15 / 20
第二章
15 32Sランク銀魔導師
しおりを挟む魔導車から降りたリベルへと、少女はつかつかと歩み寄ってくる。
「いい度胸してるじゃない。私になんの挨拶もなく、こんなところにいるなんて」
「いや、その……」
「しかもなに? 今度は新しい女といちゃついているワケ?」
「いちゃついてない」
「ふーん、どうだか」
少女が目を細めると、馬車からぴょんと飛び降りてきたアマネが尻尾を揺らしながら、リベルの腕にぎゅっと抱きついた。
「実はそうなんだー」
「ちょ、ちょっとあなた! なにしているの!」
少女の銀色尻尾がピンと立ち、毛がぶわっと逆立った。
アマネの赤色尻尾は挑発するようにゆらゆらと揺れている。
「これくらい、いつものことだよね、リベルくん?」
「ち、違う」
「あたしとは遊びだったの? 一緒にいようって言ったのに」
「それはパーティメンバーとしての話で――」
「リベル! この……! どれだけ心配したと思ってるの! それなのに、こんなことって……もう、追ってきたのが馬鹿みたい」
少女は目に涙を湛えて、口を固く結んだ。
銀色尻尾はしょんぼりと垂れ下がり、肩はすっかり落ちている。
アマネはリベルの様子を見ながら尋ねる。
「……で、どちらさんなの?」
リベルはその問いに、ゆっくりと答える。
「彼女はクルルシア。俺の元パーティメンバーだ」
魔導車の中から、ゴルディとイーレンは、居場所がなさそうに彼らの様子を見ていた。
◇
「なんだ。そういうことだったの。早く言ってくれればよかったのに」
冒険者ギルドのホールで、クルルシアは上機嫌になっていた。
先ほどリベルが、懇切丁寧にことの経緯を話したのである。
「だから言っただろ。俺はなんにもしてないって。クルルが信じてくれなかったんじゃないか」
「普段の行いが悪いからよ」
「それは否定しないが……」
「ま、でもリベルが色恋に現を抜かすはずがないわ。剣を見てデレデレしてるほうが似合うもの」
「それはそれでどうなんだ……」
リベルが肩を落とすと、アマネも「確かに」なんて頷いている。
「それにしても……Sランク世界に来るとき、私に声くらいかけてくれてもよかったんじゃないの?」
「クルルまで巻き込んだら悪いだろ」
「嘘ばかり。私の性格知ってるでしょ」
「そうだけど、追ってくるかなあ、と薄々思ってはいたけれど、まさか本当に来るとは……」
「そんなに嫌なワケ? ずっとパーティから離れたいと思ってたワケ?」
「そうじゃないって。俺だけSSSランクだったんだ。力の差だってある。危険もあるし、妙なことに首を突っ込むことになるんだから、そりゃ気にするだろ」
「ふーん。じゃあもう関係ないってことね。私は32Sランク銀魔導師になったんだから」
クルルシアは胸を張る。
リベルはそんな彼女を見ながら……
「早くないか?」
「でしょ。ポテンシャルが違うの。そうでないと、リベルについていくのなんて、無理なんだから」
「確かにリベルくんと一緒にいると、大変だよね」
「戦闘狂なのよね」
「うんうん」
クルルシアとアマネが頷く姿に、リベルは眉をひそめるしかなかった。
そこにゴルディとイーレンがやってくる。
「リベルさん。私たちはそれじゃ、もう行きますね」
「ああ。今回の依頼、とても助かった」
「いえいえ。リベルさんのおかげで、たくさん報酬がもらえました。いやはや、得をしましたね」
そうして去っていく二人を見ていると、クルルシアがつついてくる。
「考えていること、当ててあげようかしら?」
「……どうせろくなこと言わないだろ?」
「わかってるじゃない。リベルでも、ろくでもない自覚があったのね」
「俺が言ってるのは、クルルの口のことなんだが」
「リベルくん、昔からろくでもないんだね」
ため息をついたリベルに、クルルシアが顔を近づけ、小声で呟く。
「自分の力で得られなかったものを喜んでも仕方がない。上を目指すには、それだけじゃ足りないんだ」
「……嫌味なほどわかってるじゃないか」
リベルは思わず顔をしかめた。
ゴルディとイーレンたちにとって、あの戦いは棚からぼた餅であったのだろう。リベルがいたから、予想外の成果が上げられた。
だが、そこで喜んでいては停滞しか待ち受けてはいない。
自分の力で勝ち取らねば、戦いの中で常に向上心を持たなければ、決して上に辿り着くことはできないだろう。
彼らも昔は、世界の最先端、SSSランクだったのかもしれない。
だが、この世界に来て彼らは、自分たちが特別ではないことを知った。いや、それどころか落ちこぼれと言ってもいいかもしれない。
その中で彼らは気概を失っていったのだろう。
常に走り続けること、そして尖り続けていることを。
「人それぞれだとは思うさ。だが、俺たちは上に行く。いつまでも一緒にはいられないと思っただけだ」
「そんなリベルに朗報があるわ。この私がパーティを組んであげる」
クルルシアは胸を張る。
銀色尻尾はぱたぱたと揺れていた。
「……どういう流れだ?」
「私はリベルについていけるし、腕も知ってるでしょ」
「一人でここまで来るくらいだからな」
「だから、組んであげるって言ってるわけ。不満なの?」
「そういうわけじゃないが、今はアマネと組んでいるんだ。俺の一存では決められない」
「別にいいよ」
「そう。ありがと、アマネちゃん」
「いえいえ」
「…………あっさり決まったな」
「よかったじゃない。二人だけだとこれから先、大変だって悩んでたところでしょ?」
「よくわかるな」
「リベルのことなんてお見通しよ」
クルルシアは自慢げにするのであった。
「それで、次の依頼はどうするのかしら?」
「早速だな。俺たちは帰ってきたばかりだってのに」
「だって、私はまだなにもしてないし、時間がたったらリベルが行っちゃうから、急いでここまで来たのよ。お金なんて貯まる暇もなかったんだから」
クルルシアが不満げな顔をすると、リベルは「すまなかった」と素直に頭を下げた。
「でも、クルルちゃんが入ったら、もっと大がかりな依頼も受けられるね」
「そうね。しっかり援護するから、背後は任せて」
彼女は杖を見せる。
遠距離からの魔法攻撃を得意とする職業であり、判断力もある。
彼女が後ろにいれば、リベルも安心できる。
「さて……それなら大きな依頼を受けるか」
「当てがあるの?」
「ついこの前、75Sランク小都市ブーモーの奪還作戦に対する人員が募集されていた」
「……75Sランク?」
「そうだ。小さな都市だが、芸術に優れた都市らしく、ランクが高いのだとか。しかし、魔物の襲撃を受けて今は占拠されている」
「リベルくん、そういうことじゃなくて……」
「75S、というところが気になるんだけど」
「ちょうどいいだろ? 格上の相手と戦っていれば、ランクも上がりやすい」
「……」
「……」
アマネとクルルシアは二人顔を見合わせてから、ため息をついた。
「はあ」
「ほんと、リベルって」
「どうしようもないね」
「……なんだよ。普通の考えじゃないか」
「そうかもね。100Sランク冒険者たちからすれば」
「仕方ないから、付き合ってあげるわ」
釈然としないリベルであるが、意見がまとまったならそれでいい。
「行くか。75Sランク都市へ」
「うん。近くで準備しよっか」
「転移門を使うのよね? 歩いて移動なんて嫌よ」
「もちろんだ。時間が惜しい。向こうに行ってから、作戦も練ろう」
三人はそうして話をまとめると、いよいよ動き出す。
彼らの動きはいつもながら早かった。
0
あなたにおすすめの小説
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる