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12 エマ視点
しおりを挟む「最低な気分だわ!」
アルバートの部屋に着くなり、私は身につけていたイヤリングを思い切り床に叩きつけた。
「エマっ、どうしたんだい急に」
「あんな屈辱的な気持ちになったのは初めて!それも全部ヴィンセントのせいよ!」
「エマ、落ち着いて……っ」
宥めるように抱きしめてくるアルの腕を振り払う。
「貴方もよ!アルバート!」
「えっ、なんで」
「ブルーダイヤモンドくらいプレゼントしてよ!お陰で恥かいたじゃない」
ヴィンセントの発言後、一瞬沈黙が続いたけどしばらくして誰かがクスクスと笑い出す。
「ちょっと!ダメよ笑っちゃ」
「ふふっ、あんなはっきりと振られて可哀想!」
「みっともないわね」
「彼女だろ?噂のキュレッド家の疫病神って」
「ああ。あんな女と出来損ないの弟にしがみつかれてヴィンセント殿が不憫だな」
会場にいた令嬢たちは扇子で口元を隠しながら嘲笑い男たちは憐れみの目でヴィジーを見る。
結局その空気に耐え切れず、アルバートの手を引っ張りこうしてキュレッド家の屋敷に戻ってきた。
(あんな場所で、言わなくても良いのに!)
私の初恋はヴィジーだった。
小さい頃はよく3人で遊んでてヴィジーはいつも優しくてカッコ良かった。他の女の子たちよりも私だけを特別扱いしてくれる、そんな彼が王子様に思えた。
でもある日気付いてしまったの。
彼が優しくしてくれるのは私が体の弱い子だから。病気が治ればヴィジーは優しくなくなった。
『エマ、ここは上学年の教室だ。帰りなさい』
『それは他の子のおもちゃだろ?早く返すんだ』
『俺は君の兄じゃない。貴族の令嬢として、ちゃんとマナーをもって接しなきゃダメだよ』
口うるさいヴィジーは好きじゃない。
私に優しくないヴィジーは好きじゃない。
だから私は振られた訳じゃないのに!
「エマ……?」
顔を覗き込んでくるアルバート。
(……やっぱり、私にはアルしかいない)
アルは絶対に私を見放さない。
あれが欲しいと言えばすぐにプレゼントしてくれるし、会いに来てと言えばすぐに来てくれる。どんな事があっても私を最優先にしてくれる。
私たちの関係は、誰にも壊されないんだから。
「アルバート」
私はガバッと彼に抱き着く。
「アル、アル、っアルは私のこと好きよね?!」
「どうしたんだい?急に……」
「お願いよ言って、私のこと好き?私が一番よね」
微かに弱った声を出し上目遣いをする。
アルは私のこの顔に弱い。
そんなこと、とうの昔から知っている。
「……当たり前だよ。エマが一番可愛いし、僕はエマが大好きだよ」
ぎゅっと抱き締め返される。
(あぁ……気持ちいい)
私が一番欲しい言葉をくれるアルバート。
そんな彼も、私だけのものじゃない。
(あの人が……あの女がアルを縛ってる)
シャロン=ロットバレン公爵令嬢。
この国最大の資産家でもある名家ロットバレン家の娘。頭も良くて家柄もいい、そして何より美しい彼女は貴族学校でも高嶺の花のような扱いを受けていた。
私なんか到底敵わない、そんな彼女はアルの婚約者だった。
(全部持ってるくせに、どうして私からアルバートまで奪うのよ)
良いじゃない、素敵なドレスも珍しい宝石も人気者の男もみんな手に入るんだから。分けてくれたって良いじゃない。
「アル……っ愛して」
「エマ、もうすぐみんな帰ってくる」
「慰めてよっ、アル!……お願い」
アルバートの首に腕を回す。
「エマ……ああ、可哀想に。何で君ばかりが辛い目に合ってしまうんだろうね」
そっと体を抱き寄せられ、気付けばソファーに押し倒される。今この瞬間アルの視界には私しかいない。
私たちは無我夢中でお互いの身体を求めた。
「ねぇアル、やっぱりあのダイヤモンド欲しいわ」
一糸纏わぬ姿のまま、アルバートの腕に抱かれる。
無意識で呟いた言葉にアルは少しだけ目を丸くした。
「……そんなに欲しいの?」
「ええ。ネックレス自体も素敵だし欲しいのは本当なんだけど」
上体を起こしぼんやりと思い出す。
「……あの時のシャロン様、私を蔑んでたの」
私たちがパーティー会場を出て行く時、チラッと振り返った時に彼女の顔が一瞬見えた。その目はまるで汚いものを見るかのように、笑うことも怒ることもなくただ無の感情を表した目をしていた。
「すごく嫌だった。私なんかそもそも相手にしていないような、そんな彼女が嫌いなの」
「……シャロンはそういう女だよ。特別な人間からしてみれば僕たちなんか眼中にないんだ」
アルは悔しそうに言う。
「だから欲しいの、困らせてやりたいわ」
真っ直ぐにアルを見つめる。
私の気持ち、誰よりも理解してくれているのはアルバートだ。
「……分かったよ」
「アルっ!」
「君が欲しいものは全部僕があげる」
優しく微笑みながら私の頭を撫でる。
(私にはやっぱりアルしかいない!)
ガバッと抱き着き深く口付ける。身体を密着させ、彼の足に自分のを絡めた。
「だいすきっ、私にはアルだけっ!」
「僕もエマが大好きだよ」
「愛してるって言って」
「……愛してるよ、エマ」
何度も口付けられながら囁かれる愛の言葉に、私の心は満たされていく。
(シャロン様、貴女の婚約者は今愛を囁きながら私を抱いているの。貴女じゃなくて、私によ?)
思わず笑みが溢れてしまう。
今は呑気に踊っていればいい、最後には全部私のモノになってるんだから。
「ぁっ、アル……好きよ、好き」
何度も何度も唱えアルバートを引き摺り込む。
激しく求め合う私たちは気付けなかった。
アルバートの部屋がいつもとは違うことに。
本棚のある本の位置がずれていることに。
ジジジという謎の機械音が微かに鳴っていることに。
そして全てがヴィンセントの掌の上ということに。
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