「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

文字の大きさ
18 / 20

第18話:エルフの建築士たちが「弟子入り」してくる

しおりを挟む
 翌朝。

 「天空の温泉宿」での一夜を過ごしたアイリス王女は、肌がツヤツヤになって降りてきた。

「おはようございます、ジン様! 最高の朝ですわ! 空の上で迎える日の出、一生の思い出になりました!」
「そりゃどうも。よく眠れましたか?」
「はい! 岩盤が微動だにしないので、まるで揺り籠のようでしたわ!」

 王女は朝からハイテンションだ。
 俺は焚き火で焼いたパンと、ダンジョン芋のポタージュを朝食として差し出した。

「さて、姫様。朝飯食ったら帰ってくださいよ。国で待ってる人がいるでしょう」
「むぅ……帰りたくありませんけど、昨日の配信で『明日帰ります』と言ってしまいましたからね……」

 王女が渋々帰還の準備を始めた、その時だった。

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

 森の奥から、整然とした足音が近づいてきた。
 一人や二人ではない。数十人規模の集団だ。

「グルルル……(また人間か?)」
「ワフッ(今度は食べていい?)」

 クロとシロが警戒して身を起こす。
 俺も箸を止めて、ドローンの映像を確認した。
 昨日のような鎧を着た兵士ではない。
 森に溶け込むような緑色の狩衣をまとい、背中には弓ではなく、なぜかノコギリや金槌などの「大工道具」を背負った集団。
 そして何より特徴的なのは、その長く尖った耳。

「エルフ?」

 森の賢者にして、芸術を愛する誇り高き種族。
 人間嫌いで知られる彼らが、なぜこんな廃棄ダンジョンに?

「ジン様、あれは『緑風の工務店』……いえ、『森のエルフ族』ですわ! 世界最高の建築技術を持つ彼らが、攻めてきたのでしょうか!?」

 王女が慌てる。
 エルフたちが広場に入ってきた。
 先頭に立つのは、長い白髭を蓄えた厳格そうな老エルフだ。
 彼らは俺たち――いや、正確には俺の背後にある「浮遊する温泉宿」を見上げると、一斉に足を止めた。

「……おお」
「……なんと」
「……重力制御による構造力学の無視……いや、超越か?」
「あの曲線美を見ろ。削り出しの跡がない。一体どうやって……」

 ブツブツと何かを呟いている。目が怖い。
 老エルフが、震える足で俺の方へ歩み寄ってきた。

「人間よ。……いや、大棟梁おおとうりょう殿よ」
「誰が大棟梁だ」

 老エルフは、充血した目で俺に詰め寄った。

「あの空に浮かぶ離れ家……あれを作ったのは貴殿か?」
「まあ、俺ですけど。何か問題でも? 建築許可とか要りましたっけここ」
「問題などない!!」

 カッ! と老エルフが目を見開いた。

「我らは昨夜、遠くからあの建物が『生えてくる』のを見た! 足場も組まず、継ぎ目もなく、あのような巨大建築を一瞬で! 我らエルフが数百年かけて到達する建築の極意を、貴殿は息をするように成し遂げた!」

 老エルフは、その場に膝をついた。
 それに続いて、後ろにいた数十人のエルフたちも一斉に土下座した。
 壮観な光景だ。先日の勇者たちの「強制土下座」とは違い、こちらは完全に自発的な崇拝のポーズだ。

「頼む! 我らを弟子にしてくれ!!」
「「「弟子にしてください!!!」」」

 森にこだまする大合唱。
 俺はポカーンとした。

「いや、弟子って言われても。俺、大工じゃないし」
「謙遜は不要! あの『浮遊工法』、そして岩盤を一瞬で加工する『重力彫刻』! あれこそ我らが追い求めた神の領域! 学ぶまではここを一歩も動かんぞ!」
「迷惑すぎるだろ」

 俺が拒否しても、エルフたちは動かない。
 むしろ、「師匠の許可が出るまで、我々の腕を見てもらおう!」と言い出し、勝手に動き始めた。

 カンカンカン! トントン!

 エルフたちが持参した道具で、周囲の木材を加工し始める。
 その手際は魔法のように鮮やかだった。

「おい、そこの木材! 乾燥が甘いぞ!」
「基礎魔法陣を展開! 水平を取れ!」
「師匠が見ているぞ! 恥ずかしい仕事をするな!」

 見る見るうちに、ダンジョンの入り口付近に、芸術的で美しいログハウスが建っていく。
 釘一本使わない「木組み」の技法。隙間風一つ通さない精密さ。

「……すげえな」

 俺は素直に感心した。
 俺の重力魔法は大雑把な土木工事には向いているが、こういう繊細な「住居」を作るのは専門外だ。
 正直、今の俺の住処(洞窟)より遥かに快適そうだ。

「どうだ師匠! これなら弟子入りの手付金として認めてもらえるか!」

 老エルフが鼻息荒く完成した家を指差す。
 俺は少し考えた。
 こいつらを追い返すのは簡単だ(重力で飛ばせばいい)。
 だが、これからここを拠点にするなら、まともな「家」や「倉庫」は欲しい。
 それに、王女の相手や、今後来るかもしれない来客の対応を全部俺がやるのは面倒だ。

「……はぁ。分かったよ」

 俺はため息交じりに言った。

「弟子にするかは保留だ。でも、ここに住むのは許可する。その代わり、俺の住む家と、畑の柵を作ってくれ。あとシロの犬小屋も」
「おお! 交渉成立だ!」
「聞いたかお前たち! 師匠の家、神殿を作るぞ! 我らの技術の全てを注ぎ込むのだ!」

 ウオオオオオッ!!

 エルフたちが雄叫びを上げて作業に戻る。
 その熱気を見て、配信中のアイリス王女が呟いた。

「ジン様……ここ、もう『国』ではありませんの?」

 コメント欄も同意の嵐だった。

『エルフまで住み着いた』
『技術力の無駄遣い』
『この村、建築レベルがカンストしてる』
『フェンリルがいて、ドラゴンがいて、エルフがいる。もしかしてここが「約束の地(アヴァロン)」か?』
『犬小屋(国宝級)』

 こうして、俺の静かなスローライフ(予定)の場は、世界最高峰の技術者集団「エルフ工務店」の参入によって、急速に発展し始めることになった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

「男のくせに料理なんて」と笑われたけど、今やギルドの胃袋を支えてます。

ファンタジー
「顔も頭も平凡で何の役にも立たない」とグリュメ家を追放されたボルダン。 辿り着いたのはギルド食堂。そこで今まで培った料理の腕を発揮し……。 ※複数のサイトに投稿しています。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました

かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」 王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。 だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか—— 「では、実家に帰らせていただきますね」 そう言い残し、静かにその場を後にした。 向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。 かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。 魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都—— そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、 アメリアは静かに告げる。 「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」 聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、 世界の運命すら引き寄せられていく—— ざまぁもふもふ癒し満載! 婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

処理中です...