星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い

希羽

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第十二話:愛の証明

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 アークライト公爵が立ち上がった瞬間、審問室の空気が張り詰めた。彼の灰色の瞳は絶対零度の光を宿し、その場にいる全ての者を支配下に置いた。

「茶番は終わりだ。ここからは、私が彼女の弁護をしよう」

 まず、彼の射抜くような視線は、悲劇の恋人を演じていたクラレンスに向けられた。

「貴殿はルチア嬢と将来を誓ったと言ったな。ならば、貴殿が多額の賭博の借金を抱え、より裕福な令嬢に乗り換えるため、ハノーヴァー子爵家に婚約の白紙撤回を申し入れた、この書簡は何だ?」

 公爵が懐から取り出した一通の書簡を、近衛騎士が受け取り審問官へと渡す。そこには、クラレンスの筆跡で、金のために私を切り捨てる旨がはっきりと記されていた。クラレンスの顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 次に、公爵の視線は涙ながらに嘘をついた継母とセシリアへと移った。

「ルチア嬢を実の娘同然に慈しんで育てた、と。実に感動的な話だ。だが、私の調査員が確認したところ、彼女に与えられていたのは埃まみれの屋根裏部屋、食事は日に一度の残飯、そしてこの数年、新しいドレスの一着も与えられていなかった。これが貴殿らの言う『慈しみ』かね?」

 次々と挙げられる虐待の証拠に、母娘は言葉を失う。屋敷の使用人たちの証言も添えられており、もはや言い逃れの余地はなかった。

「そ、それでも、刺繍は! あの扇の刺繍は、このセシリアがしたものです!」

 追い詰められた継母が、最後の嘘を叫んだ。

 それを待っていたかのように、アークライト公爵は夜会で手に入れた扇を懐から取り出し、セシリアの眼前に突きつけた。

「そうか。ならば、証明してみせろ。今この場で、これと寸分違わぬ刺繍を、その指で縫ってみせろ」

 近衛騎士が、絹布と針、そして銀色の糸をセシリアの前に置く。審問室中の視線が、彼女の指先に集中した。もちろん、星屑から糸を紡ぐことなどできない彼女に、あの奇跡の刺繍が再現できるはずもなかった。セシリアは顔面蒼白のまま、わなわなと震えるだけで、針を持つことすらできない。

 その醜態が、すべての嘘の終わりを告げていた。

 形勢は、完全に逆転した。

 アークライト公爵は、呆然と座り込む私の手を取り、その場にいる全ての者に聞こえるよう、朗々と宣言した。その声には、初めて聞く、熱い感情が込められていた。

「彼女は、誰かをたぶらかしたのではない。彼女の持つ純粋な光が、私の灰色だった世界に、再び色彩を与えてくれたのだ」

 公爵は私の手を強く握りしめ、その言葉を紡ぐ。

「ルチア・ハノーヴァーは、道具でも、誰かの所有物でもない。私の唯一無二の存在だ。この命に代えても、誰にも渡さない」

 それは、何よりも雄弁な愛の告白だった。

 彼の言葉が真実であることは、その場にいる誰もが理解した。なぜなら、その言葉を語るアークライト公爵の灰色の瞳の奥に、確かに彩りの光が灯っていたからだ。

 審問官は厳粛に判決を言い渡した。

 継母とセシリア、そしてクラレンスは、王家と公爵家を欺いた罪により、爵位剥奪、全財産没収。加えて、偽証罪で辺境の修道院へ送致されることが決まった。泣き崩れ、命乞いをする三人の見る影もない姿には、もはや誰も同情を寄せる者はいなかった。

 騒然とする審問室の中、アークライト公爵は、まだ状況が飲み込めずにいる私の手を引き、立ち上がらせた。

 そして、すべての喧騒を背に、私を連れて毅然とそこを後にする。

 彼の大きな背中が、私のすべてを守る盾のように、ひどく頼もしく見えた。長い悪夢が、ようやく終わったのだ。
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