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8:銀幕はヒロインに乗っ取られている!
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「あちゃ~、さすがに笑えないか……」
スルメをかじりながら、ユーフェミアは肩をすくめる。
貴族どころか下町の飲み屋で管を巻くオッサンのようなこのユーフェミアの有様は、このイベントを企画するにあたって様々な階級のエンタテインメントを調査していたら、下町の面白さにはまってしまったせいだ。ちなみに父親である侯爵には、ストレス過多のせいでこうなったと偽の診断書付きで報告してある。
「もうちょっとセットを捻ればよかったかな。でもさすがに無理だったし。それに生徒会は役員のみならず顧問までやらかしていたからね~後始末が大変だった……」
「まことにっ! まことに申し訳なくっ!」
げっそりと嘆くユーフェミアの足元では、ワーナー教師が土下座をしていた。もともとは口ひげもダンディなイケオジ先生だったのだが、今回のやらかしで心身ともにボロボロになっている。
緑茶をすすりながら、ユーフェミアは冷めた眼差しを教師に向ける。
「わたくしに謝罪しても意味がありませんのよ、先生? 第一王子との癒着と不正ですから、釈明したければ貴族院か国王陛下になさってくださいませ」
緑茶で口をすっきりさせて、今度はせんべいに手を伸ばす。侯爵家ではこれをバリバリかじれないので、この場で食いだめしたいユーフェミアだ。
口調だけ令嬢に戻しても、台無しである。
「あ、あとはソローン先生にも謝りませんとね。だいぶご迷惑をおかけしましたよね?」
「は、はいー!」
ははーと平伏する姿が、やけに似合うようになってしまったワーナー先生だ。
そこへソローンと呼ばれるワイルド系教師が、ここ一か月で定着してしまった渋面を隠さずやってきた。
「副会長が着服していた金の回収が終わったぞ。イザベル嬢が当たりをつけてくれていたから助かった」
「迅速な対応、有難うございます。ソローン先生」
「ちなみに俺の名前はメローン、な」
「あらまあ」
そんなことを言っているうちに、スクリーンはフローラを映し出していた。
フローラに対しては、普通のセットは一切使っていない。
全ては彼女の深層心理を利用した幻影を可視化したものだ。言わばフローラは、己の願望を具現化した夢の中をさまよっているようなものだ。
それを全員で見て、講堂内が凍り付いた。
「な、なんなんだ彼女は……。ただの男好きなんて可愛いものじゃないぞ……」
「あれで悪気が全く見当たらないのがコワイ……本当に恐ろしい……」
「あれ、本当に聖女様? サイコパス様じゃなくて?」
学園生すべてが震えるなか、スクリーンに映し出されたフローラの姿はティールームの扉を開ける。
いよいよアレクシス王子の胸に飛び込むのかとハラハラドキドキ、ついでに横目でユーフェミアの様子をうかがいながら、学園生たちは固唾をのんで成り行きを見守る。
銀幕の中で、フローラが満面の笑みを浮かべる。頬を染め、愛した人に向ける最高の笑顔で、現れた最愛の男性に向かって走り出す。手にしていたポットは、部屋から出た瞬間投げ捨てられていた。
『お養父さまぁ! すっごく会いたかったぁ!』
……え?
学園生たちの心の声が一つになった瞬間だった。
フローラの前に現れたのは、彼女の養父であるギョッフーリ男爵だ。
養女だが最愛の娘に抱き着かれて、至福のひと時を噛みしめている。
『そんなに甘えて、どうしたんだい? 可愛いフローラ』
『寂しかったの。やっぱりお養父さまが一番大好きなんだもん。もう帰りたい! 学園って怖いことばっかりで嫌!』
『そうかそうか、ごめんなぁ。パパのところに帰ろうかぁ。鬼嫁はもう実家に戻ったから、二人だけだよ?』
『やったあ! ありがとうお養父さまぁ!』
「え……と、そうか、ギョッフーリ男爵とは血がつながってないんだっけ」
ユーフェミアがせんべいを持ったまま呟く。
静寂の中、その声はやけに響いた。
学園生たちは互いに顔を見合わせる。
「そうか。ギョッフーリ男爵……」
「ぎょっふーり……」
「漁夫の利?」
学園生たちは脱力し、一斉にテーブルに倒れ伏した。
「あははは……なんか凄いわね、彼女」
ユーフェミアも力なく笑うしかない。こんなふざけた欲望だけの彼女に、随分と振り回されてしまった。
「私たちも、もっと話し合えば良かったのね。王子と私だけでは冷静になれないだろうから、国王陛下とは距離のある大人でも挟んで」
そんなセッティングをしたとしても、アレクシス王子は逃げ出していたかもしれない。だが、逃亡しようとしたらちょっとした石でもぶつければ足止め出来ただろう。多少の怪我は免れないが、学園や王宮には治癒術師がいるから大丈夫だ。もしくは治癒魔法を仕込んだ魔石を持っていれば、ユーフェミアだって多少の怪我ならば治せる。ならば話し合いの前に少々ボコらせてもらってから……
「はっ、さすがに不敬罪」
ユーフェミアは妄想を中断した。
もっとも、この上映会だって充分に不敬罪に相当するだろうけれど。
「陛下に揉み消されるよりマシだわ」
父親である国王は、なんだかんだで息子に甘い。だからあんな甘ったれた王子になるのだ。
「さて、私はどんな処分をされるかしら?」
スルメをかじりながら、ユーフェミアは肩をすくめる。
貴族どころか下町の飲み屋で管を巻くオッサンのようなこのユーフェミアの有様は、このイベントを企画するにあたって様々な階級のエンタテインメントを調査していたら、下町の面白さにはまってしまったせいだ。ちなみに父親である侯爵には、ストレス過多のせいでこうなったと偽の診断書付きで報告してある。
「もうちょっとセットを捻ればよかったかな。でもさすがに無理だったし。それに生徒会は役員のみならず顧問までやらかしていたからね~後始末が大変だった……」
「まことにっ! まことに申し訳なくっ!」
げっそりと嘆くユーフェミアの足元では、ワーナー教師が土下座をしていた。もともとは口ひげもダンディなイケオジ先生だったのだが、今回のやらかしで心身ともにボロボロになっている。
緑茶をすすりながら、ユーフェミアは冷めた眼差しを教師に向ける。
「わたくしに謝罪しても意味がありませんのよ、先生? 第一王子との癒着と不正ですから、釈明したければ貴族院か国王陛下になさってくださいませ」
緑茶で口をすっきりさせて、今度はせんべいに手を伸ばす。侯爵家ではこれをバリバリかじれないので、この場で食いだめしたいユーフェミアだ。
口調だけ令嬢に戻しても、台無しである。
「あ、あとはソローン先生にも謝りませんとね。だいぶご迷惑をおかけしましたよね?」
「は、はいー!」
ははーと平伏する姿が、やけに似合うようになってしまったワーナー先生だ。
そこへソローンと呼ばれるワイルド系教師が、ここ一か月で定着してしまった渋面を隠さずやってきた。
「副会長が着服していた金の回収が終わったぞ。イザベル嬢が当たりをつけてくれていたから助かった」
「迅速な対応、有難うございます。ソローン先生」
「ちなみに俺の名前はメローン、な」
「あらまあ」
そんなことを言っているうちに、スクリーンはフローラを映し出していた。
フローラに対しては、普通のセットは一切使っていない。
全ては彼女の深層心理を利用した幻影を可視化したものだ。言わばフローラは、己の願望を具現化した夢の中をさまよっているようなものだ。
それを全員で見て、講堂内が凍り付いた。
「な、なんなんだ彼女は……。ただの男好きなんて可愛いものじゃないぞ……」
「あれで悪気が全く見当たらないのがコワイ……本当に恐ろしい……」
「あれ、本当に聖女様? サイコパス様じゃなくて?」
学園生すべてが震えるなか、スクリーンに映し出されたフローラの姿はティールームの扉を開ける。
いよいよアレクシス王子の胸に飛び込むのかとハラハラドキドキ、ついでに横目でユーフェミアの様子をうかがいながら、学園生たちは固唾をのんで成り行きを見守る。
銀幕の中で、フローラが満面の笑みを浮かべる。頬を染め、愛した人に向ける最高の笑顔で、現れた最愛の男性に向かって走り出す。手にしていたポットは、部屋から出た瞬間投げ捨てられていた。
『お養父さまぁ! すっごく会いたかったぁ!』
……え?
学園生たちの心の声が一つになった瞬間だった。
フローラの前に現れたのは、彼女の養父であるギョッフーリ男爵だ。
養女だが最愛の娘に抱き着かれて、至福のひと時を噛みしめている。
『そんなに甘えて、どうしたんだい? 可愛いフローラ』
『寂しかったの。やっぱりお養父さまが一番大好きなんだもん。もう帰りたい! 学園って怖いことばっかりで嫌!』
『そうかそうか、ごめんなぁ。パパのところに帰ろうかぁ。鬼嫁はもう実家に戻ったから、二人だけだよ?』
『やったあ! ありがとうお養父さまぁ!』
「え……と、そうか、ギョッフーリ男爵とは血がつながってないんだっけ」
ユーフェミアがせんべいを持ったまま呟く。
静寂の中、その声はやけに響いた。
学園生たちは互いに顔を見合わせる。
「そうか。ギョッフーリ男爵……」
「ぎょっふーり……」
「漁夫の利?」
学園生たちは脱力し、一斉にテーブルに倒れ伏した。
「あははは……なんか凄いわね、彼女」
ユーフェミアも力なく笑うしかない。こんなふざけた欲望だけの彼女に、随分と振り回されてしまった。
「私たちも、もっと話し合えば良かったのね。王子と私だけでは冷静になれないだろうから、国王陛下とは距離のある大人でも挟んで」
そんなセッティングをしたとしても、アレクシス王子は逃げ出していたかもしれない。だが、逃亡しようとしたらちょっとした石でもぶつければ足止め出来ただろう。多少の怪我は免れないが、学園や王宮には治癒術師がいるから大丈夫だ。もしくは治癒魔法を仕込んだ魔石を持っていれば、ユーフェミアだって多少の怪我ならば治せる。ならば話し合いの前に少々ボコらせてもらってから……
「はっ、さすがに不敬罪」
ユーフェミアは妄想を中断した。
もっとも、この上映会だって充分に不敬罪に相当するだろうけれど。
「陛下に揉み消されるよりマシだわ」
父親である国王は、なんだかんだで息子に甘い。だからあんな甘ったれた王子になるのだ。
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