「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第9話:勇者パーティ、プライドを捨てて(上から目線で)連絡してくる

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 王都、場末の安宿。
 かつては高級ホテルのスイートルームを常宿としていた『シャイニング・ブレイバーズ』の面々は、薄暗い部屋でカップ麺を啜っていた。

「……金がねえ」

 ライオネルがポツリと漏らした。
 配信収益は激減。スポンサーだった武具店からは契約解除の通達。さらに、昨日の「仲間割れ配信」が原因で、ギルドから活動自粛と罰金を言い渡されていた。
 まさに踏んだり蹴ったりだ。

「ねえライオネル、これからどうすんの? あたし、こんな貧乏生活ムリなんだけど」

 ルルが伸び切った麺を箸で突きながら不満を垂れる。

「うるせえ! 分かってるよ! ……ちっ、これもあれも、全部あのジンの野郎のせいだ」

 ライオネルは逆恨みで拳を震わせた。
 ネット上では「謎のおっさん」ことジンが、フェンリルやドラゴンを手懐けたという話題で持ちきりだ。
 だが、ライオネルはそれを信じていなかった。いや、認めたくなかった。

「あんなの、どうせCGか特撮だ。俺たちの人気を妬んで、誰かに金借りて捏造動画を作らせてやがるんだ」
「でもぉ、ギルド本部が動いてるって噂もあるよ?」
「フン、どうせ『詐欺容疑』での呼び出しだろ」

 ライオネルは鼻で笑った。
 だが、事実はどうあれ、一つだけ認めざるを得ないことがあった。
 ジンがいなくなってから、自分たちの探索がボロボロだということだ。

「……仕方ねえ。泣きついてくるの待ってるつもりだったが、俺の方から声をかけてやるか」

 ライオネルはスマホを取り出した。
 彼の脳内変換では、ジンは今頃、辺境の過酷な生活に音を上げ、日銭を稼ぐために必死でフェイク動画を作っている「哀れな老人」になっていた。

「俺たちにはあいつの地味なサポートが必要だし、あいつには俺たちという『華』が必要だ。Win-Winってやつだな」

 ライオネルはニヤリと笑い、とてつもなく上から目線のメッセージを打ち込み始めた。

 ◇◇◇

 一方その頃。
 辺境の廃棄ダンジョン前は、香ばしい肉の匂いに包まれていた。

「いいかクロ、火加減は強火の遠火だ。焦がすなよ」
「グルァ(心得た)」

 ドラゴンのクロが器用にブレスの火力を調整し、巨大な串焼き肉を炙っている。
 その横では、フェンリルのシロが涎を垂らして待機中だ。

 俺は配信のコメント欄を眺めながら、視聴者と雑談を楽しんでいた。

「あー、『クロちゃんの背中に乗って空の散歩とかしないんですか?』って? いやあ、高いところ寒いし。俺、高所恐怖症なんですよ」

『ドラゴンをタクシー扱いできるのあんただけだよ』
『贅沢すぎる悩み』
『今日も平和だなぁ』

 同接数は安定して60万人超え。スパチャ(投げ銭)も飛んできているが、正直、ダンジョンで拾った宝石の方が高いのであまり気にしていない。
 そんな平和な時間を過ごしていた時だった。

 ピロン♪

 俺の手元のタブレットに、一件のDM(ダイレクトメッセージ)が届いた。

 通知設定を切るのを忘れていたせいで、配信画面の端にもポップアップが表示されてしまう。

「ん? 誰だ?」

 差出人は『勇者ライオネル』。

 俺は嫌な予感がして無視しようとしたが、タップミスで本文を開いてしまった。

 マイクが俺の声を、そして高画質カメラがメッセージの内容を、バッチリ拾ってしまう。

「えーと、なになに……」

 俺は無意識に読み上げた。

『ようジン。辺境での乞食生活、楽しんでるか?
 お前のフェイク動画、頑張って作ったみたいだがバレバレだぞ。
 まあ、その努力に免じて、特別にパーティ復帰を許してやる。
 ただし、給料は今までの3割カットな。あと、ルルの荷物持ちも兼任しろ。
 感謝して今すぐ戻ってこい。迎えに来いと言うなら座標を送れ。
 追伸:あの犬とトカゲのぬいぐるみ、どこで買った? ルルが欲しがってるからよこせ』

「…………」

 俺は沈黙した。
 怒りよりも先に、呆れが来た。
 3割カット? 復帰を許す? ぬいぐるみ?

 俺はチラリと横を見た。
 そこには、本物のエンシェント・ドラゴンが串焼きをひっくり返し、本物のフェンリルが骨をかじっている。
 ぬいぐるみ……ねえ。

「はぁ……」

 俺は深いため息をついた。
 コメント欄を見ると、一瞬で流れが止まり、その直後、爆発的な速度で加速していた。

『うっわ……』
『何このゴミメール』
『勇者ライオネルってここまで落ちぶれてたのか』
『「許してやる」って何様www』
『3割カットで草。おっさん今、スパチャだけでお前の年収超えてるぞ』
『トカゲのぬいぐるみ(全長50m)』
『地雷を踏み抜いたな』

 視聴者たちは完全に俺の味方だった。
 俺はカメラに向かって、ポリポリと頭をかきながら言った。

「だそうです。……ごめん、みんな。ちょっと返信だけさせて」

 俺は音声入力モードを起動した。
 全世界に公開される「お断り」のメッセージだ。

「えー、ライオネルへ。
 今、シロとクロと一緒にBBQ中で忙しいので無理です。
 あと、給料3割カットって言われても、俺、昨日の配信だけでお前の借金返せるくらい稼いじゃったしなぁ。
 というわけで、二度と連絡してこないでください。
 追伸:クロが『誰がぬいぐるみだ、丸焼きにするぞ』って言ってるんで、来ないほうが身のためだと思います。以上」

 送信ボタンをポチッ。

「グルルルルッ!!(激おこ)」
「ワフッ!(身の程知らずめ!)」

 シロとクロも同意するように吠えた。

『神返信』
『BBQ優先www』
『「稼いじゃったしなぁ」の煽り性能高すぎ』
『事実陳列罪で勇者が死んでしまう』
『これ、勇者側も配信見てるよな?』

 そう、見ていた。
 安宿の一室で、スマホを握りしめたライオネルの顔が、茹でダコのように真っ赤に染まっていくのを。

「あ、あいつ……! コケにしやがってぇぇぇぇッ!!」

 バキィッ!
 ライオネルのスマホが握りつぶされた。
 プライドをズタズタに引き裂かれた勇者の暴走は、もう止まらない。
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