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第五十七話:夜明けの誓い
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中央広場の熱狂的な歓声は、夜が更けてもなお、鳴り止む気配がなかった。民衆は、帝国の新しい夜明けを、歌い、踊り、心から祝福している。
その喧騒を遥か眼下に望む、王宮のバルコニーに、二つの人影があった。
アレクシスと、私。
私たちは、言葉もなく、ただ帝都の輝く夜景を見つめていた。隣にいる彼の体温と、しっかりと握られた手の温もりだけが、これが夢ではないことを、私に教えてくれていた。
「……疲れただろう」
静寂を破ったのは、アレクシスだった。その声には、皇帝としての威厳ではなく、ただ一人の男性としての、深い優しさが滲んでいた。
「いいえ。心地よい疲れですわ」
「そうか」
短い会話の後、再び心地よい沈黙が訪れる。
私たちは、あまりにも多くのことを、共に乗り越えてきた。後宮の小さな畑から始まり、帝国の深い闇との戦いまで。その一つひとつの記憶が、言葉以上に、私たちの心を固く結びつけていた。
やがて、アレクシスは私の手を取り、ゆっくりと自分の方へと向き直らせた。
その紫紺の瞳が、今までに見たことがないほど、真剣な光で私を見つめている。それは、臣下に命令を下す皇帝の目でも、同志に語りかける盟友の目でもない。
ただ一人、愛する女性を見つめる、男の目だった。
「リディア」
彼は、私のもう一方の手を、そっと自分の胸へと導いた。彼の心臓の、力強い鼓動が、私の指先に伝わってくる。
「私は、愚かな男だった。お前の才能を誇りに思いながら、その才能がお前を私から遠ざけてしまうのではないかと、恐れていた。嫉妬という、醜い感情に囚われ、お前を深く傷つけた」
彼の告白に、私は静かに首を横に振った。
「……しかし、もう迷わない」
彼は、私の瞳をまっすぐに見つめ、誓いを立てるかのように、一言一言、はっきりと告げた。
「お前が耕す畑が、後宮の小さな庭であろうと、この帝国全土であろうと、あるいは、この世界の果てであろうと、私は常にお前の隣にいる。お前の見る景色を、共に見たい。お前の喜びも、悲しみも、その全てを、この手で支えたい」
「リディア・バーデン。私の、ただ一人の妃として。そして、私の生涯、唯一無二の伴侶として、この先の道を、共に歩んではくれないだろうか」
それは、後宮の片隅で彼が口にした、「君の作るスープを飲みたい」という不器用な言葉の、本当の答えだった。
世界で一番、誠実で、そして心に響く、プロポーズ。
込み上げてくる熱いものをこらえきれず、私の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは、悲しみや苦しみの涙ではない。私が後宮に来てから、ずっと探し求めていた、温かくて、そして何よりも尊い、幸せの涙だった。
「……喜んで。あなたと、共に」
私の答えを聞くと、アレクシスの顔が、安堵と、そして子供のような喜びにはじける。
彼は、そっと私の頬に手を添え、優しく涙を拭うと、その唇を、ゆっくりと私の唇に重ねた。
それは、帝都の夜景の輝きにも、民衆の大歓声にも負けない、私たちの新しい時代の始まりを告げる、静かで、しかし永遠の誓いの口づけだった。
眼下に広がる帝都の灯りが、まるで私たちの未来を祝福する、無数の星々のように、いつまでも、いつまでも、またたいていた。
その喧騒を遥か眼下に望む、王宮のバルコニーに、二つの人影があった。
アレクシスと、私。
私たちは、言葉もなく、ただ帝都の輝く夜景を見つめていた。隣にいる彼の体温と、しっかりと握られた手の温もりだけが、これが夢ではないことを、私に教えてくれていた。
「……疲れただろう」
静寂を破ったのは、アレクシスだった。その声には、皇帝としての威厳ではなく、ただ一人の男性としての、深い優しさが滲んでいた。
「いいえ。心地よい疲れですわ」
「そうか」
短い会話の後、再び心地よい沈黙が訪れる。
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やがて、アレクシスは私の手を取り、ゆっくりと自分の方へと向き直らせた。
その紫紺の瞳が、今までに見たことがないほど、真剣な光で私を見つめている。それは、臣下に命令を下す皇帝の目でも、同志に語りかける盟友の目でもない。
ただ一人、愛する女性を見つめる、男の目だった。
「リディア」
彼は、私のもう一方の手を、そっと自分の胸へと導いた。彼の心臓の、力強い鼓動が、私の指先に伝わってくる。
「私は、愚かな男だった。お前の才能を誇りに思いながら、その才能がお前を私から遠ざけてしまうのではないかと、恐れていた。嫉妬という、醜い感情に囚われ、お前を深く傷つけた」
彼の告白に、私は静かに首を横に振った。
「……しかし、もう迷わない」
彼は、私の瞳をまっすぐに見つめ、誓いを立てるかのように、一言一言、はっきりと告げた。
「お前が耕す畑が、後宮の小さな庭であろうと、この帝国全土であろうと、あるいは、この世界の果てであろうと、私は常にお前の隣にいる。お前の見る景色を、共に見たい。お前の喜びも、悲しみも、その全てを、この手で支えたい」
「リディア・バーデン。私の、ただ一人の妃として。そして、私の生涯、唯一無二の伴侶として、この先の道を、共に歩んではくれないだろうか」
それは、後宮の片隅で彼が口にした、「君の作るスープを飲みたい」という不器用な言葉の、本当の答えだった。
世界で一番、誠実で、そして心に響く、プロポーズ。
込み上げてくる熱いものをこらえきれず、私の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは、悲しみや苦しみの涙ではない。私が後宮に来てから、ずっと探し求めていた、温かくて、そして何よりも尊い、幸せの涙だった。
「……喜んで。あなたと、共に」
私の答えを聞くと、アレクシスの顔が、安堵と、そして子供のような喜びにはじける。
彼は、そっと私の頬に手を添え、優しく涙を拭うと、その唇を、ゆっくりと私の唇に重ねた。
それは、帝都の夜景の輝きにも、民衆の大歓声にも負けない、私たちの新しい時代の始まりを告げる、静かで、しかし永遠の誓いの口づけだった。
眼下に広がる帝都の灯りが、まるで私たちの未来を祝福する、無数の星々のように、いつまでも、いつまでも、またたいていた。
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