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第一章
11 10Sランク剣聖
しおりを挟む巨大カエルがリベルを睨む中、彼は深呼吸を一つ。
「これから一発ぶち込んでやろうと思うんだが、あいつの注意は俺に向いている。アマネは自由に動けるだろうからその隙に、少しだけでいい気を引いてくれ。あとは俺が切る」
「少しでいいんだ?」
アマネは挑発的な視線を向けてくる。
そして剣をくるりと回してみせた。
「あたしも、置いていかれるわけにいかないからね」
「……よし。とびっきりでかいのを頼む」
「それなら任せて」
アマネは彼から離れていき、リベルは動き出した敵を睨みつける
吸血剣にはいまだに魔力とともに血が流れ込んでいる。
だが、その程度も調整できるようになっていた。長期戦にならなければ、さほど影響はない。
「ゲロッゲロォ!」
巨大カエルが迫ってくると、リベルは剣を軽く横に振る。
魔力が迸り、赤い軌跡が描かれる。
その光は大地を削りあげながら、大きく広がって、やがては敵に迫っていく。
が、カエルの肉体を覆う魔力が一気に溢れ出すと、その衝撃を真っ向から受け止めてしまう。
「この程度では効かないか……!」
やつは怒りのままに、リベルを食らわんと迫ってくる。
体格には差がある。受け止めるのは難しく、このままだと回避するしかない。
けれど、リベルは敵を見据えていた。
アマネはやると言ったのだ。ならば、待っていればいい。
視界の隅で彼女が剣を突きつける。
途端、彼女から魔力が溢れ出した。これまでの状況とはまるで違う。
まだ10Sランクを超えたとはいいがたい。けれど、確かに圧倒的な成長の片鱗を見せつつあった。
彼女もまた、強者としてこの世に呼び出された。
負け知らずの勇者としてこの世を生きていくことにした。
だから、立ち止まってなどいられない。やり遂げねばならない誇りがあった。
「吹っ飛べ!」
叫びとともに業火が生じる。
それは巨大なカエルを呑み込むほどの大きさとなって、勢いよく放たれた。
ドォン!
命中とともに、激しい爆発音が響き渡る。
爆風に煙が上がり、衝撃で倒木が転がっていく。
その中で、アマネは敵の姿を睨みつけていた。
「足りない……!」
敵の肉体は表面が焼けただれていた。
しかし、致命傷には至っていない。
彼女の実力は、まだ新たな次元に到達してはいなかった。急に成長したとはいえ、そこには高い壁がある。
思わず歯噛みした彼女に、カエルの目玉がぎょろりと向けられる。
身構えるアマネであったが――
「十分だ。あとは俺がやる」
リベルは敵に狙いを定め、剣を掲げていた。
彼の肉体からはとめどなく光が溢れ出し、剣に流れ込んでいく。赤々とした光を纏った剣は、ギラギラと輝いていた。
たった一目で、尋常ならざる気配が感じ取れる。
その正体は密なる魔力。上位ランク、10Sランクを超えた者だけが持つ力だ。
巨大カエルは慌ててアマネからリベルへと視線を変えるが、そのときにはすでに、リベルは剣を握る手に力を込めていた。
「消し飛べ!」
解き放たれた魔力は敵を呑み込むほどの大きさとなって襲いかかっていく。
その速さたるや、身動きの隙すら与えないほど。
その力の奔流が過ぎたあとには、倒木も泥も塵一つ残らずに消し飛ぶほどの威力があった。
それが魔物を捉えた。
「ゲロォオオオオオ!」
巨大カエルは衝撃を全身に浴びながら叫ぶ。
踏ん張ろうと力を込めたのも一瞬。
パァンと音がして、その肉体は飛び散った。
それでもなお勢いは止まらずに、衝撃は背後にあった小山をも消し飛ばした。
魔物は肉体の大半を失い、残った頭が地面に転がり落ちて、血の海に溺れる。
リベルと魔物との間には、地面が抉れて一筋の勝利の道ができあがっていた。
キィン!
彼が一息ついたところで、剣が甲高い音を立てた。
「……衝撃に耐えきれなかったか」
剣身は真っ二つになり、あちこちヒビがはいっていた。
これは9Sランクの剣だ。10Sランクを超えた力には、耐えようがない。
「リベルくん! やったね!」
泥んこになったアマネが駆け寄ってくる。
「ああ。しかし……これでは赤字になるかもしれないな」
「折れちゃったんだ」
「次の階層に行けば、10Sランク以上の魔物がごろごろいる。すぐに稼げるといいんだが……」
「ほんのちょっとだけ待ってね。すぐにあたしも、魔力を使えるようにするから。あとちょっとなんだ。コツは掴んだから」
「頼もしいな。それじゃあ、準備を整えたら次の階層に行くとするか」
すでにそのような話をする二人の横を、駆け抜けていく男が一人。
そして巨大カエルの死骸の一部分に飛びついた。
「……ティール。なにしているんだ?」
「なにって……魔物を倒したら回収するのが常識だろ?」
「いや、そうだが……肉体は魔力となって消えるだろ?」
「だから、そうなる前になんとかするんだろ。こうやってさ」
ティールは剣を突き立てると、魔力を込める。
途端、巨大カエルの魔力の流れがかき乱されて、肉体の消滅が遅くなっていく。さらには、彼が魔力を操ると、肉体の大部分が消えずに残っていた。
「……おいティール。お前、魔力使えたんじゃ……」
「当たり前だろ! 俺様を誰だと思ってやがる! 大盗賊、ティール様だぞ!」
「魔力が使えるなら10Sランク以上。あの魔物だって倒せたはず。ガイルたちを見捨てたのか」
「ば、ばか言うなよ! そんなことしねえ!」
「なら、なぜ戦わなかった」
「たまたま、本当にたまたま、実力を出せないときだったんだよ!」
ティールは見事な手つきで解体しながら、非常に慌てて口を開く。
アマネは呆れたように彼を見ていた。
「あー、ティールさ、怖かったんでしょ。魔力が使うのがうまくても、戦うのは苦手だから」
「ギクゥ! ば、ばか言うんじゃねえ! そそそそんなわけあるか! 大盗賊ティール様なんだぞ!」
「ふーん。じゃあ、もう一回戦ってみる? あたしたち、上の階層に行く予定だけど」
「俺様の特技は盗みなんだ! 戦いじゃねえ!」
「まあいいや。ありがと、ティール。わざわざ報酬をくれて」
「え……?」
「あたしたちの獲物、確保してくれたでしょ。それじゃあね」
アマネはひょいと、巨大カエルの肉体を持ち上げた。
ぽかんとした様子のティール。
「いや、その……ちょっとくらい、分け前ほしいなって、いや、あの……別に俺様が小さい獲物にこだわってるわけじゃねえんだけど……」
「つまり、いらないのね」
「そうとは言ってない! ほら、ただ働きになるのは問題あるっていうか、小さい額でももらうことに意味があるというか……」
「はあ。アマネ、少しくらいあげてもいいだろ?」
「そうね。いじめすぎたかも」
アマネはぽいと、カエルの素材を投げ渡した。
「それで十分でしょ。どうせ、あんた一人なんだし」
ティールは辺りを見回し、それから眉をひそめた。
すでに彼と一緒にいた連中は逃げたか死んだか。
「今回はこれで我慢してやる」
「はいはい。というか、もうほとんど会うこともないでしょ。あたしたち、上の階層に行くんだし」
アマネは呆れつつ、
「それじゃ、行こっか。リベルくん、今日は祝勝会にしよう!」
「ああ。高く売れるといいな」
今日のお夕飯のことを考えながら、呑気に帰途に就く。
初めての依頼は、無事に終わり、彼らは次なる階層への切符を手にするのだった。
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