま、まだセドリックくんに、教えてない、やつだから!」
「う、うるさいっ!」
「『反転』、だよ」
「うわぁっ!」
新たな刻印魔術が発動し、セドリックはあえなく落下する。そしてその先には、スライム入り泥水プール。
「ぶはっ、ぺっ! おえっ!」
顔からプールに落ちたセドリックは、泥に咽ながらももう一度飛び上がろうと魔術を構築しようとする。
しかし、今度は術自体が発動しない。
「え? どういうこと――」
そこで初めて気が付いた。プールに魔法陣が浮かび上がっていることに。
オーガスタスの笑い声がまた響く。
「ひひっ! 底に、あらかじめ、刻んでおいたよ! 『無効』を、ね!」
「え……あ、ちょっと……ご、ごめん……! お前のオリジナル盗ってごめんっ! だって、仕方がなかったんだ! そ、その……」
「は、走れば、いいよ……」
「……っ、くそっ」
スライムがじわじわ集まり這い上ってくる。このままでは校内ストリッパーになってしまう。
半泣きになりながら、セドリックは走り出した。
ぬかるみに足を取られ、無様に倒れる。ますます泥で汚れ、服は溶けていく。
「あ……ああ……ど、どうしよう――」
全身がガタガタ震え、もう走ることも出来ない。
絶望に目の前が真っ暗になった時だった。目の前に人影が立った。
「え? く、クレア!?」
プールのふちに立つ背の高い婚約者は、何かを堪えるような赤い顔をしていた。瞳を潤ませ、しばし唇をムズムズさせていたクレアは、セドリックに手をそっと差し伸べてきた。
「さあ、お手をどうぞ? 可愛い可愛い私のお姫様」
「はあ!? 僕を姫なんて呼ぶな!」
「いえ? どう見ても姫ですよ。びしょぬれ半裸で涙目になっている姿なんて特に。私が水浸しになった時よりずっとお似合いです。そのままずっとプルプル震えていてくださいね?」
私の可愛い婚約者様――と、クレアが満面の笑みを浮かべる。狂おしい光をその青い瞳に宿しながら。
どうやら婚約者クレアはただ生意気なだけでなく、加虐趣味のあるドS婚約者だったらしい。
逃げられないことを本能的に悟って、セドリックは絶望した。
しかしセドリックの魔力量は学園でもトップクラス。転移魔術はまだ使えないが、飛行魔術は得意だ。スライム入り泥水プールより少し上に体を浮かせて飛び、さっさと細工された廊下を通り抜けていく。
「ふん……この程度の罠で、僕がどうかなるわけないじゃないか。性格悪い上に愚かとは救いがたいな」
セドリックは童顔に嘲笑を浮かべる。
セドリックは馬鹿が嫌いだ。
男にしては低い自分の背丈のことを、わざわざからかいにくるような愚か者なんか特に。
背が低くて女顔だから何だというんだ。そういうお前らに、どんな価値があるというのだ?
イライラしていたある日、グチャグチャ言ってくる奴らに軽く電気ショックを与えてやった。効果は抜群だ!
この程度の攻撃すら対処できないなんて、やはり奴らは馬鹿者だ。
婚約者であり、口うるさくて生意気な後輩クレアは攻撃魔法を他人に向けるなんて最低だと喚いていたが、無視した。自分より魔力量も少ないくせに、ありとあらゆる魔術の単位を取りまくっていて嫌味な女。しかも自分より背が高い。本当に腹立たしい。一度頭にきて、実習中に水魔法でびしょぬれにしてやったことがある。あれは楽しかった。
ある日、アレクシス王子に呼び出された。馬鹿どもを倒した魔術に興味があるという。
あの電気ショックの件は、防御用のオリジナル魔法陣を銀板に刻み込んだ刻印魔術の試用でもあったので、それを伝えたら一人の女子学園生と引き合わされた。それがフローラだった。
フローラはアレクシス王子らと仲が良いから、それを妬んだ愚か者が嫌がらせをしてくるのに悩んでいるのだという。その守りとしてあの刻印魔術が一番妥当なのだとアレクシス王子は説明した。フローラ自身は聖女だから他人を攻撃するような魔術が使えないという。
可哀想に。フローラという清純な少女は、自分と同じなのだ。セドリックは強く共感し、彼女を護る魔術を刻んだアクセサリーを多く提供するようになった。
優しいフローラ、健気なフローラ。聖女に認定されるにふさわしい、泥の中で美しく咲く蓮の花のようなフローラ。彼女は王子の恋人だけれど、セドリックも惹かれていくのを止められなかった。彼女を護るためならば、何でもしよう。その力が自分にはある、と思っていた。
「それなのに……、あの性悪女めっ!」
自分がこうして一人でいるということは、フローラや王子たちもバラバラに転移させられているに違いない。フローラを一人にして酷い目に合わせるために。なんて性格の悪い仕掛けなのだ。
廊下の突き当りは、ただの石の壁だ。その代わり、天井がなくなっていて、井戸のような縦の穴が上に伸びている。側面には登るのに丁度いい石の出っ張りがあるが、それに触れたらどうにかなる罠が仕掛けられていることだろう。
「ふん。僕の魔力量をなめては困るな」
セドリックは縦穴に沿って飛翔する。
すると、側面の出っ張った石が光りだした。
大した光量ではない。淡い光が石の表面に複雑な図形を描き出す。
「っ!」
セドリックの体が横に吹き飛ばされた。
「がはっ、あっ……」
縦穴の壁面に叩きつけられ、セドリックの喉から呻きが漏れる。
集中力が途切れたせいで、飛行魔術が消えてしまった。このままではスライム入り泥水に真っ逆さまだ。
「ま、まずいっ……」
焦れば焦るほど、魔術を構築できない。しばし暴れて――そして気づいた。
自分は落ちていない。それどころか、ズルズルと何かの力に引きずりあげられている。
背中を壁面に擦られながらも引きずられる先に目をやる。そこにはまたもや淡く光る石があった。
よくよく見れば、それは石に刻まれた刻印魔術だった。しかしその魔法陣にしてはシンプルだが力を感じさせる形に見覚えはない。
「――そ、それは、『引き寄せ』、だよ」
上方から声が降ってきた。
縦穴の最上部の壁面に、膝をかかえて座っている男子学園生がいた。立てた膝に顔半分を埋めて隠しているが、セドリックには彼が誰だかすぐにわかった。
「オーガスタス、きみは――」
「さ、最初のは、『捻じ曲げ』。ど、どうだい? せ、セドリックくんには、見たことないものばかり、だよね……」
「っ、どういう意味だよ!?」
セドリックは、体内魔力を放出させて、強引に『引き寄せ』の刻印魔術を破った。
ぼさぼさの髪、ガリガリの小さな体。オーガスタスはセドリックの級友だ。そして、共に刻印魔術を学んだ相手である。
オーガスタスは少しだけ顔を上げて、やけに甲高い笑い声をたてた。
「だってだって、これはぜーんぶ、ボクの新作、だから! ま、まだセドリックくんに、教えてない、やつだから!」
「う、うるさいっ!」
「『反転』、だよ」
「うわぁっ!」
新たな刻印魔術が発動し、セドリックはあえなく落下する。そしてその先には、スライム入り泥水プール。
「ぶはっ、ぺっ! おえっ!」
顔からプールに落ちたセドリックは、泥に咽ながらももう一度飛び上がろうと魔術を構築しようとする。
しかし、今度は術自体が発動しない。
「え? どういうこと――」
そこで初めて気が付いた。プールに魔法陣が浮かび上がっていることに。
オーガスタスの笑い声がまた響く。
「ひひっ! 底に、あらかじめ、刻んでおいたよ! 『無効』を、ね!」
「え……あ、ちょっと……ご、ごめん……! お前のオリジナル盗ってごめんっ! だって、仕方がなかったんだ! そ、その……」
「は、走れば、いいよ……」
「……っ、くそっ」
スライムがじわじわ集まり這い上ってくる。このままでは校内ストリッパーになってしまう。
半泣きになりながら、セドリックは走り出した。
ぬかるみに足を取られ、無様に倒れる。ますます泥で汚れ、服は溶けていく。
「あ……ああ……ど、どうしよう――」
全身がガタガタ震え、もう走ることも出来ない。
絶望に目の前が真っ暗になった時だった。目の前に人影が立った。
「え? く、クレア!?」
プールのふちに立つ背の高い婚約者は、何かを堪えるような赤い顔をしていた。瞳を潤ませ、しばし唇をムズムズさせていたクレアは、セドリックに手をそっと差し伸べてきた。
「さあ、お手をどうぞ? 可愛い可愛い私のお姫様」
「はあ!? 僕を姫なんて呼ぶな!」
「いえ? どう見ても姫ですよ。びしょぬれ半裸で涙目になっている姿なんて特に。私が水浸しになった時よりずっとお似合いです。そのままずっとプルプル震えていてくださいね?」
私の可愛い婚約者様――と、クレアが満面の笑みを浮かべる。狂おしい光をその青い瞳に宿しながら。
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