異世界に転移した落ちこぼれ、壊れた右腕で世界を救う!?

夜月 照

文字の大きさ
10 / 35
1章 異世界転移編

10話 はじめての戦い

しおりを挟む
 ショウトは今、猛烈に混乱していた。
 なぜなら、目の前には見たこともない獣、……、草原ウルフと対峙していたからだ。


「グルルルゥゥゥ……」


 そんなショウトを睨み付けている草原ウルフは、体の幅よりも少し広めに広げた四本の足をしっかりと地着き、怒っているのか口吻にシワを寄せ、上の牙をはっきりと覗かせている。すると、
 

「いけーっ! ショウト!」


 突然、サイクルの弾けるような声が響き渡った。
 それが合図になったのか草原ウルフはヨダレを口からたらし、勢い良く地面を蹴った。
 それとほぼ同時にショウトの思考も働き始める。
 しかし、こんな状況は生まれてこのかた経験したことがない。例え思考が働こうと良いアイデアなんて浮かぶはずもなかった。

 そうこうしているうちに、草原ウルフはショウトを射程圏内に捉えたのか勢い良く飛びかかる。


「うおっ!」


 間一髪、獣が飛んだ瞬間ショウトも身体を捻り左方向へと飛んだ。
 左手をしっかりと伸ばしヘッドスライディングをするように地面と熱い抱擁。擦れた手のひらに熱を帯びたまま直ぐ様立ち上がる。


「あっぶねー」


 草原ウルフは着地すると二撃目に突入する。砂ぼこりと共に、くるりと身体を反転、その姿まさにサイドターン再びショウトに迫る。
 しかし、ショウトに今の状況を打開する方法が浮かばない。良いとこ飛んだところを潜り込んで腹を蹴るか、飛びかかって来たところで顔面を蹴るくらいだ。あとは一か八か……、ショウトは咄嗟に叫んだ。


「おい! サイクル! どうしろってんだよ! 能力つったって使ったことねぇよ!」

 

「そんなの僕にだってわかんないよ。だってショウトと一緒に居たから何となく知ってるだけで、そんな魔法聞いたことないもん」


 開いた口が塞がらないとはこの事だ。と言うよりも、「練習してみよう」なんて良く言えたものだ。何も分からずに戦わされているこっちの身にもなって欲しい。

 視線の先にいる草原ウルフが再びショウトに飛びかかる。

「えぇい! 選択肢一だ!」

 
 選択肢一……つまり、飛んだところをスライディングして獣の下に潜り込み腹を蹴るだ。やったことはないが、あれだけの跳躍力のある獣なら出来るかもしれない。
 ショウトは意を決して草原ウルフに向かって滑り込んだ。


「――うおおぉぉぉっ!!」


 ショウトと草原ウルフの身体が上下で交差する。

 ショウトはスライディングした勢いの伸ばした右足を軸にそのまま立ち上がり、草原ウルフは音も立てず静かに着地した。


「ねぇ、なにやってるの?」


 誰よりも早く口を開いたのはサイクルだった。


「ああぁぁぁ! 届かねぇよ! 足の長さとかじゃねぇからな! アイツが飛び過ぎなんだよ!」


 既にショウトは猫を被ることを忘れていた。というよりも、そんな余裕はなかった。素の姿を全面に出し、草原ウルフと対峙して初めてサイクルの姿を探す。すると、


「は? お前なんで浮いてんだよ!」


 あろうことにサイクルの身体はフワリと宙を浮き、あたかもショウトと草原ウルフの戦闘を優雅に観戦しているかのように少し高い位置から眺めていた。

 
「だってそんな所に居たら僕が食べられちゃうじゃないか。どう見たってショウトより僕の方が美味しそうだしね」


「お前な! 美味しそうとかそう言う問題じゃないだろ! 自分で戦えって言っといて――」


 サイクルに反論しようと声を上げた時だった。ショウトの声に被せるようにサイクルは声を荒げた。


「ショウト前! 前!」


 その瞬間、右肩に痛みが走る。
 一瞬の隙をつき、草原ウルフはショウトの肩に鋭い爪で引っ掻いていた。
 ショウトの右肩からはシャツと一緒に裂かれた三本の爪痕がくっきりと付き、じわじわと傷口から血が滲む。


「――くっ」


 不馴れな血に若干の目眩。大量出血ではないが、こんな傷は生まれてこの方経験したことがない。


「ほらほら、戦ってる時によそ見をしちゃだめじゃないか」

 そんな状況にも関わらずサイクルはまだまだ余裕のようだ。だが、その声は既に戦いに引き戻されたショウトの耳には届いていなかった。


――クソッ! どうする?! この状況を打開するにはどうしたらいいんだ!? 選択肢二か!?

 選択肢二、飛びかかってきた所で顔面を蹴るなのだが……、ショウトの気持ちを知ってか、草原ウルフはゆっくりと歩みを進めショウトとの間合いを詰める。それによりショウトの選択肢二は消えた。


――何でだよ! 何で飛びかかってこないんだよ!


 ジリジリと凄みを利かせて近づいてくる草原ウルフにショウトはただ、たじろぎ後退していく。しかし、その後退していた身体は直ぐに止まった。顔だけを少し左に向け、後ろを確認すると、そこには太い大きな木が壁のようにショウトの行く手を塞いでいた。

――こうなったら、一か八か……、右手の力を信じるしかねぇ! 

 ショウトの力は『物に魂を宿らせる』または『物の魂を呼び起こす』だとサイクルは言っていた。実際、ショウト自身どうなるかも分からないが今はそんな事を言っている場合じゃなかった。

「えぇい! どうにでもなりやがれ!」

 ショウトは少ししゃがんで、右手で足元の草を鷲掴みすると、がむしゃらに引きちぎった。その勢いを保ったまま下投げの要領で草原ウルフに草を投げつけた。すると、ショウトの手元を離れた草たちは、ひらひらと宙を舞い緩やかに吹く風に流された。
 その様子をショウトは目で追い、一方の草原ウルフは危険と判断しなかったのか、ショウトの突然の動きにも微動だにせず、ただ真っ直ぐショウトを睨み付けている。
 そして、風に流された草たちは地面に音もなく落ちた。

「は? うそだろ……」

 命のやり取りに慣れていないと言うこともあり、ショウトはその事実に呆気にとられ、尻餅を着いた。信じられない光景にショウトの思考が停止する。そのショウトの気の緩みを一瞬で判断したのか草原ウルフはここぞとばかりにショウトに襲い掛かった。

「ガウゥゥッ!!」

 草原ウルフの牙がショウトの首元へ向かって行く。しかし、ショウトはその事実にいまだ気付いていない。


「ショウト!!」

 
 サイクルが叫んだ。ショウトはその声で我に返り視線を草原ウルフに戻した。しかし、その勢いと凄さにただただ恐怖し動けない。すると、その時だった。


「キャイィィーン!」


 草原ウルフの甲高い鳴き声と共にその身体が真横にぶっ飛ぶ。
 ショウトは一瞬の出来事に理解する暇も与えてもらえず、ただ飛ばされた草原ウルフの姿を目で追った。


「何が起こった……?」


 ショウトの口から無意識に声が漏れる。
 草原ウルフは飛ばされた勢いのまま激しく地面に叩き付けられ、ずるずると横様に流れ静かに止まった。そして、そのまま横たわり動く様子はない。
 遥か横様に飛ばされた草原ウルフをただ呆然と眺めていると、初めて聞く声がショウトの耳に届いた。


「ねぇアンタ、大丈夫かい?」


 声のした方に視線を送ると、そこには薄茶色ローブに身を包み、顔を隠した少女? が立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...