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2nd フェーズ 集
No.38 ご主人様お暇を頂きます
しおりを挟むヴィクトリアの協力もあって、ブルジョを襲撃しに来た犯人たちを撃退したユキチカ達、彼らは今キビのオフィスに来ていた。
「襲撃犯はこちらで今確認した。お疲れ様ですっと」
キビは部下からの連絡を共有した。
「はぁ、運転緊張したぁ」
「シャロ様、少し横になられては?どうぞ」
シャーロットはウルルに膝枕をしてもらう。
「あー!ユキちゃん!無事だったんだね!」
「ご主人さまもー、おつかれー!」
ユキチカとブルジョは再会のハグをしている。
「おつかれさまです、ヴィクトリアさん」
「メイドの長としての責務を全うしたまでですよ。イーナさんもお疲れ様でした」
ジーナとヴィクトリアはお互いに労いの言葉をかけていた。
「予想外の展開だなこれは」
「えー本当ですか?」
キビの顔を覗き込むコウノ。
「流石に襲撃犯とかち合うとは想像してなかった。その手がかりとかが見つかるかなー程度しか思ってなかった」
すると彼女の端末に再び連絡が入る。
彼女はユキチカ達に背中を向けて連絡に対応する。
「キビだ、どうした報告漏れでもあったか?なにをそんな慌てて、……え?」
キビの表情が固まった。そして電話をきる。
「……お二人はこちらが用意する宿泊施設で今晩過ごしてください。上に連絡すればすぐ用意してくれますから。今晩だけは護衛をつけさせてくださいね」
彼女は振り向いてそういった。
「え?ああ、分かった。やっかいになるよ」
ブルジョは多少キビの態度が気になりつつもヴィクトリアと共にオフィスを出て行った。
「どうしたんですかキビさん?もしかしてさっきの連絡、何かあったんじゃ」
ジーナがキビに先ほどの連絡について尋ねる。
「正にそれについて話そうと思っていたところ。あの二人には少し刺激が強すぎるだろうから、また後日整理して私から伝える」
キビは真剣な顔をしていた。
「襲撃犯を乗せた護送車が爆破された」
「え……!?!」
ジーナが口を手で覆う。
この時より10分程まえ。
襲撃犯は捕らえられ護送車に入れられていた。
じきに運転手が来て彼女たちは運ばれる。
運転手は出発前の確認を車の外で行っていた。
「も、申し訳ございません」
その護送車の中で意識を取り戻した襲撃犯の1人が誰かに謝る。
「いやいや、何も謝る事はない。本当に期待以上の働きをしてくれた」
彼女達に加工された声が返答する。
「ありがたきお言葉、最後に貴方様の御役に立てたのなら光栄です……ごふっ、すみません、透明化を使った私達はもうそこまで長くないみたいです」
「君たちを失うのは私もこの上なく心苦しい。しかし君たちがそのまま護送されてしまったら我々の技術をはじめ様々な情報を抜き取られてしまうだろう」
加工された声がそう言うと他の襲撃犯も応答する。
「ええ、私達、いや人類の正道を邪魔する者達に伝わってはいけませんから。これを守るために殉職出来るのなら本望です」
「そう言ってくれるか、素晴らしいよ。君たちの功績は未来永劫語り継がれるだろう。先に向かって待っていてくれ」
この言葉を放ち声の主は手を上げた、それを合図としてなのか、襲撃犯たちから警告音が鳴り響く。
「ねえ、なにか音しない?」
周囲の警官たちがその音に気付く。
次の瞬間、護送車が爆発。
煙と炎が夜の街から立ち上った。
「幸い現場の者は無事だった、護送車の運転手も離れていたそうだ……」
「それじゃあ、護送車の中にいた襲撃犯の人たちだけが」
ジーナがそう言うとキビはゆっくりとうなずく。
「あの人たちが身に着けていた装置、あれに組み込まれていたんだ。情報が洩れないようにするための自爆装置が」
キビの話を聞いてシャーロットがそう言う
「その犯人が付けていた装置というのは具体的にはどういうものだったかな。もしできるなら共有して貰えると助かる」
「たぶんベースは市販されている身体能力を補強する為の外骨格フレーム。アンドロイドがまだ普及していない地域などで肉体労働する人や、身体機能の低下などで体を動かせなくなった人に向けて販売されているもの。それを改造しているんじゃないかなって」
シャーロットはキビからの質問に答える。するとユキチカが横から会話に入って来た。彼の手にはどこから貰って来たのかカツ丼があった。
「あと見えなくなってた!」
「見えなくなってた?」
「え、何それ」
キビとシャーロットが彼の話に興味を持つ。
「あの人たちね、急にスゥーってみえなくなったの!上から水かけても全然みえないの!それでね、ジーナがぴちゃぴちゃってあの人たちの音で見つけたの!」
情報を消化しきれない様子のキビとコウノはジーナとシャーロットをみた。
「えーっと急に相手が見えなくなったので、スプリンクラーを作動させたんです。姿を消したとしても水が体に当たれば弾かれるだろうから、それで判別できると思って。でも違いました、結局相手の足音を頼りに攻撃するしかなくて。辺り一面水浸しだったのに音以外なにも無くて、足跡すらなかったんですよ」
ジーナがそう話すとシャーロットが首をかしげる。
「確かにおかしいね。光学迷彩ならそんな事は出来ない筈」
「その光学迷彩って?」
キビがシャーロットに尋ねる。
「カメレオンとか動物にいるじゃないですか、周囲の風景に溶け込む為に体の色を変えたりする生物。そこから進んで光を屈折させたりしてその姿を見えないようにする技術とかの事です。まあどれもSFに出てくるようなものに比べたらまだまだだけど」
「ですが姿を視認させづらくするだけですよね?」
ウルルの発言にシャーロットが頷く。
「うん、やってる事は周囲の風景に紛れてるだけだから。雨とかが降ったら体の部分は雨が弾かれ輪郭が分かるだろうし、ましてや水たまりに入ったらその部分は水の形が変わって見えるはずだよ」
「でも今回の犯人はそうならなかった……」
「うーん、なんだろう」
ウルルとシャーロットの会話が終わるとユキチカが大きなあくびをする。
「ねむい」
「そうですね。今日は皆さんお疲れでしょうから、また後日この件ついて調べて行きましょう。今日はもう遅いのでうちの仮眠室使ってください」
コウノの提案に皆は賛同し、皆は休むことにした。
翌日ユキチカ達はブルジョの元に訪れていた。
ここ周辺では一番豪華なホテルの最上階、そこに警官の警護つきで彼は宿泊していた。
「屋敷はそこまで被害が無かった、幸いね。だから今日中には修理してもらって帰るとするよ。やはり我が家が一番落ち着くからね」
「それで、皆さんはどうされますか。また明日から家で働かれますか?」
ヴィクトリアがユキチカにそう言う。
するとユキチカ含め3人はお辞儀をした。
「そうですか。まあそのような予感はしていました」
ヴィクトリアはそう言ってほほ笑む。
「ご主人さま、おヒマを頂きます」
ユキチカは先ほどウルルから教わったであろうセリフを言った。
「……そうか、そうだね。あんな危険な事もあったし、君たちには何かやらないといけないことがあるんだろう?分かるんだ、僕も経営者の端くれ、色々な人を見て来た。残念ながら君たちにとってメイドの仕事というのは退屈すぎるみたいだね、もっと冒険に満ちた世界こそ君たちの能力が活かされるのだろうね」
そういうブルジョの表情はどこか寂しそうだった。
ユキチカは彼に近づく。
「じゃあ元ご主人様、これからは友達!メイドちょーも!」
そう言って彼はブルジョにハグをした。
「ともだち、ああ!そうだな!君たちは私の命を救ってくれた、そんな君たちと友達になれるならこれ以上に嬉しい事はそうはないだろう。いつでもうちに来ておくれ、最大限の歓迎をするよ。それに困ったことがあった時も頼ってくれ、喜んで協力するよ!」
ブルジョは嬉しそうに笑う。
「すっごい友達ができちゃったね」
「うん、まさかこうなるとはね」
「ユキチカ様らしいですね」
ジーナ、シャーロット、ウルルはそんな二人をみてどこか嬉しそうに話した。
そしてヴィクトリアもそんな二人をみて、うっすらと浮んだ涙をぬぐう。
「よかったね、ブルジョ」
こうしてユキチカ達のメイド生活は幕を閉じたのだった。
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