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第二十八話:彼女が選ぶ未来
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夜が明け、泥の湖と化した王都の中心部に、朝日が静かに差し込んでいた。悪夢のような一夜が終わり、人々は恐る恐る、地下シェルターから姿を現し始める。彼らは、街の惨状と、無数の魔物の死骸に言葉を失いながらも、自分たちが生き残ったという事実を、ただ噛み締めていた。
王城の玉座の間は、勝利の祝賀とは程遠い、重苦しい沈黙に支配されていた。
そこに、リディアが、レオンとアークライト公爵を伴って、静かに入室した。玉座の前には、国王、そして、魂の抜け殻のようになったエドワード王子とセシリアが、力なく立っている。
国王は、やつれた顔に必死で威厳を取り繕うと、リディアに向かって宣言した。
「――リディア・フォン・アークライト。そなたの功績は、王国史に永遠に刻まれるであろう。よって、そなたに与えられた全権指揮権は継続し、さらに、エドワードとの婚約を再び結び、次期王妃として、この国を導くことを……」
「お断りいたします」
国王の言葉を、リディアは、一寸の ためらいもなく、冷たく遮った。
その場にいた誰もが、息をのむ。
「……な、何を、申すか」
「申し上げたはずですわ、陛下。わたくしの目的は、この国を救うことではない、と。あなた方が放置した『魔力汚染』という、世界に対する脅威を排除すること。その目的は、果たされました」
リディアは、もはや何の感情も浮かべぬ瞳で、エドワード王子を一瞥した。
「そして、この度の戦いで、はっきりと証明されました。祈りや伝統といった、あなた方が拠り所にしてきた非合理なシステムは、真の脅威の前では、あまりに無力である、と。そのような、基礎方程式そのものが間違っている国を、わたくしが導く価値はありません」
それは、この国のあり方そのものに対する、完全な死刑宣告だった。エドワード王子は、その言葉に、もはや反論する気力さえなく、ただ震えながら床を見つめていた。彼のプライドは、完全に、修復不可能なまでに破壊されたのだ。
国王が、懇願するように言った。
「……では、どうすればよいのだ。古代遺跡の脅威は、まだ残っておるのであろう?」
「ええ。ですが、それも、もはやあなた方の手を煩わせる必要はありません」
リディアは、静かに、しかし、絶対的な自信を持って宣言した。
「わたくしは、辺境へ帰ります。そして、あの古代遺跡の技術を、わたくしの数式で完全に制御下に置きます。暴走した兵器ではなく、人々の生活を豊かにするための、クリーンなエネルギー源として」
彼女の視線は、玉座ではなく、その遥か向こう、西の地平線を見据えていた。
「そして、あの地に、新しい国を築きます。神への祈りでも、血筋による権威でもない。ただ、知性と合理性だけを尊ぶ、真に進歩した国を。身分も、過去も関係ありません。そこでは、誰もが、自らの知識と努力によって、正当な評価を得られる。わたくしが、それを保証します」
唖然とする王侯貴族たちを尻目に、彼女は、隣に立つレオンへと、穏やかな笑みを向けた。
「レオン。あなたも、来てくださいますわね? あなたの力は、新しい国を築く上で、必要不可欠なエンジンです」
「当たり前だろ」
レオンは、ぶっきらぼうに、しかし、その瞳に絶対的な信頼を込めて、頷いた。
「あんたの描く、その途方もない数式の答えを、最後まで隣で見届けさせてもらうさ」
その二人の間には、もはや主従も、師弟も、指揮官と兵士という関係もなかった。ただ、同じ未来を見つめる、対等なパートナーとしての、強い絆だけがあった。
リディアは、最後に、実の父親であるアークライト公爵へと向き直った。
「お父様」
「……」
「もし、古い伝統に縛られるのが嫌になったなら、いつでもいらっしゃい。わたくしの国は、いつでも、知性を求める者を歓迎しますわ」
それだけを告げると、リディアは、未練の一片も見せず、踵を返した。レオンと、辺境から来た精鋭たちが、黙って彼女に続く。
彼らは、滅びの淵から蘇り、これから長い復興の道を歩むことになるであろう古い王国に背を向け、自分たちの手で未来を築くため、希望に満ちた西の辺境へと、その歩みを進めていった。
後に、歴史は語る。
王国を救い、そして、王国を捨てた、一人の天才的な魔術師がいたことを。
彼女が辺境に築いた、合理性と科学を国家の礎とする新たな国が、やがて、この大陸の常識を、そして、魔法の歴史そのものを、根底から塗り替えていくことになるのを、この時の王国の誰もが、まだ知る由もなかった。
王城の玉座の間は、勝利の祝賀とは程遠い、重苦しい沈黙に支配されていた。
そこに、リディアが、レオンとアークライト公爵を伴って、静かに入室した。玉座の前には、国王、そして、魂の抜け殻のようになったエドワード王子とセシリアが、力なく立っている。
国王は、やつれた顔に必死で威厳を取り繕うと、リディアに向かって宣言した。
「――リディア・フォン・アークライト。そなたの功績は、王国史に永遠に刻まれるであろう。よって、そなたに与えられた全権指揮権は継続し、さらに、エドワードとの婚約を再び結び、次期王妃として、この国を導くことを……」
「お断りいたします」
国王の言葉を、リディアは、一寸の ためらいもなく、冷たく遮った。
その場にいた誰もが、息をのむ。
「……な、何を、申すか」
「申し上げたはずですわ、陛下。わたくしの目的は、この国を救うことではない、と。あなた方が放置した『魔力汚染』という、世界に対する脅威を排除すること。その目的は、果たされました」
リディアは、もはや何の感情も浮かべぬ瞳で、エドワード王子を一瞥した。
「そして、この度の戦いで、はっきりと証明されました。祈りや伝統といった、あなた方が拠り所にしてきた非合理なシステムは、真の脅威の前では、あまりに無力である、と。そのような、基礎方程式そのものが間違っている国を、わたくしが導く価値はありません」
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「ええ。ですが、それも、もはやあなた方の手を煩わせる必要はありません」
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「わたくしは、辺境へ帰ります。そして、あの古代遺跡の技術を、わたくしの数式で完全に制御下に置きます。暴走した兵器ではなく、人々の生活を豊かにするための、クリーンなエネルギー源として」
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「そして、あの地に、新しい国を築きます。神への祈りでも、血筋による権威でもない。ただ、知性と合理性だけを尊ぶ、真に進歩した国を。身分も、過去も関係ありません。そこでは、誰もが、自らの知識と努力によって、正当な評価を得られる。わたくしが、それを保証します」
唖然とする王侯貴族たちを尻目に、彼女は、隣に立つレオンへと、穏やかな笑みを向けた。
「レオン。あなたも、来てくださいますわね? あなたの力は、新しい国を築く上で、必要不可欠なエンジンです」
「当たり前だろ」
レオンは、ぶっきらぼうに、しかし、その瞳に絶対的な信頼を込めて、頷いた。
「あんたの描く、その途方もない数式の答えを、最後まで隣で見届けさせてもらうさ」
その二人の間には、もはや主従も、師弟も、指揮官と兵士という関係もなかった。ただ、同じ未来を見つめる、対等なパートナーとしての、強い絆だけがあった。
リディアは、最後に、実の父親であるアークライト公爵へと向き直った。
「お父様」
「……」
「もし、古い伝統に縛られるのが嫌になったなら、いつでもいらっしゃい。わたくしの国は、いつでも、知性を求める者を歓迎しますわ」
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彼らは、滅びの淵から蘇り、これから長い復興の道を歩むことになるであろう古い王国に背を向け、自分たちの手で未来を築くため、希望に満ちた西の辺境へと、その歩みを進めていった。
後に、歴史は語る。
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彼女が辺境に築いた、合理性と科学を国家の礎とする新たな国が、やがて、この大陸の常識を、そして、魔法の歴史そのものを、根底から塗り替えていくことになるのを、この時の王国の誰もが、まだ知る由もなかった。
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