【完結】魅了が解けたので貴方に興味はございません。

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サロンに移動した後、私は全てのことをお父様とお母様に話した。あの夜のことも、そして今まで周りから受けていた仕打ちも。
案の定、お父様は顔を真っ赤にして震えていた。

「このコンシェナンス家に対してそんな無礼をっ!私の娘を、ましてや次期王妃となるサラを小間使いにするだなんて!」
「お父様、落ち着いて下さい」
「落ち着いていられるものか!サラ、まずは見せしめにどいつを牢屋にぶちこんでやろうか?」

怒り狂ったお父様。
目が血走っていて……うん、私では止められないわ。

「あなた、落ち着いて?」
「お、お母様……」
「鉱山採掘の刑を処した後、地下牢にまとめて詰め込みましょ?一人残らずね?」

うふふふと笑うお母様に、私やコフィは引き攣った笑顔を向けるだけ。忘れていたけどお母様の方が過激な人だったわ……。

「ふ、2人ともとにかく落ち着いて下さい!確かに彼らの態度は許されるものではないです。でも当の本人である私が甘やかしていたの」
「「………」」
「どんなに酷い扱いを受けても私は彼らを咎めなかった。野放しにしていた。それもこれも……」
「魅了、だね?」

お父様の言葉にコクンと頷く。

ルシアン様は彼らが無礼を働いても見て見ぬふりだった。本来であれば守ってくれるはずの婚約者が見逃せば……どんどん調子に乗るに決まっているわ。

「昔、そんなような言葉を聞いた事がある」
「ほんとですか?!」
「ああ。だが自信はない、手っ取り早いのはその青年に聞くのが確かだろう」

青年、とはあの黒髪の人のこと。

そもそもあの人は何故この国に?ルシアン様のパーティーに呼ばれるほどの貴賓であれば、私も会ったことくらいはありそうだけど。

『君が本来の姿に戻ったとき、また会いに行く』


「サラちゃん?どうしたの?顔が真っ赤よ」
「あっ、いえ何でも」
「ふーん……」

お母様はにやにやしながら顔を覗き込んでくる。

さすがに……口移して術を解いてもらっただなんて、言えないわよね?

「それとお父様、婚約のことなんですが……」

ぎゅっと拳に力をいれる。

「私、ルシアン様と婚約を破棄しようと思います」
「サラ………」
「目が覚めたんです、このまま結婚しこの国を統べる立場になっても彼は私を虐げ続けるでしょう。そんな人の元には嫁ぎたくありません」

虐げられた王妃の言葉に耳を傾ける臣下はいない。

ルシアン様やその周りにいる者たちが支配を望む限り、私は常に誰かの犠牲となる。そんな人生、御免だわ。

「サラ、こっちを向きなさい」
「お父様……」
「私たちは王家を古くから支える公爵家だ。でもその前に大切なお前の親でもある。娘をコケにされて黙っていられるほど聖人君子ではないさ」
「で、ではっ!」
「サラが決めたのなら婚約は破棄しよう。もちろん、相手がごねないように万全の準備を整えて」

大きな手に頭を撫でられ、涙がじんわりも滲み出る。
張りつめていた緊張がプツンと切れた。

「君もそれでいいね?」
「当たり前です。それに私は最初からこの婚約、反対していたのよ?マリアン様の猛プッシュがなければそもそも受け入れていないわ」
「お、お母様……」
「仕事を押し付けて堂々と浮気宣言、ふふふっどんな地獄を見せて差し上げようかしら」
「「……………」」

ルシアン様、どうやら一番怒らせちゃいけない人を怒らせたみたいですよ。

「では、私はしばらく王宮から距離を置きます。恐らく文官や外交官たちは仕事が滞り、焦るでしょうけど」
「ああ。もとは王太子殿下の仕事だ、お前が気に病むことではない」
「はい」
「学園に行くのも減らしたらどう?サラちゃん、卒業までの単位は十分取れているんでしょう?」
「そうなんですけど……良いのですか?」

私が学園に通う理由は2つ。

一つは学園に通う令息や令嬢たちを監督し、それを王家に報告すること。それは筆頭公爵家の人間である私に課せられた義務のようなものだ。

そして二つ目は、ルシアン様の補佐役。
でも実際にやっていた事と言えば赤点を取らないようにテスト対策をするくらい。はっきりいってルシアン様の成績は下の中だから、このままでは本当に卒業すら危うい。

私が学園に行かなくなれば、間違いなくルシアン様は留年する。間違いなく。

「それなら公爵家の仕事を手伝ってみないか?」
「公爵家の、ですか?」
「ああ。そう言えば学園での役目は二の次にしても問題はないだろう。私も手伝って貰えると助かる」
「はいっ!ぜひやらせて下さい!」

領地運営の仕事には興味がある。前のめりで返事をすると、お父様もお母様もびっくりした表情をした。

「サラ、本当に別人のように変わったな」
「……変でしょうか?」
「ううん違うの。嬉しいのよ私たちは!」

お母様はむぎゅっと抱き締める。

「これからはいっぱい家族の時間を取りましょ!旅行も行きたいし、ショッピングも行きたいわ!」
「そうだな」
「ええ……ありがとうございます」

嬉しそうな2人に私もつられるように微笑む。


味方は誰もいないと思っていた。
でも大切にしなきゃいけない存在が2人もいたことに、今ようやく気付けた。

ふと、あの黒髪の青年を思い出す。

今どこにいるのだろうか。
彼に会って話をしたい。そして、真っ先に助けてくれてありがとうと伝えたいのに。

温かい感触が今でも残っているようで、私はそっと自分の唇を指でなぞった。 

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