8 / 13
8 アベールの本音
しおりを挟むお母様は私に手紙を差し出してきた。
「アベール公爵令息からよ」
私は手紙を開封する。そこには彼の懺悔が書かれていた。
「ガーネット、すまなかった。愛しい君と会えなくなり辛い日々を送っている。何度も君が行きそうな店に行ったり、伯爵の屋敷にも足を運んだがいつも誰かに邪魔をされて君に会えないんだ。俺らの愛を邪魔するなんて許せないと思わないか?だからガーネットが俺に会いに来てくれないか。十二月二十四日十時に君の好きなカフェmarvelで待っている」
手紙を読み終えると、ガーネットは恐怖に震えた。
「コイツ気持ち悪いわよね」
「え?」
お母様が、コイツだなんて……。私は聞き間違えかと思い目をぱちくりさせた。
「実はね、ガーネットに渡さなかっただけで手紙は毎日来てたのよ。最初はね「お前がどうしてもって言うならまた婚約してやる!」ていう最低な内容だったのだけれど、ガーネットに会えなくなるに連れて段々と気持ち悪い内容に……」
「そう、ですか。さっきアベール様の恋人、マリア様とお会いしたのですが彼女も気味の悪いよく分からないことを仰ってましたわ」
「それも聞いていたわ。あ、そうだわ。これね」
お母様は私にもう一通手紙を差し出す。私はそれを受け取り恐る恐る開封する。
今度はどんな気持ち悪い内容なのかしら。覚悟を決めて読む。
「ガーネット、マリアのことで怒ってるんだよな?お前が気にすることはない。アイツは偽の恋人だ。アイツはフィリップという婚約者を振り向かせたい、俺はお前から嫉妬されたい。互いの意見が一致したから一緒に過ごしていただけだ。俺はお前が縋り付いてくると思っていたんだがお前のプライドが邪魔したか。心配するな、俺が結婚するのはお前だけだ」
……気持ち悪いわ。
私は真っ青な顔でお母様を見る。母は心配そうに私を見ていた。
「ごめんねガーネット、気持ち悪いものを見せてしまって。この手紙を見せたのはアベールが何かしてくるかもしれないからあなたに気をつけてほしいと思って。今は護衛の騎士も増やしてるし、あなたに近寄らせないよう徹底してるけど、人間危機が迫ると何をするか分からないからね」
「分かりましたわ。気をつけます」
こくこく、と私は必死に頷く。
「アベールは廃嫡になるわ。公爵と公爵夫人が決めたの」
「えっ」
「後継は弟になるそうよ」
「平民になるのですか?」
「そうよ。王妃殿下に相談したところ、平民になってもガーネットに危害を与えそうだから隣国の平民にするそうよ」
「そ、それは国外追放では……。アベール様は納得しているのですか?」
「してないから問題なのよねぇ。一応隣国との手続きが終わるまで屋敷に閉じ込めてはいるらしいんだけど。アベールってまだ何かしでかしそうよね?手紙だって公爵が止めてるはずなのに何故か届くのだもの」
「そ、そうですか……」
情報が一気に押し寄せてきて私は少し混乱すると同時に驚いた。
公爵夫人はアベールをとても可愛がっていたのに国外追放だなんて。お母様は王妃殿下と学生からの親友だから何か言ったのかしら。
お母様をちらっと見ると、にこりと笑った。あ、なんか言ったみたいねコレは。
「マリア令嬢は、修道院行きかしらねぇ」
「……二人は愛し合ってると思っていましたが」
「う~ん……そうねぇ……」
お母様は悩むように頷いた。私に何かを言おうとしたけど言わない方がいいと判断したのかもしれない。
「ごめんね、あんなクズを婚約者にしてしまって。夫はまだ高位貴族に嫁がせたいみたいだけど、今度の婚約者はあなたが選びなさい」
「私が決めていいのですか?」
「もちろんよ。あなたの人生だもの」
お母様の言葉に、私は心が軽くなった。
私が決めていい。
そう思ったら、フィリップ様の顔が浮かび、頬が熱くなる。
「あらぁ~もう決まっているのかしら?」
お母様は全てお見通し。というように、にこりと微笑んだ。
46
あなたにおすすめの小説
あなたを愛する心は珠の中
れもんぴーる
恋愛
侯爵令嬢のアリエルは仲の良い婚約者セドリックと、両親と幸せに暮らしていたが、父の事故死をきっかけに次々と不幸に見舞われる。
母は行方不明、侯爵家は叔父が継承し、セドリックまで留学生と仲良くし、学院の中でも四面楚歌。
アリエルの味方は侍従兼護衛のクロウだけになってしまった。
傷ついた心を癒すために、神秘の国ドラゴナ神国に行くが、そこでアリエルはシャルルという王族に出会い、衝撃の事実を知る。
ドラゴナ神国王家の一族と判明したアリエルだったが、ある事件がきっかけでアリエルのセドリックを想う気持ちは、珠の中に封じ込められた。
記憶を失ったアリエルに縋りつくセドリックだが、アリエルは婚約解消を望む。
アリエルを襲った様々な不幸は偶然なのか?アリエルを大切に思うシャルルとクロウが動き出す。
アリエルは珠に封じられた恋心を忘れたまま新しい恋に向かうのか。それとも恋心を取り戻すのか。
*なろう様、カクヨム様にも投稿を予定しております
それが全てです 〜口は災の元〜
一 千之助
恋愛
主人公のモールドレにはヘンドリクセンという美貌の婚約者がいた。
男女の機微に疎く、誰かれ構わず優しくしてしまう彼に懸想する女性は数しれず。そしてその反動で、モールドレは敵対視する女性らから陰湿なイジメを受けていた。
ヘンドリクセンに相談するも虚しく、彼はモールドレの誤解だと軽く受け流し、彼女の言葉を取り合ってくれない。
……もう、お前みたいな婚約者、要らんわぁぁーっ!
ブチ切れしたモールドと大慌てするヘンドリクセンが別れ、その後、反省するお話。
☆自業自得はありますが、ざまあは皆無です。
☆計算出来ない男と、計算高い女の後日談つき。
☆最終的に茶番です。ちょいとツンデレ風味あります。
上記をふまえた上で、良いよと言う方は御笑覧ください♪
その結婚、承服致しかねます
チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。
理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。
グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。
誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。
アイラの未来は、フィルの気持ちは…
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。
BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。
ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。
けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。
まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。
私は人形ではありません
藍田ひびき
恋愛
伯爵令嬢アリシアには誰にも逆らわず、自分の意志を示さない。そのあまりにも大人しい様子から”人形姫”と揶揄され、頭の弱い令嬢と思われていた。
そんな彼女はダンスパーティの場でクライヴ・アシュリー侯爵令息から婚約破棄を告げられる。人形姫のことだ、大人しく従うだろう――そんな予想を裏切るように、彼女は告げる。「その婚約破棄、お受けすることはできません」
※なろうにも投稿しています。
※ 3/7 誤字修正しました。
エデルガルトの幸せ
よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。
学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。
彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。
全5話。
この恋を忘れたとしても
喜楽直人
恋愛
卒業式の前日。寮の部屋を片付けていた私は、作り付けの机の引き出しの奥に見覚えのない小箱を見つける。
ベルベットのその小箱の中には綺麗な紅玉石のペンダントが入っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる