【完結】男装の麗人が私の婚約者を欲しがっているご様子ですが…

文字の大きさ
22 / 26

22

しおりを挟む

「グラシャ、そろそろ家に送ろう」

いつものようにスプラウト家で夕食を頂いた後、デザートを食べ終わりお義母様と話していればアシュレイ様はそう声をかけた。

「あら、もうそんな時間?つい話し込んじゃったわ!グラシャちゃん、それじゃあこの話は明日ね」
「ええ、お義母様」

立ち上がり一礼をした後部屋を出る。
前を行くアシュレイ様を追いかけながら自分よりも大きな背中に抱きつきたい衝動を何とか抑え込む。
幸いにもここには誰もいない。

(……だめだめ、急にそんな事しては。ちゃんとエリザベスさんが教えた通りにしなきゃ。よしっ!)

「あ、あのっ!アシュレイ様」
「ん?」

振り返ったアシュレイ様と目がぱちっと合う。

「き、今日っ泊まって行ってはダメでしょうか?」
「…………」

私の言葉にフリーズするアシュレイ様。

(ついに言ってしまった!で、でも今日も結局二人きりには慣れなかったし、もっといっぱいお話したいし……となれば、やっぱりお泊まり会が一番だと思ったんだけど)

チラッと顔を伺えばアシュレイ様は気まずそうに口元を押さえている。

「ダメだ」

久しぶりに聞いた低い声。この声は……ちょっと怒ってる時の声だ。

「あ……そ、そうですよね!私は一体何を」
「グラシャ」
「忘れて下さい!つい調子に乗ってしまって、アシュレイ様だってお疲れなのに私がいたら休めませんものね!」

勇気を出した、でも断られてしまった。それがとてつもなく恥ずかしい。
アシュレイ様を追い越すように早足で屋敷を出た。

「グラシャ」
「見送りは結構です!ちゃんと一人で帰れますので」
「話を聞いてくれ」

屋敷の外はもう暗くなっていて、灯りがぼんやりとついたここなら私の顔はアシュレイ様に見えないだろう。きっと恥ずかしさで真っ赤になってしまっているはずだから。
馬車が待っている正門までの道をひたすら早足で抜けていくが、あと少しのところでアシュレイ様に腕を掴まれてしまった。

「待ってくれ、グラシャ」
「っ……は、離してください」
「ダメだ」

こうなった時のアシュレイ様はしつこい。それは私がよく知っている、知ってるけど……。

「……二人きりになりたかったんです。やっと貴方と気持ちが通じ合ったのに、その、距離が縮まっていないみたいで嫌だったんです」

ぽつぽつと呟く。
正直に自分の気持ちを伝えること、それが一番大切で一番難しい。

「私に触れるのは嫌ですか?」
「グラシャ……」
「わ、私は好きですっ!あったかくて、幸せで、もっとアシュレイ様の知りたくて」
「頼むから」

腕をぐっと引かれれば、ぽすんとアシュレイ様の胸に飛び込んだ。久しぶりに伝わる感触と温度に訳が分からず顔を上げようとするものの、またぎゅっと抱き締められてしまう。これだとアシュレイ様の顔がちゃんと見えない。

「これ以上可愛いことを言わないでくれ」
「あ、アシュレイ様……?」
「こっちは理性を保つのに必死なんだ。今だって……本当は帰したくないのに」

いつもの余裕ある声とは違い、何とか絞り出しているみたいな苦しい声が聞こえる。つまり……嫌われてる訳じゃないってこと?
何とか抜け出し見上げれば、アシュレイ様の顔は私と同じくらい真っ赤に染まっていた。

「グラシャ」
「んっ」

頬に両手が添えられ、ゆっくりと唇が重なる。

「愛してる」
「っ!」
「結婚したら覚悟してくれ。これでは済まさない」
「なっ!」

ニッと笑うアシュレイ様に心臓がバクバクと脈打った。何か企んでいるかのような、そんな意地悪な笑顔がたまらなくカッコいい。

(アシュレイ様も同じ気持ち、だったのかしら)

だとしたら良かった、ちゃんと自分の気持ちを伝えて。はっきり言っていなければ今ごろすれ違ったままだったかも知れない。

「……ふふっ」
「?何がおかしいんだ」
「いえ、嬉しくて。同じ気持ちでいてくれたのですね」
「あまりからかうな」
「からかってませんよ」
「からかってる」
「からかってません」
「いや、絶対からかっている」
「もう!頑固なんだから」

懐かしいやり取りに私たちはまた同時に笑い出す。

ゆっくりでも良いから自分の気持ちをちゃんと伝えていこう。不器用で真面目な彼ならきっと私の言葉を聞いてくれる。

そして本物の夫婦になっていきましょうね。



*****

本編は一度完結です。
ざまぁメイン(シルビア目線、他令嬢目線など)の話を数話更新します。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

処理中です...